![代表への道、自分の道。吉田杏[三菱重工相模原ダイナボアーズ]](https://www.justrugby.jp/cms/wp-content/uploads/2025/06/KM3_1594_2.jpg)
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これだけのインパクトを残してもダメなら、もう代表候補スコッドに呼ばれることはないかもしれない。
そう思うほどのパフォーマンスを残した。
吉田杏(きょう)は、2024-25シーズンに三菱重工相模原ダイナボアーズが戦った全18試合のすべてに出場した(6、7、8番でプレー)。
17試合が80分のフル出場。試合途中にピッチから出たのは第8節の三重ホンダヒート戦だけだった(後半25分に入替)。
シーズン終盤の4試合はゲームキャプテンを務め、ボールキャリー数267はディビジョン1、レギュラーシーズンのトップだった。
試合の流れを決める重要な局面で相手ボールをスティールすることも何度もあった。
前年も全16試合中15戦に出場している。
トヨタヴェルブリッツから移籍してからの2シーズン、新天地のダイナボアーズのバックローにこの人はいつもいる。
その充実ぶりを評価されてリーグワン終了後のこのオフは、これまで縁のなかった代表候補としての活動が続いている。
大分でNZU(ニュージーランド大学クラブ選抜)、ホンコン・チャイナ代表と戦ったJAPAN XVのメンバーとしてトレーニングを積み、3試合に出た。
その3連戦では1試合でゲームキャプテンを務め、2試合は副将だった。

その働きが評価され、6月4日からは菅平での日本代表候補合宿(15人制男子トレーニングスコッド菅平合宿)に参加している。
「リーグワンのシーズンが終わってすぐ(の代表活動)ですから疲れてはいます」と言いながらも、日本代表を率いるエディー・ジョーンズ ヘッドコーチから評価を得ているのだから活力が湧く。
「このキャンプ中も、新しいことを学べています。成長できていると実感できています」
「自分でコントロールできるものではない」としながらも、赤白のジャージーに近づけている感覚もある。
日本代表が掲げる『超速ラグビー』の中で自分に求められるものは、普段から、意識せずにプレーしているものと重なる部分が多かった。
ボールキャリーの連続や、タックルしてブレイクダウンに入り、相手に圧力をかけてスローボールにすることを繰り返す。
効果的なプレーを続け様に3つおこなうことを、日本代表ではゴールド・エフォートとしている。
「無意識にやっていました。しかし代表では、それを意識してやることが大事」
ボールキャリーの能力は、ジョーンズHCにも認められている。一方で、求められているのは質の高いプレーの反復だ。テストマッチでは、一貫性を持ってハイパフォーマンスを出し切らないといけない。
そのレベルへの挑戦を吉田は「伸びしろ」と表現する。ロックのポジションもカバーしてほしいとも言われた。
2020年にはサンウルブズでプレーしたが、同シーズンはコロナ禍で打ち切りとなった。あの頃以上に代表レベルとの距離は近い。
6月30日に30歳になるバックローは、いまの自分について、急に変わったわけではないと話す。
「今シーズンは、(ダイナボアーズ2季目で周囲とのフィット感も増し)高いパフォーマンスを出し続けられるようになりました」
肉体の充実も、安定を呼んでいる理由の一つ。突発的な怪我は防ぎようがないが、慢性的に抱えていた怪我をなくせたのが大きい。
「年齢も上がってきたので」、以前は無頓着だった体のケアに時間をかけるようになった。結果、自分の体を知ることにもつながった。
プレシーズンのうちに体のメンテナンスと強化を並行させたことで、シーズンを戦い切る肉体を得る。
そのときやるべきことを丁寧にやり切り、積み重ねた。それがプレーの一貫性も呼んだ。

ダイナボアーズへの移籍が飛躍を呼んだように見えることについては、「これまでのことがあったから、いまがある」と前置きし、「選んだ道が正しかったのだと思います」と言う。
前チームで出場機会に恵まれていなかったわけではない。ヴェルブリッツでの最後のシーズン(2022-23)も、13試合に出場している。
ただ、もやもやしていた。
ワールドクラスの選手たちが何人もいるのに勝てなかった。何かが悪くてそうなっているのに、チームも選手たちも、どうしてそうなったのか理由が分からない。
「それでは成長できないと思い、環境を変えようと思いました。自分自身を磨きたい、優勝に近づきたいと考えて決断しました」
ダイナボアーズには、泥臭く、ハードワークするチームという印象を持っていた。
「その中で、チームの象徴になりたいと思いました。タックルやボールキャリー、ハードワークを外国出身選手にも負けないぞ、いちばんやるぞ、との思いで取り組んだので力がついたし、自信になったと思います」
菅平での合宿では、自然体でトレーニングに励み、周囲と話す姿が見られた。
本人も、「びっくりするぐらい緊張がない」と、表情が柔らかい。その理由を「求められているものがクリアなので」と話した。
「自分のやれることをやり切って、それを評価してもらえたら次(のステージ)へ。(いまはまだ)足りなかったら、さらに磨くだけ。そう割り切ってやれています」
菅平合宿は6月11日まで。同16日には、ウェールズ(7月5日、12日)戦へ向けての日本代表宮崎合宿が始まる。
先のことは、いまが大事。そう気づいた人には後退がない。さらに前進する場所が宮崎なのか、他の場所なのか、それだけの違いだ。