![優勝への一歩目、チームカルチャーはすでにある。レオン・マクドナルド[横浜キヤノンイーグルス新HC]](https://www.justrugby.jp/cms/wp-content/uploads/2025/09/KM2_4563_2.jpg)
Keyword
その日、東京都町田市にあるキヤノンスポーツパークには秋の訪れを感じさせる空気が漂っていた。
ファンクラブの多くの会員が見守る中でトレーニングする選手たちも、過ごしやすい気温の中で動きもスムーズだった。
5季にわたってチームの指揮を執っていた沢木敬介監督の退任により、新しく指揮官に就いたレオン・マクドナルド ヘッドコーチ(以下、HC)が積極的にトレーニングをリードしていた。
181センチの身長より大きく感じる。同日は、練習後に報道陣相手の記者会見が予定されていた。
会見の最初に同HCは、日本に戻って来た喜びを口にした。
現役時代はトップリーグ(リーグワンの前身)でプレーし、ヤマハ発動機ジュビロ(2004年度/現・静岡ブルーレヴズ)、近鉄ライナーズ(2009年度/現・花園近鉄ライナーズ)に所属した。「指導者として日本に戻ってこられて、とても嬉しい」と笑顔で話した。
「ラグビーと日本での生活の両方を心から楽しみにしている」と言うマクドナルドHCは、新生活について「いいスタートを切れている」とした。
「チーム合流から非常に充実しています。プレーヤーは非常にフレンドリーに迎えてくれました。そしてコーチ陣も互いに支え合っている。チームとして機能しています」
新しいチャレンジの地として日本を選んだ理由のひとつを、「世界トップレベルのコーチたちがいる」と話した。
昨季まで監督を務め、今季からエグゼクティブアドバイザーに就いた埼玉パナソニックワイルドナイツのロビー・ディーンズ氏と、東芝ブレイブルーパス東京のトッド・ブラックアダー、コベルコ神戸スティーラーズのデイブ・レニー両HCの存在を具体的に挙げ、「(そういう指導者のいる)競争力の高い大会で戦いたいと考えました」。

イーグルスを、もう一段階引き上げることにも魅力を感じている。
「チームには新しく変化することもたくさんあり、いまは、そのストラクチャーを組み立てているプロセスの中にある。これまでイーグルスを築いてきたコーチ陣に感謝します。非常に強いチームに育て、残してくれた。とても仕事がしやすい」
目標は「もちろん優勝」に定める。
「他の11チームも同じ目標を持っています。だからこそ、毎日にしっかりと目的を持ち、成し遂げていく。それを積み上げていくことにチャレンジします」
「ベテランと若手のバランスがとれている」ことをイーグルスの強みと感じている。
「選手たちにはチーム、そして仲間たちをお互いにケアするカルチャーが根付いていると思います」
チームカルチャーこそ、同HCが重要視するものだ。
かつてスーパーラグビー、ブルーズの指揮官を務めた際もチームに文化を根付かせ、才能ある選手たちの力を引き出した。
「ブルーズにはいいタレントが集まっていました。しかし、チームとして戦えていなかった。フィールドの中でチームとしてプレーする。お互いのためにプレーする。そういうカルチャーを作りました」
2019年から5シーズン指揮を執ったブルーズでは、2021年にスーパーラグビー・トランスタスマンで優勝し、2022年のスーパーラグビー・パシフィックで決勝進出を果たしている。

◆アタッキングラグビーを。よりスマートに。
チームビルディングの第一歩と考えるチームカルチャーがすでにあるイーグルスでは、グラウンド上のパフォーマンスを伸ばすことに集中できそうだ。
「ラグビーのゲームを進化させていきます。いい選手が十分そろっています。一人ひとりが、それぞれのステージでレベルアップしようと努力してくれています」と、チーム全体の取り組む姿勢を評価する。
「ニュージーランドと日本の選手には多くの共通点がある」という。その上で「日本の選手はアタッキングマインドを持っていて、特に10番に攻撃的な選手が多い」と見る。
足りないところも指摘する。「同じモチベーションでディフェンスすることも新たに積み上げていかないといけません」
現職についての話をし始めた時以来、リーグワンの試合を映像でチェックしてきた。
「イーグルスには大きなポテンシャルを感じました。アタックがいい。ただ取るべき(得点すべき)ところで取れていない。集中力が落ちる時間があり、それが勝敗に直結していたように思います」
得点シーンを回想し、「特にBKは優れたトライを取っていました。リーグ全体の中で見ても素晴らしいものが多くあった」としながらも、FWも含め、さらにバランスのいいチームにしたい。
「アタッキングラグビーをしたい。それが、チームの強みでもあると思うし、さらにスマートにプレーしたい。フォワードのことも考え、テリトリーもコントロールしていく必要がある」
そしてここでも「ディフェンスに対しても同じ熱でやれるチームになる必要がある」と話し、防御への意識を全体で強めていく必要性があることを強調した。
現役時代、ハードなディフェンスでならす人だった。その激しさは、脳震盪で何度もドクターストップがかかるほどだった。

1977年12月21日生まれの47歳。ニュージーランドの南島の北部、ブレナムの出身で、広く知られたラグビー一家で育った。前日本代表HCのジェイミー・ジョセフは親戚にあたる。
マルボロ・ボーイズカレッジ在籍時、16歳でマルボロ地区(NPC 3部)の代表選手に選ばれた。1997年からスーパーラグビーでもプレー。クルセイダーズ(1997~2009年)、チーフス(1998年)に所属して活躍し、2000年からオールブラックスのジャージーも着た。
SO、CTB、FBとしてプレーし、2008年までに56のテストマッチに出場。2003年のワールドカップにも出場している。
◆チームファースト。ハードワーク。エゴはいらない。
コーチングキャリアは、NPCタズマンのアシスタントコーチで始めた(2010~2015年)。2016年から3季、同チームのHCに。2017年はスーパーラグビー、クルセイダーズのアシスタントコーチも務めている。
前述のように、2019年から5季、ブルーズのHCに就く。その実績を評価され、2024年にはオールブラックスのコーチングスタッフに名を連ねた。
同職を短期間で終えたのは、HCのスコット・ロバートソンとの(アタック面についての)考え方の相違と言われている。
2025年のスーパーラグビーシーズンはフォース(オーストラリア)のコーチングコンサルタントを任され、イーグルスHCの職は、6月27日に発表された。
「先入観は一切ない。すべての選手がセレクションの対象」とするマクドナルドHCは、頭の中に描くプレースタイルを実現させることを考えつつ、「ハードワークできる選手を選びます」と明言した。
「トップチームに勝つにはフィジカリティは重要です。そこは外せません。ベテランの経験と若手のやる気、思いをミックスしていくことにわくわくしています」
イーグルスのことを知るために多くの試合の映像を見たのと同様、トップに立つために倒す必要があるワイルドナイツやブレイブルーパスの試合映像も研究し、旧知の仲である両チームの、ロビー・ディーンズ、トッド・ブラックアダーという両指導者ともいろいろ話した。
「話を聞けば聞くほどリーグワンでの仕事にわくわくしました。そして、ロビーもトッドも(自分も育った)クルセイダーズ出身なので、(自分と)同じ価値観を持ってチームを作っていると感じました。大事にしているのは、チームファースト、ハードワーク、そして(個人的な)エゴに走らないこと」

自身の指導哲学については、「ラグビーをできるだけシンプルにする」と言い、「はやくプレーする」ことを追求する方針を示した。
そして、「日本代表へ、より多くの選手を送り出したい」とも話した。
キャプテンについては、「私たちコーチたちと一緒になって戦ってもらう存在」と言うだけに、「とても重要なこと。ベストな判断をしたいので時間をかける」とした。
「昨年のリーダーたちとも話しています。いいリーダーがたくさんいるので選ぶのは頭が痛い。プレシーズンゲームが進んだ段階、適切なタイミングで発表します」
右肩上がりに階段を上がっていたチームは(2022-23シーズンから2季連続4強入り)、昨季8位に沈んだ。「やったことがないことへのチャレンジはモチベーションになる」と話す新指揮官が、イーグルスに新たな風を吹き込む。