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2季連続ゴールデンショルダー賞。森山皓太[中国RR]の熱血純情タックル道
1993年11月29日生まれの31歳。186センチ、110キロ。6人姉弟の長男。帝京大3年のPR森山飛翔(つばさ)は弟(三男)。(撮影/松本かおり)
2025.06.07
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2季連続ゴールデンショルダー賞。森山皓太[中国RR]の熱血純情タックル道

田村一博

 実際にタックルを受けた選手たちからの評価を集めたのだから誇らしい。
 中国電力レッドレグリオンズの森山皓太(FL/LO/NO8)が2シーズン連続でリーグワン、ディビジョン3(以下、D3)のゴールデンショルダー賞を受賞した。

 その表彰は、選手たち自らが受賞者を選ぶ、プレーヤーズ・チョイス・プライズの中のひとつ。『数字には表れない、実際に受けたタックルから選ぶベストタックラー』とされている。

 対戦相手や仲間が認める最強タックラーの称号は、ラグビーマンにとっては、何よりもほしいものかもしれない。各ディビジョンの受賞者の中で、2季連続で選ばれたのは森山だけだった。
 ハードタックルを精度高く繰り返すパフォーマンスを毎シーズン続ける。

 受賞について「素直に嬉しいです」と相好を崩す。「僕ではないだろうと思いました」と謙遜した。
「(選ばれるのは)僕の弟かな、と」
 8歳違いの森山迅都(はやと)は、2023-2024シーズンの途中にアーリーエントリーでチームに加わった。こちらもバックローでプレーする。

 その弟は、個人練習のパートナーでもある。トレーニングは、シーズンを終えたばかりだというのに休むことなく続けられている。
 黄金の輝きを放つ肩を持つ31歳は、6月2日に催されたリーグワンアワードの授賞式の場で、「(新シーズンに向けての)トレーニングは、もう始めています」と言った。

今季はチームの全15試合中14戦に出場。シーズン途中に右肩を痛め、回復するまでの間は左肩だけでタックルした。「逆ヘッドになるリスクを避けるため、死角から入ったり、足首を狙い、肩の衝撃が抜けるようにしていました」。(撮影/松本かおり)


「ラグビー人生が、あと何年あるか分かりませんから。長くラグビーをしたいと思っているし、レギュラーで試合に出たいので、オフシーズンもトレーニングを休みません」
 チームとしての活動ではなく、弟や数人の有志と2時間のウエートトレに取り組み、1時間ほどグラウンドにも出る。

「休むことも覚えろ、とは言われます。でも(休むのが)怖くて」と苦笑する。
「抜くことも大事だとは分かっているのですが、それができない。チームの中で発言もするので、練習をしている姿を見せないと、(発した言葉に)説得力がないかな、と」

 自分よりたくさん練習している選手がいるので、「誰よりもやっているとは言えないのですが」と前置きして話す。
「僕は言葉がうまくないので、的外れなことを言っている時もあると思う。そんなこともあるので、ポジティブな言葉を周囲に伝えた時、(よく練習している)この人が言うなら頑張ろう、と思ってもらえるようにしています」

 タックル成功数183は今季のD3で最多。前年は179だった。
 森山に引っ張られるように、D3のタックル成功数のランキング上位には、レッドレグリオンズの選手たちの名前が並ぶ。152で2位は西川太郎(LO/共同主将)、岩永健太郎(HO)も149で3位に入った。7位にはCTBの東将吾(135)の名前もある。

 好タックラーがチームに多い理由について森山は、「カークの影響が大きい」と話す。
 エドワード・カーク。かつてサンウルブズ(スーパーラグビー)で活躍した職人的バックローは、リーグワン2022の準備期間からチームに加わり、大きな影響を与えてくれている人だ。

「彼が教えてくれることを吸収し、全体練習後、みんなでタックルトレーニングをします。そのとき、こうしたらいいのでは、とか話し合ったりする」
 そんな時間がそれぞれの力を伸ばした。

 森山自身、カークのアドバイスに助けられた。
 今季開幕から8番のジャージーを着てプレーしていたカークは第7節のヤクルトレビンズ戸田戦で負傷し、以後、戦列を離れた。そんな状況になった時、責任感の強い森山は「自分ひとりで(カークの分まで)倒し切る」と走り回った。

 結果、「その気持ちが強くなり過ぎて、チームとしての組織的な部分を壊してしまった」と振り返る。
「自分がいつも以上に働くことがチームのためになる。そう勘違いしてしまいました。おこがましかった」

 そんな時にカークが言ってくれたのが、「リラックスして」の言葉だった。
「チームの仲間を信じてリラックスし、周りとコミュニケーションを取りながらプレーを、と。そうするようにしてからは、うまくいくようになりました」
 自分のタックルも、仲間のタックルも、質が上がった。

 向上心は尽きない。2年連続のゴールデンショルダー受賞も、「タックル成功率は去年の方が高かった」と悔やむ。
「80パーセント台はありえない。90から95パーセントにしないと」

 過去には1試合30近いタックルをした試合もあった。「チームが勝つためなら」と身を粉にして働く。
「観ている人に、ラグビーは楽しいと思ってほしい。ラグビーってこんな素晴らしいスポーツなのか、と感じてもらえたら。僕のプレーを見て、チームのために体を張ることは素晴らしい、と思ってもらえたら」と熱い。

 このスポーツを愛してやまない気持ちが溢れ出る。
 アワード授賞式の当日、優勝した東芝ブレイブルーパス東京のトッド・ブラックアダー ヘッドコーチから、「あなたがラグビーを大好きなのが私には分かる」と笑顔で話しかけられた。さらに、プレーも好きだと言われ、最高の笑顔になった。

衝撃を受けたタックラーに、サンウルブズでのプレー経験もあるレネ・レンジャーの名を挙げる。「大学時代に見て、その破壊力に驚きました」(撮影/松本かおり)


 中学時代(京都・藤森中)にラグビーを始めたが、実は最初は、あまり好きではなかったそうだ。
「中2の時に相手に対して飛び込んだら、試合の流れがすごく変わった。『あ、(自分は)タックル得意なんや』と思いました。高校(東山)ではスタンドオフとかでプレーし、ラグビーが難しかった。でも大学(摂南大)でフォワードになったら、ラグビーって、こんなに楽しいのか、と変わった」
 タックル王誕生の出発点だった。

 たくさんのタックラーがいるのにチームが残す結果に結びつかない(4位)。そんな現状を踏まえ、「ゲームマネジメントをSOやCTB任せにせず、フォワードとバックスが同じビジョンを持ってプレーすれば勝利もついてくるはず」と言う。
「チームの誰も、現状には満足していません。うちは本当に、みんなラグビーが好き」
 そんな仲間たちと前へ、そして上へと進んでいきたい。

 ゴールデンショルダーの副賞として選手会から和牛肩ロース2キロをプレゼントされた。
 そのことに感謝しながらも、チームメートを招待してご馳走するほどの量はないので、「みんなには東京駅でお土産を買っていこうと思います」。

 優しい。そして実直。
 そんな人なのに、ホイッスルが鳴るとタックルの鬼と化す。だから、ラグビーはおもしろい。





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