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昨年5月19日、カナダが18度目の挑戦で宿敵ブラックファーンズ(女子NZ代表)を22-19で撃破し、歴史的勝利を飾った。あれから、ちょうど1年。その因縁のカードが再び実現した。
世界ランク2位のカナダと3位、ニュージーランドのリマッチは、前回を上回る壮絶な展開を見せた。80分を超える激闘の末、決着はつかず引き分け。最後までスリリングな展開に観客は酔いしれた。
今年のパシフィック4シリーズは、5月3日に開幕した。カナダは初戦でUSA相手に26-14と勝利。ブラックファーンズは5月10日、オーストラリア相手にやや苦しみながらも38-12と勝利して今大会最初の試合をものにした。
そして迎えた第2戦、5月17日のブラックファーンズ×カナダの試合開催地は、昨年、歴史的敗戦を喫したクライストチャーにあるアポロプロジェクツ・スタジアム。1年前のリベンジに燃えるブラックファーンズのモチベーションは、因縁の地で高まっていた。
◆美しい国家斉唱、魂のハカ。がっぷり四つの前半戦
冬が訪れたクライストチャーチでの、午後3時35分のキックオフ。日差しが差し込み、暖かさが残る中で両軍が揃ってピッチに入ってきた。昨年の敗戦の悔しさを経験しているだけに、普段はにこやかな雰囲気で入場するイメージのあるブラックファーンズの選手たちが、この日は真剣な眼差しでピッチに入ってきた。
カナダ、ニュージーランドの順で国歌をうたった。美しいコーラスに導かれた国歌斉唱は、スタジアムを和やかな雰囲気に包み込んだ。
その直後にブラックファーンズの、魂のこもったハカ「 Ko Uhia Mai(コ・ウヒア・マイ)」が始まる。和やかな国歌斉唱の雰囲気から一転、両軍の戦闘モードへとスイッチが入った。

キックオフ直後の時間帯は昨年の対戦時と同様、ブラックファーンズが好スタートを切った。開始早々の5分、今季の目玉の18歳、ニューフェイスの15番ブラクストン・ソレンセン・マギーがいきなり魅せる。13番エイミー・デュプレッシーのやや乱れたクイックパスを絶妙なハンドリングで受け、ディフェンスを2人かわして5ポインターとなった。コンバージョンも成功し、ブラックファーンズが7-0と先制した。
しかし、世界ランク2位のカナダも黙っていない。機動力と突破力を活かしたFW陣が前に出てチャンスを作り、クイックリサイクルから3番ダレアカ・メニンがトライエリアになだれ込んだ。コンバージョンも決まり7-7と同点に追いついた(13分)。
その後しばらく膠着状態が続いたが、前半残り10分を切って試合が再び動き出した。ボール支配率で上回るブラックファーンズが敵陣ゴール前まで攻め込み、粘るカナダのディフェンスに手こずりながらもフェースを重ね、左に展開。最後は11番アイーシャ・レティ・イイガが力強いハンドオフでディフェンスを振り切り、左中間にフィニッシュ。ブラックファーンズが12-7と再びリードを奪った(32分)。
しかし、カナダも反撃に出る。40分、決定力のある14番アジア・ホーガン・ロチェスターのトライで12-12と追いつき、そのままハーフタイムを迎えた。スコアと同様に試合内容でも、 がっぷり四つの展開となった。
◆ロスタイムに執念の同点トライも、昨年のリベンジならず。
後半に入るとフィジカルバトルに激しさが増した。
その中で、前半同様に先にスコアを動かしたのはブラックファーンズ。中央付近のラックから出たボールを12番シルビア・ブラントが絶妙なグラバーキックを大きくスペースのある左コーナーに蹴り込む。走り込んだ11番レティ・イイガがボールを確保して中央まで持ち込んでこの試合2つ目のトライを挙げ、コンバージョンも成功。19-12と再びリードを奪った(54分)。
しかし、その7分後にはカナダが反撃する。敵陣ゴール前のラインアウトからモールで押し込み、途中出場のSHオリビア・アップスが素晴らしい状況判断。モールサイドを突破してトライを奪い、19-17と粘り強く食らいついた(61分)。

アップスのトライで勢いに乗ったカナダは65分、ブラックファーンズの自陣奥深くからのノータッチキックを起点に見事なカウンターアタックを見せた。ワイドに展開されたボールを受けた11番アリシャ・コリガンがトライを奪う。ブラックファーンズ19点、カナダ22点ととついに逆転し、この試合で初めてカナダがリードを奪った。
69分、ブラックファーンズ10番デマントがPGを決め、22-22の同点に。どちらに勝利が転がり込むかわからない展開となった。スタジアムの熱気が高まっていくのを感じた。
残り時間5分、カナダが再びブラックファーンズに襲い掛かる。途中出場の22番ショシャナ・セウマヌタファがタックルをかいくぐりトライエリアになだれ込み22-27で再びリードする(76分)。
このときブラックファーンズファンの脳裏を、昨年の歴史的敗戦がよぎった。
しかし、ここから世界チャンピオンが意地を見せた。ロスタイムに入ったブラックファーンズは、絶対に昨年の二の舞を演じたくない気持ちを感じさせる猛攻に転じた。
対するカナダも気迫のこもったディフェンスで応戦し、トライラインを死守する。激しい攻防が繰り広げられる。スタジアムの熱気もヒートアップした。
22フェーズにも及ぶ執念の攻撃の末、右コーナーに飛び込んだのは12番のブラント。タックルされながらもボールを押さえ、27-27の同点に追いついた。
コンバージョンが決まればブラックファーンズの勝利が決まる。タッチライン際からの難しい位置からのキッカーは10番デマント。スタジアムの視線が一点に集中する。
しかしキックは無情にも左にそれ、84分の激闘は決着がつかなかった。両軍譲らぬ引き分けで幕を閉じた。
「死闘」という言葉がぴったりの激しい戦いだった。
昨年はアップセット勝利と言われたカナダは、世界チャンピオンであるブラックファーンズと2年連続で互角以上に戦い、昨年の勝利が決して偶然ではなかったことを証明した。
安定感抜群のセットピースを武器に、ブラックファーンズの得意とする速い展開以上のラックスピードで効率良くゲインラインを突破した。少ないチャンスでも確実にトライを取れるチームへと進化している。世界ランキング2位の実力だった。
ブラックファーンズは細かいミスが目立った。ワールドカップまでにスキルレベルの向上に加え、コンビネーションの向上も期待したい。
しかし、残り時間5分を切って5点ビハインドというプレッシャーのかかる状況の中で、同点に追いつくトライを奪った。その集中力はワールドカップに向けて、明るい材料と言えるだろう。

◆ポーシャの代表復帰戦 & 18歳の新星。
昨年、代表からの引退を表明したWTBポーシャ・ウッドマン・ウィクリフは、セブンス代表を退き、今季15人制に復帰。スーパーラグビー・アウピキではブルーズでプレーし、流石のプレーを連発してブルーズの2連覇に十二分に貢献した。
ブルーズでの目覚ましい活躍は、彼女の気持ちを変えた。ワールドカップを目前にして、代表引退宣言を撤回し、メディアを賑わせた。そして今回、カナダ戦で14番を付ける。2022年のワールドカップ決勝以来、ブラックファーンズのジャージに袖を通した。他の選手たちがリベンジに燃え、険しい表情で入場する中、ポーシャだけは笑顔でピッチに表れたのが印象的だった。
久しぶりの代表戦でもポーシャは変らなかった。衰えるどころか円熟味が増し、進化していた。カナダ戦でも持ち前の強さと巧みなランニングスキルでディフェンスをかわし、前に出た。
試合後の満面の笑みも印象的だった。ハカの序盤部分の指揮も担当。試合の準備も含め、復帰戦を思う存分楽しんだに違いない。

ベテランの活躍が光る一方で、新星の活躍も目をひいた。
ブルーズでポーシャとチームメイトのFBソレンセン・マギーは、スーパーラグビーデビューシーズンで大活躍し、一気に名を売った。その結果、18歳にして代表入りを果たした。
代表2戦目のカナダ戦でも2試合連続で15番に抜擢され、先制トライを挙げた(2試合で3トライ)。持ち味のスピードに加え巧みなランニングスキルで何度もディフェンスの裏に出てチャンスを作り出した。
18歳ながら落ち着いたプレーを見せる。頼もしい。
◆支えるファン。試合後のピッチは笑顔でいっぱい
惜しくもリベンジ成功とはならなかったブラックファーンズ。しかし、選手たちを支える多くのファンがスタジアムにはあった。カナダとの死闘戦を終え、熱気に包まれたスタジアムに足を運んだファンは、試合後も選手たちのそばを離れなかった。
クライストチャーチの地では代表戦にも関わらず、試合後にファンがピッチに降りることを許された。
女子ラグビーということもあり、観戦に訪れるのは女性の姿が目立つ。お気に入りの選手を見つけてサインや写真のおねだりをする姿があちらこちらで見られた。男子ラグビーとは異なり、和やかな雰囲気がある。
激しい戦いを終え疲労困憊のはずの選手たちも、ファンの笑顔に触れ、その疲れも吹き飛んだことだろう。一人ひとりに丁寧に対応するブラックファーンズの選手たち。クライストチャーチの午後のピッチには、心地よい風が吹いていた。

パシフィック4シリーズは2戦目が終わった時点でブラックファーンズとカナダが共に1勝1分け、勝ち点8で並ぶ展開となっている。得失点差でブラックファーンズが上回り首位に立つものの、大会の優勝を決めるのは第3節の最終戦までもつれ込んだ。
カナダは、5月23日にオーストラリアと対戦。ブラックファーンズは5月24日、オークランドでUSAと戦う。
5月11日にブラックファーンズ・セブンス(7人制女子NZ代表)から数名の選手がチーム(ブラックファーンズ)に合流している。今週末のUSA戦で前回のW杯の優勝メンバーでもあるCTBステイシー・ワーカとテレッサ・セテファノの2人が揃って先発メンバーに名前が挙がった。
そして最も注目されているのがジョージャ・ミラーだ。背番号7を付けていよいよ15人制の代表としてデビューする。ワールドカップ連覇を目指す上でこの3選手の力は不可欠と見られており、今週末のブラックファーンズの試合から目が離せない。
ワールドカップイヤーの女子ラグビーに引き続き注目したい。
