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【忽那健太のCHALLENGE, MORE CHALLENGE/中東編 #3】濃密な3か月。やれたこと、感じたこと、したいこと。
チームのコントローラーを任されている。(筆者提供、以下同)

【忽那健太のCHALLENGE, MORE CHALLENGE/中東編 #3】濃密な3か月。やれたこと、感じたこと、したいこと。

忽那健太

 正直に言う。
 この3か月は、想像していたよりずっと濃い時間を過ごした。
 中東でラグビーをする。
 言葉にすればそれだけだけど、実際はそんなに単純じゃない。
 バーレーンに来て、気づけばシーズン前半が終わっていた。
 今回はその「途中経過」を、綺麗にまとめず、そのまま書いてみようと思う(中東挑戦記#1はこちら#2はこちら)。

 この3か月ではリーグ戦の前半6試合とドバイでのセブンズ大会を終えた。
 まずは大きな怪我もせずに『生き残った』感覚だ。

※忽那健太のプロフィールはこちら

◆リーグ戦で感じた、考えた。


 我々(バーレーン・ラグビークラブ)はUAE、カタール、バーレーンのチームが集まるウェストアジア・プレミアシップリーグを戦っている。
 6試合のうち4試合がアウェーゲームであった。
 アウェーの日は早朝に空港集合。
 試合はナイターで行われ、終わればその日のうちに帰国。
 気づけば深夜に家に戻っている、そんなスケジュールが当たり前になった。
 リーグにはイギリス系、南アフリカ出身の選手が多く、フィジー、トンガ、サモアといったポリネシア系の選手もよく見かける。
 正直、フィジカルで押し切られそうになる場面も何度もあり、リーグ自体のレベルも低くない。

 所属チームでは試合の舵取り役を担うハーフバックス(9番と10番)のどちらかを任されている。
 自分の判断やスピードで流れを変えられた瞬間があり「このリーグでも十分戦っていける」と序盤で思えたのは、大きな自信となった。

相手にタックルする筆者


 ただ正直なところ、試合中は暑さとレフリーの判定、そして自分の感情と戦ってきた。
 中東は12月でもTシャツで過ごせる。9月、10月の試合は体感40度近く、湿度70パーセントを超えている日がほとんどだ。まるでサウナの中で80分間ラグビーをしているような感覚に陥る。
 試合展開やラグビースタイル自体は、日本やヨーロッパと大きく変わらない。

 プレーしていて戸惑ったのはレフリングだ。
 ここで触れるべきか迷ったが、中東ラグビーの『リアル』を伝えるためにも、あえて記しておきたい。
 判定基準のばらつきや、試合の流れを左右する判断など、レフリーの裁量によって試合の行方が大きく左右される場面を何度も目にした。
 中東リーグが今後さらにレベルアップしていくためには、リーグ全体の選手のレベル向上と同時に、レフリングの質の向上も重要な要素になると感じている。

 その点では日本やヨーロッパと比べ、差があるように思う。
 基準が一定でないと感じる場面では試合中、感情をどう保つかが自分への課題になった。

 リーグ自体は7チーム構成で、上位4チームの力は拮抗している。
 ただ、中東経済のハブであるドバイにチームが集中している一方で、カタールやUAE第2の首都ともいえるアブダビ、バーレーンといった地域では、チーム作りや遠征費用の面で毎年苦労している現実もあるそうだ。

 この3か月で中東リーグの光と影の両面を、少しずつ見ることができたのは大きな収穫だ。
 感覚的には半年分にも感じられるほど濃い時間だった。

 あらためて日本の外で生活するのは、「ラグビー以外の部分」も含めて、自分が試されている感覚がある。
 飲み込む力。
 切り替える力。
 そして自分を表現する力、思いを伝える力。
 それも含めて、この場所でラグビーをしている。

チームのバックスの選手たちと


◆選手であり、コーチであり、生活者であるということ。


 バーレーンでの自分は、選手だけじゃない。
 クラブ内で職員(スポーツコーチ)として働きながら、ラグビーをしている。

 昼は仕事。
 夜は自分の練習。
 その後に、次の指導のプランニングや英語の言い回しを予習する。
 正直に言えば、簡単ではなく、楽でもない。身体も頭も、完全に休まる時間は多くない。

 それでも選手としてピッチに立ちながら、同時に「教える側」としてラグビーに関われていることは、とても恵まれた経験と感じる。
 ありがたいことに、クラブは選手としてのパフォーマンスだけでなく、コーチとして選手たちと向き合う姿勢も少しずつ評価してくれている印象だ。

 その一つとして、年明けからはパーソナルコーチングクラスも任され、週に2回ほど小学生、中学生の指導をおこなう予定だ。
 簡単に得られる信頼ではないからこそ、感謝と同時に責任も強く感じる。そしてこの経験が未来にきっと生きると信じている。

◆Dubai Sevensで感じたこと。


 11月末には、UAE・ドバイで開催された世界的に有名な7人制大会「Dubai Sevens」に、バーレーンクラブとして出場した。
 世界各国から100チーム以上が集まり、9面のグラウンドを使って行われる巨大な大会。3日間の来場者数は約10万人とも言われ、大会全体がまさにフェスのような熱気に包まれていた。

 我々は中東リーグに出場し、初優勝を目指して戦ったが、結果は決勝で敗れ、準優勝に終わった。
 悔しさはいまも残っている。
 悔しい。これは本音だ。
 でも、何度も崩れかけた場面を仲間と乗り越えて、チームの一体感は間違いなく強くなった。

 同じ大会に出場していた7人制ラグビー女子日本代表、サクラセブンズが、史上初めてワールドシリーズ3位入賞を果たした。
 大会を通じて感じたのは、日本ラグビーを応援している人が、世界中に本当に多くいるということだ。
 3位決定戦の終盤、会場ではサクラセブンズに声援が集まり、その光景がとても印象に残っている。心から、3位入賞を祝福したい。

子どもたちへの指導も期待されている


◆まだ途中だ。


 リーグは1月から後半戦に入る。
 目標は変わらない。優勝だ。
 ただ、今は胸を張って「順調だ」とは言わない。うまくいっていない部分もあるし、正直、悩む日も多い。

 それでも、ここで逃げる気はない。
 この場所で、もう一段成長したい。
 やるか。めっちゃやるか。
 その言葉を自分に向けながら、後半戦に向かう。


※バーレーンでの現地情報はYouTubeチャンネル『忽那健太』でアップしています。

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