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歴史のあるシールド(盾)を懸けた戦いに、スタジアムは熱狂に包まれた。
9月14日、ニュージーランド(以下、NZ)は、春の訪れを感じさせた。桜が咲き誇るクライストチャーチで、NPC(NZ国内州代表選手権)カンタベリー×タズマンが激突した。
試合はロスタイムまでもつれ込む死闘となり、カンタベリーが逆転トライで31–25とタズマンを振り切った。NPCレベルを超え、スーパーラグビー級の迫力を放った一戦には、特別な背景があった。
◆ NZラグビーを熱くする「ランファリーシールド」。
NZラグビーで特別なトロフィーのひとつとされるのが『ランファリーシールド』だ。Log o’ Wood(ログ・オ・ウッド/丸太の盾)の愛称を持つこのシールドを手にするため、選手たちは全身全霊をかけて挑む。
歴史を遡れば、1902年にオークランドが無敗シーズンを収めたことをきっかけに、最初の保持者となったことから始まる。その2年後の1904年、挑戦試合でウェリントンが勝利し、そこから「シールドチャレンジ文化」が誕生した。それ以来120年以上にわたり、全国各地でシールドチャレンジが繰り広げられ「シールドを巡る熱狂」は衰えることがない。今日でもNZスポーツにおいて、地域を盛り上げる役割を果たしている。
◆2025年、動き続けるシールド。
今季は、タラナキが保持者としてシールドチャレンジが始まった。同チームは、昨季最終戦でタズマンからシールドを奪った。
しかしシールドは、8月23日にワイカトが23-22で奪取し、さらに翌週の8月31日には南島最南端のサウスランドが25-10と勝利し、シールドを獲得。そして翌週9月6日には、カンタベリーが54-14とサウスランドに圧勝し、2020年以来5年ぶりにシールドを手にした。
その保持直後の9月14日、カンタベリーはホームのクライストチャーチでシールド初防衛戦としてタズマンの挑戦を受けた。
※ランファリーシールド保持チームは、NPCのホームゲーム=同シールドを懸けた試合となる。

◆スーパーラグビーの選手が並ぶ豪華な共演。
9月14日は暖かかった。午後、伝統のランファリーシールド・チャレンジが、カンタベリーの本拠地のアポロ・プロジェクツ・スタジアムで開催された。
クルセイダーズ地区のチーム同士、カンタベリー×タズマンの出場選手は大物揃いだった。
カンタベリーは、LOサム・ダリー、LOジェイミー・ハナ、FLトム・クリスティー、WTBチェイ・フィハキ、さらにCTBコンビは代表キャップを持つダラス・マクロード、ブレイドン・エノーが名を連ねた。
一方のタズマンも豪華な布陣。LO陣がクイン・ストレンジとアントニー・シャルフーン、SHミッチ・ドラモンド、WTBマッカ・スプリンガー、FBデイヴィット・ハヴィリなどキャップ保持者も含む選手が出場。両軍ともクルセイダーズの主力やスーパーラグビー経験者が揃った。
さらには、来季クルセイダーズに復帰するCTB/WTBレスター・ファインガアヌク(タズマン)、HOジョージ・ベル(カンタベリー)が代表からリリースされてメンバーに加わり、試合は一層華やかになった。

◆ シーソーゲームの熱戦。
エンタテイメント満載だったこの試合、両軍は最初からスイッチが入っていた。
開始わずか2分、シールド奪取に挑むタズマンがバックスの見事な連携からSHドラモンドのトライで先制。立ち上がりから観客を沸かせる展開となった。
その後もスーパーラグビー勢を中心に熱い攻防が続く中、来季クルセイダーズで正契約を狙うカンタベリーのSHルイ・チャップマン(元タズマン)が存在感を発揮した。自ら2トライを奪い、さらに前半終了間際には巧みなクロスキックでWTBフィハキのトライを演出。トライライン付近の空中戦でFBデイヴィッド・ハヴィリに競り勝ったフィハキがそのまま押さえ込み、カンタベリーが逆転した。19–15と前半をリードして折り返した。
後半に入り、勢いが増したのはタズマンだった。ハヴィリ兄弟(10番ウィリアム、15番デイヴィッド)の巧みなプレー、12番ファインガアヌクの強力な突進から何度もチャンスを作る。モアナ・パシフィカから来季チーフスでプレーをするWTBカイレン・タウモエフォラウ(56分)、そして、強力な突進を見せたHOトマシ・マカ(60分)がトライを決め、25–19と逆転に成功。シールド奪還が現実味を帯びた瞬間だった。
勢いからみると、タズマンがそのまま逃げ切るかと思われたが、カンタベリーはフォワードの見事なハンドリングスキルでつなぎ、LOサム・ダリーがトライを決めて24–25と1点差に迫る(69分)。
迎えたロスタイム、カンタベリーは敵陣で25フェーズにわたる怒涛の攻撃を展開。勝利するにはミスが許されない状況で、集中力を切らさず、最後は途中出場のHOベルがインゴールに飛び込んで試合を決めた。
83分間の死闘を制し、カンタベリーが31–25でシールドを守り抜いた。

◆勝者の喜び爆発。歴史に残る、白熱のシールド戦。
フルタイムの笛が鳴ったその瞬間、カンタベリーの選手たちは雄叫びを上げ、こぶしを突き上げて喜びを爆発させた。ゲームキャプテンのトム・クリスティーは観客に向かって何度も両手を振り上げ、珍しく感情をあらわにした。
試合直後のSky Sportのインタビューでクリスティーは「最後まで戦い続けたチームを誇りに思う」と胸を張り、「厳しい戦いになるのは分かっていた、そこには常に独特の緊張感がある。決して完璧ではなかったが、この勝利はしっかり祝いたい」と語った。
敗れたタズマンのキャプテン、デイヴィット・ハヴィリは、「これこそシールド・ラグビーだ」と語り、「最後まで接戦だったが、カンタベリーのボーイズ(選手たち)は最後まで粘り抜いた」と悔しさの中でも相手を称えた。
◆ファンにも愛される「ランファリーシールド」。
近年、NPCは入場者数の低迷が続いている。しかしこの日はシールド戦とあり、多くの観客が訪れた。
午後2時のキックオフという時間帯も後押しし、子連れのファミリー層がスタジアムに駆け付けた。あちらこちらで、子どたちがボードに応援メッセージを書き、声援を送る姿は微笑ましかった。
試合後にはカンタベリー地区の慣例としてファンがピッチに降り、選手たちと交流することが許される。いまかいまか待ち構えていた子どもたちが一目散にピッチに入って、お気に入りの選手に向かって駆け寄る。その光景を見るたびに、NZラグビーの良さを感じる。

この日はシールドにも人々が殺到した。子どもからベテランファンまで、奪取後初めてホームで守ったシールドと一緒に写真を撮り、満面の笑顔を浮かべていた。まるで誰もが子どもに戻ったかのような表情だった。地域のファンにとって、「ランファリーシールド」が特別な存在であることがあらためて伝わる光景だった。
日曜日午後の試合は、カンタベリー地区のラグビーファンにとって思い出に残るものになった。
◆カンタベリー所属の三宅は、出番を待つ。
今季カンタベリー代表と正式契約をした三宅駿(みやけ・しゅん)は、試合前にピッチでフィットネストレーニングをおこなう姿があった。この大一番ではメンバー入りはならなかった。今季はまだ、第5節(8月30日)のマナワツ戦で途中出場したのみだ。
NPC開幕前のクラブラグビー決勝で活躍した際、「簡単ではない」と語っていた三宅。その言葉通り、カンタベリーはオールブラックス経験者やスーパーラグビー選手がひしめき、層の厚いチーム状況にある。昨季は先発出場も経験しており実力は証明済みだ。今後の出番が待たれる。
カンタベリーは今季NPCで、ここまで7戦全勝で首位を走る。次戦は9月20日、同2位(5勝2敗)と今季好調のオタゴを相手にホームでシールド防衛戦。再び熱い戦いが待っている。
