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こんなに名誉なことはない。
中国電力レッドレグリオンズのハードタックラー、森山皓太は、2シーズンぶりにリーグワン、ディビジョン3の『ゴールデンショルダー』の表彰を受けて顔をくしゃくしゃにした。
リーグワンアワードは各シーズン終了後、活躍したチーム、選手がリーグから表彰されるものだ。
その中に、「プレーヤーズ・チョイス・プライズ」というカテゴリーがある。
選手たちが自ら受賞対象選手を選ぶものだ。「スタッツだけでは表れない、選手たちが直に感じたプレーや活動に対して敬意を表し、表彰するもの」と定義されている。
森山が受けた『ゴールデンショルダー』は、「数字には表れない、実際に受けたタックルから選ぶベストタックラーに贈られる賞」とされている。
対戦相手から認められた。恐れられた。こんなに嬉しいことはない。
京都出身の30歳。藤森中でラグビーを始め、東山高校でも楕円球を追い、摂南大で鍛えられて2016年シーズンから中国電力に入社した。
186センチ、110キロ。2023-24シーズンは10試合に出場した(6番、7番で7試合に先発。3試合はLOで先発)。
タックル成功数178は、179のチームメートのエドワード・カークに次いでD3のリーグ2位。ボールキャリーの回数(106回)もリーグ6位だから、攻守両面でチームへの貢献度は大きかった。
レッドレグリオンズでは、FL松田進太郎(122)、LO西川太郎共同主将(121)もリーグ上位のタックル成功数だ。
FWバックファイブの仕事量の多さは互いに連係をとって動いた結果だろう。
リーグワン元年の2022シーズンにもゴールデンショルダーに選ばれた森山のタックルについて、いろいろ教わった。
◆情報収集が大事
「相手の目線を見て、選手同士のコミュニケーションを聞く。そういうことを大事にしています。例えば(対戦相手の)スタンドオフからのパスをフォワードの選手がもらうと仮定します。そのとき、目を見て、喋っている内容を聞けば、誰がボールキャリアーになるか分かる。そういったことが、タックルする機会の増加に関係していると思います」
「ピッチの上での情報収集も大事ですが、事前の分析で、相手の立ち位置、アタックの傾向なども頭に入れておくと、その場の情報と合わせて精度は高くなるでしょう」
◆どこに立つ?
「ブレイクダウンからのパスアウトの状況と仮定すると、(パスの)ファーストレシーバーの前に立っています。そこに立ち、相手を観察する。SHしか見ていないようなら、(レシーバーは)パスはしないでしょう。自分のもっとも速い出足で前に出ます」
「練習でもファーストレシーバーの位置にタックルダミーを置いて、連続してタックルに入る練習をします。そのとき、タックルした後にどうやって再度ポジショニングする位置に戻るかを気をつけています。そこが最短、最速でないと、次の出足が遅くなる」
◆どこを見てタックルするのか。
「基本的に、相手の足首を見て入ります。ヒットするのはふくらはぎの高さあたりです。ただ、相手が重心が低く、背の低いプロップなら、それでは入れないケースがある。なので、高さはその都度判断することも必要。何もできないことは避けたい」
◆周囲と繋がりなからも、ひとりで倒し切る。
「自分だけ飛び出してしまえばギャップができて走られる。周囲と連係して守ることが大事です。昔は自分が倒してやる、の気持ちが強かったのですが、カークに『もっとリラックスして周囲の声を聞いてプレーした方がいい』とアドバイスを受けてから、抜かれることは大幅に減りました」
「周囲と繋がって動くのですが、一人で相手を倒すことにはこだわっています。常に(自分以外の)14人で守る状況にしておきたいので。そのためには、相手によってタックルも変えないといけません。自分の方がフィジカルで勝っているなら、上に入ってボールを奪いたい。オフロードパスが得意な選手に対しても、そうですね」
「例えば横にカークがいるときは、特に倒し切ることに集中します。カークは腕力が強くスキルも高い。ジャッカルが得意なので、私が倒せばボールを奪い取ってくれます」
【まとめ】
森山は中学3年生の頃にタックルに目覚めた。その頃から、状況に応じた数種類のタックルができるように練習を重ねた。
もともとは右肩でのタックルが得意も、練習を重ねて左右両方の肩で鋭く入れるようになった。いまでも日々の練習でタックル練を欠いたことはないという。
両耳がつぶれている。大学時代に右耳がわいた(腫れ上がった)。
「痛くてタックルに入れませんでした。それなら左で、と思ったら左耳も同じようになりました」
それでも休むことなくタックルし続けた。「チームのために体を張り続けられるのは名誉なこと」と気持ちを奮い立たせた。
カークに「常に100ではダメ。リラックスして、視野を広げることも大事」と言われてタックルの確度は上がったけれど、根底に責任感がなければ、対戦相手、仲間に認められるハードワーカーになれていない。