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早朝、女子代表ブラックファーンズがワールドカップ(以下、W杯)準決勝で敗れた。
まさにハートブレイキングなスタートとなった9月20日。夕方には、NPC(ニュージーランド国内州代表選手権)でオタゴが強敵カンタベリーを撃破する。「ランファリーシールドを奪取」してお祭り騒ぎとなった。
同日は失望と歓喜が同居するラグビーの一日だった。国内のラグビーファンの心に強い印象を残した。
◆【RWC2025】準決勝でカナダに完敗、ブラックファーンズの夢消える。
オールブラックスが9月13日にスプリングボックス戦で10-43と衝撃的大敗を喫した後、NZの人々は気持ちを切り替えるかのように、イングランドで開催中の女子W杯準決勝に注目と期待を寄せた。
ブラックファーンズの対戦相手は宿敵のカナダ。昨年は19-22で敗れ、今年の5月の対戦は27-27で引き分けと、近年めっきり力を付けてきている強敵との対戦に、NZ国内にはナーバスな空気が漂っていた。さらに、好調だったセブンズのスターFLジョージャ・ミラー欠場の発表が追い打ちとなり、不安は大きくなっていた。

◆カナダの勢いに押され、自分たちの力を出し切れず。
9月20日、午前6時(現地イギリス時間、9月19日午後7時)キックオフ。ブラックファーンズはハカで気持ちを高めたが、カナダは動じることなく冷静だった。ハカが終わるとすぐに試合準備へ切り替え、集中力を高めた。
キックオフ。カナダの試合の入りは完璧だった。堅実なFW陣が前に出て、SHジャスティン・ペルティエの巧みなランと素早いリサイクルで主導権を握る。劣勢を強いられたブラックファーンズは前半25分までに0-17とリードを許した。ハーフタイムは7-24。
逆転の望みをつなぐには後半最初にトライを挙げるのがマストと思われた。しかし、開始直後に5点を加えたのはカナダで、43分の時点で7-31とされた。試合内容からも、勝負は決してしまったように見えた。

【写真右上】試合前のナショナルアンセム。
【写真左下】敗戦後、ブラックファーンズはハドルを組んだ。
【写真右下】試合終了後のHOジョージア・ポンソンビー(左)とチェルシー・ブレムナ。
◆敗因はFWの劣勢と規律、エラーの多さ。
最終スコアは19-34。ブラックファーンズは反撃の2トライを挙げたものの、FW戦で劣勢、規律を欠いて反則、カナダのラッシュディフェンスに苦戦と圧倒された。最後まで決定力のあるBK陣を活かせず、力を出し切れなかった。大事な場面でのエラーの多さも勝敗に大きく影響した。
カナダは安定感抜群のセットピース(スクラム、ラインアウト)に加え、正確かつ確実にチャンスをものにするエクスキューション(遂行力)を見せた。また、60分ごろまで反則がゼロという規律の良さも際立った。
試合後のブラックファーンズの選手たちのインタビューでは、傷心も、涙をこらえながら話す姿が印象的だった。
共同キャプテンのケネディー・トゥクアフは「規律を守れず、ボールを確保できなかった。勢いに乗ることができなかった。強い相手を前にタフな試合だった。残念ながら、きょうは私たちの日ではなかった」と振り返りつつ、「しかし、私たちのここまでの努力を誇りに思うし、応援してくれたすべての人に感謝している」とサポーターへの感謝も忘れなかった。

「もしジョージャ・ミラーが出場していたら」という声もあった。しかし、内容を見る限り結果を変えるのは難しかっただろう。全員がプロのブラックファーンズに対し、カナダは多くのアマチュア選手を含んでいる。ハングリー精神と組織力で戦った、見事な勝利だっ。
2023年にオールブラックスがW杯を逃し、今回はブラックファーンズが準決勝で敗退。世界のレベルが上がり、ラグビー王国NZの存在感はかつてほど圧倒的ではなくなっている。
ブラックファーンズの次戦は9月27日の3位決定戦。イングランドを苦しめたフランス相手に、プライドを示すことができるだろうか。
◆強敵カンタベリーからオタゴがシールド奪取で喜び爆発。
同じ9月20日の夕方はNPCが熱かった。前週(9月14日)、保持しているランファリーシールドの初の防衛戦をホームのクライストチャーチで戦い、死守したカンタベリーが、この日もチャレンジを受けた。今回はオタゴが相手。再びクライストチャーチでの戦いだった。
※シールド保持者のチームは、NPCのレギュラーシーズンのホームゲームで戦う場合、その試合は自動的にシールドチャレンジ戦となる。

【写真右上】カンタベリーの激しいタックル
【写真左下】スクラムに力が入る。
【写真右下】試合後のカンタベリー代表13番、Riko Yoshida/吉田琳恒

この日は、女子のカンタベリー×BOP(ベイ・オブ・プレンティー)に続くダブルヘッダーでおこなわれた。男子の試合はシールド戦とあり、前週に続き、多くの観客がスタジアムに足を運んだ。
試合はシールド保持者カンタベリーが序盤から攻勢に出て、素早いリサイクルから2トライを奪い、14-0と最高の立ち上がりを見せた(16分)。その後オタゴがトライを返して追い上げるも、その都度カンタベリーが取り返す。前半は24-14とカンタベリーリードで折り返した。
後半、オタゴは7番ルーカス・ケイシーのトライと10番キャメロン・ミラーのコンバージョンで24-21と3点差に迫るも、カンタベリーが2連続トライで36-21(53分)と突き放す。この時点でカンタベーのシールド防衛が濃厚に見えた。
しかし粘るオタゴは57分、62分と連続トライでと追い上げる。さらに67分、モールからHOリアム・コルトマンがトライ、SOミラーのコンバージョンキックも決まり、この試合で初めてリードを奪う。スタジアムはどよめいた。
オタゴ38点。カンタベリー36点。残り時間は13分。逆転を許したカンタベリーに十分な時間はあったが、結局オタゴが守り抜いて15点差を跳ね返す見事な逆転勝利でシールド奪取に成功した。
劣勢からチームを奮い立たせたのは、7番ルーカス・ケイシー。BKを振り切るほどの鋭いフットワークでディフェンスを切り裂いた2トライは、まさに衝撃的だった。

【写真右上】この日2トライの大活躍。オタゴ代表ルーカス・ケイシーのトライ。
【写真中段左】ランファリーシールドと、カンタベリー&オタゴ間の対戦にかかるトロフィー
【写真中段中】白熱した後半。カンタベリーSHルイ・チャップマン
【写真中段右】ファンで埋まったスタンド
【写真下】喜びを爆発させるオタゴ代表
◆ランファリーシールド奪取でお祭り騒ぎ。
フルタイムの笛が鳴った瞬間、オタゴの選手たちは輪になって飛び上がり、こぶしを突き上げる。2020年以来5年ぶりのシールド奪取に喜びを大爆発させた。
ランファリーシールドではチャレンジした側が勝利した際(今回で言うとオタゴが挑戦者で勝利)、保持者キャプテンから、勝者キャプテンにシールドが引き渡される儀式がある。
その前に両軍のキャプテンのインタビューがあり、まず敗者(今回で言うと試合前にシールド保持していたのカンタベリー)のキャプテン、トム・クリスティーが、「彼らは諦めることなく戦い続けた。チャンスを伺い、こちらがその機会を与えたとき、見事に飛びかかってきた。今大会で(現在)1位と2位を争うチームの戦いだった」と熱戦を振り返った。
続いて勝者のオタゴのキャプテン、サム・ギルバードが「この試合(シールド戦)に挑むにあたり、全員が覚悟していた。80分でそれが証明できたと思う」と語った。

シールドがオタゴに渡ると、選手たちはシールドを天に掲げ、雄たけびあげる。勝利の歌を歌う。いつもの光景が繰り広げられた。その後、選手たちはスタンドに駆け寄り、敵地にも関わらず駆け付けたファンと喜びを分かち合った。
ダニーデンからも多くのファンが駆けつけていた。
その中には、元日本代表の田中史朗さん(2012~2013年オタゴ、2013年~2016年はハイランダーズ所属)の「自称兄弟」という青年がいた。掲げていたのは、田中さんとファンが一緒に写った当時の写真を拡大した応援ボード。存在感を放っていた。観戦に訪れた日本人との交流もあり、オタゴファンにとっては忘れられない土曜の夜となった。
あらためてランファリーシールドの重みを実感する光景、お祭り騒ぎだった。あちらこちらに笑顔が広がっていた。今年はすでにシーズン中に4度もシールド保持者が入れ替わり、これは1950年以来75年ぶりの出来事だ。
シールドが動きまくる今季のNPCは、例年以上の熱気を帯びている。
ブラックファーンズの敗退でハートブレイキングから始まった一日は、オタゴのシールド奪取の興奮で終わった。ファンにとっては、「ラグビーという不思議な魔物」の存在を思い知る日となった。
観客減少の懸念は残るものの、この日の熱狂を見る限り、NZラグビーには底力がある。

【写真右上】同点トライを挙げたコルトマンは元オールブラックで2019年W杯出場
【写真左下】田中史朗さんのオタゴ時代の写真を持っていたファン
【写真右下】田中さんの写真を持つオタゴファンと日本人の観客が触れ合っていた