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◆エラスムスHC、2031年まで契約延長。アメリカ大会まで指揮を執る。
12月5日、南アフリカラグビー協会(SARU)はラッシー・エラスムスHCとの契約を2031年まで延長したことを発表した。
これまでの契約では、契約期間は次回2027年ワールドカップ、オーストラリア大会までだった。今回の契約更新により、エラスムスHCはその先、2031年アメリカ大会まで、スプリングボックスの指揮を執ることになる。本人の強い意欲と、協会側の明確な戦略がぴたりと重なった結果だろう。短期的な成果ではなく、二つ先のワールドカップまでを見据えて指揮官を託すという判断は、現在のスプリングボックスが “現状” だけで満足していないことの表れでもある。
HCとしての勝率は75パーセント。ラグビーのプロ化以降、代表監督としては歴代最高だ。そして、スプリングボックスを率いて2019年ワールドカップの頂点に立ち、さらに2019年、2024年、2025年のザ・ラグビー・チャンピオンシップ制覇へと導いた。加えてディレクターの立場からは、2021年のブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ撃破、そして2023年ワールドカップ優勝を側面から支えた。
直近の戦績も圧倒的だ。
2024年は13テストマッチ中11勝、2025年も15試合で13勝。しかも対戦相手の多くは、オールブラックス、イングランド、ロス・プーマスといった世界最高峰のチームばかりだ。その極限の舞台で、これほど安定して白星を積み重ねること自体が、すでに異常値と言っていい。

これらの実績を並べれば、2018年の就任以降、エラスムスが世界最高の代表チームHCであることに異論は出ないだろう。仮に本人が身を引くと口にしたとしても、SARUが簡単に手放すはずがない。今回の契約延長は、驚きではない。むしろ、必然の選択だった。
ただし、エラスムスHCは2019年ワールドカップ直後、自身が多発血管炎性肉芽腫症という、血管に異常な自己免疫反応を起こす難病を患わっていたと発表し、一旦はHCの座を盟友のジャック・ニーナバーに託した。
あくまで筆者の主観に過ぎないが、白人男性は50歳を過ぎたあたりから、急に皺(シワ)が増えて老け顔になるような気がする。エラスムスHCにも、この2、3年で急に老けたような印象を受ける瞬間がある。世界最高峰のプレッシャーの中でスプリングボックスを率い続けるHC職は、心身の負担が大きいのは想像に難くない。だからこそ、一つ気にかかるのは体調だ。あの鋭い眼光を、これからもピッチ脇で見られることを願わずにはいられない。
◆えっ、日本は南アフリカの若い選手が成長できる場所ではない !?
2027年ワールドカップの組み合わせ抽選会後のオンラインインタビュー内で、そんなエラスムスHCから少し気になるコメントがあった。
話題が多くのスプリングボックス選手が日本でプレーしていることに変わった時のことだ。最初に南アフリカラグビー協会と日本のリーグワンの各チームが非常に良い関係を保っていることや、代表選手の派遣に各チームが協力的であることに謝意が表明された。そのあとだった。
「すでに実績を残している選手たちにとって、日本でプレーすることは体への負担が明らかに少ない。日本のリーグ(=リーグワン)では、同時にフィールドに立てる外国人選手の人数を制限するルールがある。結果として、とりわけベテラン選手たちは、日本では実際に、より多くの休息を取ることができている」
ここだけを直訳すれば、まるでリーグワンがベテラン選手たちのコンディションを整え直すための場所であるかのように響き、リーグワンの一人のファンとしては決して気持ちの良い表現ではない。だが、エラスムスHCの真意としては、欧州リーグなどと比べ、外国人選手の出場人数に制限があり、試合数も相対的に少ないため、結果的に選手が過度に消耗することなく、適度な休息を得られている。環境そのものへの、率直な感謝と受け取るのが妥当だろう。
また、マニー・リボックの花園近鉄ライナーズ入りを例に取り上げ、日本でプレーすることのさらなる利点を説明した。
「マニーは日本のBリーグ(=リーグワンDivision2)でプレーしているが、彼の実力は我々もよく分かっている。加えて、(元ワラビーズの)クウェイド・クーパーとウィル・ゲニアから指導を受けている。我々にとってもプラスになる部分がたくさんある」
ここもリボックが日本でプレーすることで、個人の引き出しを増やし、それがスプリングボックスの厚みへと還元されていくと言いたいと理解する。
問題は、その次の一言だ。
「ただし若い選手がもし日本へ行けば、我々は彼らを(スプリングボックスに)絶対に選ばない」
日本側への配慮か、これ以上の詳しい説明は続かなかった。だが、この短い断言が含む意味は決して小さくない。

この発言からは読み取れるのは、これから代表入りを目指す若い選手にとっては、日本は成長が期待できる場所ではなく、少し厳しめの言葉に変えれば、「そんなぬるま湯に浸かっていてはスプリングボックスにはなれないよ」という警鐘にも聞こえる。つまり、若手選手は国内チームが主戦場とするザ・ユナイテッド・ラグビーチャンピオンシップ(URC)か、欧州リーグの強度、試合数、競争の密度などを経験しなければならない。そのすべてがスプリングボックスという頂点に到達するための通過儀礼として不可欠であるということか。
もちろん、この発言もリーグワンを応援する日本人ファンとしては、正直なところ決して気分のいいものではない。胸の奥に、引っかかりが残ってしまう。
だが冷静になって考えてみると、リーグワンからベストメンバーを集めたとされる日本代表は、先月、スプリングボックスと対戦し、7-61という大差で完敗を喫している。若い選手を育成して、世界ランキングNo.1の位置を維持することに責任を背負うエラスムスHCの立場に立てば、その発言の輪郭も少し見えてくる。「現状、南アフリカと50点以上の差がある国のリーグに行っても、成長は難しいよ」と、エラスムスHCの言葉は、突き放すためではなく、頂点を知る者としての指導の一形態だったのかもしれない。
耳に痛い。だが、だからこそ重い。
思い出した。
エラスムスHCがSARUのディレクター・オブ・ラグビー職に就いていた時に、強く推進していた人材育成計画のひとつだ。それは、SARUと国内各フランチャイズが連携し、有望な若手選手70~80人を選抜した上、フィットネス、出場試合時間、練習内容から栄養状態まで、SARUが一元的に管理できる契約形態に置くという構想だった。その原資は明確で、高額年俸を要する代表級トップ選手を国内につなぎ留めることをあえて諦め、その分を多くの若手育成に振り向けるという、戦略的な発想である。
つまり、もともとエラスムスHCは、スプリングボックス級の完成された選手は、海外で厳しい環境に身を置き、さらに磨きをかけてもらえばいい。一方で、これから代表を目指す若手は、自国で目の届く範囲で、徹底的に管理し、育てたいという考えの持ち主だということだ。
もやもや感が消えず、筆を休めていたら、もう一つ、昔の記憶がよみがえった。
現役スプリングボックで初めて日本に来た選手は、SOヤコ・ファンデルヴェストハイゼン。2004年、“ブライトンの奇跡” が起こる遥か11年前、当時のトップリーグ、NECグリーンロケッツ(現NECグリーンロケッツ東葛)に移籍した際、南アフリカ国内では “レベルの低い日本に何をしに行くのか?” や “金で釣られただけだろう” 等、否定的な意見が大勢を占めた。
一応、ファンデルヴェストハイゼンは日本に来てからもスプリングボックスには招集された。しかし、2007年ワールドカップのスコッド入りは叶わなかった。当時のHC、ジェイク・ホワイトは「日本に行ってパフォーマンスが落ちた」と明確にファンデルヴェストハイゼンの落選理由を述べている。
ただ、20年以上前のトップリーグと現在のリーグワンの競技レベルが、雲泥の差であることは疑いようがない。とはいえ、ラグビーにはサッカーのクラブワールドカップのようなリーグ間の序列を明確に測る物差しが存在しない。リーグワンが、スーパーラグビーや欧州リーグと比べて、どのあたりに位置するのか、誰にも断言できない。そもそも、例えば州代表チーム的な位置づけであるブルズと単独チームであるパナソニックワイルドナイツを単純に比較すること自体、少し無理がある。
それでも現実として、世界中からトップ選手、トップコーチがリーグワンに集結している。その環境が、“スプリングボックスを目指す若手選手が成長できない” レベルだと、本当に言い切れるのだろうか。
その答えは、すぐには出ない。だからこそ気になるのだが、難題はとりあえず横に置いておくとして、リーグワン、ひいては日本ラグビーは南アフリカからどのように見られているのだろうか?
◆南アフリカでのリーグワン、そして日本ラグビーの評価は?
南アフリカ側の視線は、思っている以上に厳しい。
2019年のワールドカップ後、HOマルコム・マークスをはじめ、FLフランコ・モスタート、CTBダミアン・デアレンデやCTBジェシー・クリエル等のスプリングボックス主力選手が大挙して当時のトップリーグへの移籍を発表した。その際、SNS上には否定的なコメントが飛び交った。ほとんどは海外に行くのであれば欧州リーグのいずれかに行くべきという意見が支配的だった。やはりトップリーグはコンタクトが弱いというイメージを持たれており、選手のフィジカリティが落ちることを心配する声をよく耳にした。
“ブライトンの奇跡” によって、日本ラグビーの評価が南アフリカで上がったのは確かだ。しかし、その後、テストマッチではスプリングボックスは日本代表に連勝を続けており、直近では前述のとおり大差がついている。また、スーパーラグビーではサンウルブズの惨敗が続いたということも、南アフリカ人の記憶には強く刻まれている。結果として、多くの南アフリカ人が日本ラグビー全体に抱く印象は、「最近、伸びてはいるが、まだ南アフリカと対等のレベルではない」というところに落ち着く。
ただし、南アフリカ国内ではリーグワンの試合が放映されることはほとんどない。多くの人が目にしているのは、南アフリカ人選手が活躍する場面だけを切り取ったハイライト映像だ。したがって、大柄な南アフリカ人選手が小柄な日本人選手を引きずってトライするようなシーンしか観ていない。そうしたシーンの積み重ねが、知らず知らずのうちに「リーグワン=レベルが低い」という南アフリカでのイメージが形成されているのではないかと思う。
仕事で来日した南アフリカ人の顧客を、何度かリーグワンの試合に連れて行ったことがある。いずれもラグビーを見る目の肥えた人たちだ。多少のリップサービスが混じっていた可能性は否定できないが、皆からは一様に「思っていたよりレベルが高い」という感想が聞けた。
この経験からすると、リーグワンは南アフリカではその実態が十分に知られていないがゆえに、過小評価されている側面があるのではないか。そんな気がしてならない。断片的な映像や先入観だけで形成された評価と、実際のリーグワンの実力には違いがあるのは確かだ。
実際に日本でプレー、あるいは指導に携わっている当事者たちは、リーグワン、そして日本ラグビーをどう見ているのだろうか。たまたま、南アフリカのラグビー雑誌 “SA Rugby” に、現在、日本でプレーしている、あるいは過去に活躍した南アフリカ出身の選手、コーチ3名へのインタビュー記事が掲載されていた。彼らに「リーグワンをどう感じているか?」を率直に語らせた内容だ。もちろん、3名はいずれもリーグワンのクラブで中心的な役割を担い、内側からチームを率いている立場にある。外側から全体を俯瞰するエラスムスHCとは視点も責任の所在も異なる。その点は、読み解く上で踏まえておく必要があるだろう。

今年、横浜キヤノンイーグルスでの在籍6年目になるCTBジェシー・クリエルは「日本でプレーすることは決して簡単ではない。ここには世界のトップ選手が、そしてラグビーリーグから来ている選手もいる。私のポジションを例に挙げると、(ワラビーズの)サム・ケレビ、(オールブラックス及びフィジー代表の)セタ・タマニバルのような国際的にも高い評価を得ている選手たちと毎週末対戦することになる。それはチャレンジングだし、私に最高のパフォーマンスを引き出してくれる」と、リーグワンにいることの利点を述べている。テストマッチ級の対峙が日常にある環境に身を置くことで、自分は否応なく鍛えられたということだろう。
そしてクリエルは、成長の在り方についても一歩踏み込んだ見解を示している。
「外国に拠点を移すことで、若いプロフェッショナルは成長を余儀なくされる。日本で学んだことが今の私を形成している」と、その言葉は、若手選手は国内で育てるべきだとするラッシー・エラスムスHCのスタンスとは正反対だ。もちろん、クリエル自身は日本に来た時点で、スプリングボックスの主力選手だったのだが…。
また一人、日本ラグビーの現在地を冷静に見つめる南アフリカ人指揮官の声がある。今季からURCのブルズHCに就任し、2020年から4シーズンにわたりNTTドコモレッドハリケーンズ大阪、そして浦安D-Rocksで指揮を執ったヨハン・アッカーマンだ。
アッカーマンはまず日本に滞在していた期間を振り返り、「リーグワンのレベルは、試合内容、戦術、フィジカリティの面で大きく向上した」と賞賛している。さらに、「すべてのチームがはやくプレーする。他のコンペティションと比べても明らかにはやい」と、そのスピードをリーグワン最大の特徴として挙げた。
一方で、アッカーマンの視線は現実的だ。仮にリーグワンのチームがスーパーラグビーやURCのクラブと対峙した場合、セットピースでは苦戦すると予想する。「日本のフロントローはスクラムに自信を持っているが、強豪国のフロントローと比べるとサイズが小さい」と、問題点も明確に指摘した。
そして南アフリカの若手選手が日本でプレーすることについても、慎重な意見を持つ。日本にはU19やU20に特化した大会がなく、若手は直接シニアの環境に放り込まれる。しかし、各国代表クラスの選手がひしめく中で、若手選手が試合機会を得るのは容易ではないとし、「18、19そして20歳ぐらいの若い選手は試合に出て成長する。試合に出なければ成長はない」。その言葉には、現場を知り尽くした指揮官ならではの現実感がある。
さらにアッカーマンは踏み込む。「日本でプレーしながらスプリングボックスの一員になるのは難しい。(南アフリカの)メディアの注目を浴びにくいこともあり、スプリングボクスになる夢を追いかけるのであれば、3、4年後に南アフリカに戻る必要があるだろう」と。この見解は、ラッシー・エラスムスHCの考えとほぼ軌を一にするものだ。

最後に2016年から10シーズンにわたりクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(※就任当時はトップリーグのクボタスピアーズ)でHCを務めるフラン・ルディケは、まず、南アフリカに根強く残る日本ラグビー観に触れる。
「南アフリカでは、日本人は小柄で、コリジョンが強くなく、セットピースも大したことはないと思う人が多いのではないかと思う。私も最初はコリジョンとスキルの精度には違いがあると感じていた」
「しかし、この10年でその差はかなり縮まった。ロビー・ディーンズ、スティーブ・ハンセン、デイブ・レニー、トッド・ブラックアダーなどの国際的なトップコーチが日本のラグビーを革新した」とリーグワンでHCを務める世界的な名将たちの名を挙げ、彼らの存在により、リーグワンが着実にレベルアップしたことを伝えている。もっとも、差が縮まったという表現は、裏を返せば、まだ埋め切れていない差が存在していることを暗示している。
◆それでも選手は日本を目指す?
ラッシー・エラスムスHCの「若い選手が日本に行けば、スプリングボックスには絶対に選ばない」という発言は、今後、南アフリカの若手選手の日本行きにどれほどの影響を及ぼすのだろうか。筆者は、その影響は極めて限定的だと見ている。
確かに、先月の日本代表とのテストマッチでデビューを果たしたPRのザカリー・ポーセンのように、U18の頃から将来のスプリングボックス入りを嘱望されてきた選ばれし存在であれば、この警鐘に敏感に反応し、当面は日本行きを避ける判断をするだろう。しかし、そうした突出した才能を持つ選手は、現実にはほんの一握りに過ぎない。
ほとんどの選手は高校卒業後、各フランチャイズとのプロ契約にも届かず、スプリングボックスへと続くレールから一度は外れていく。そして、高いレベルでラグビーを続ける道は限られており、高額な授業料を支払ってアカデミーに入るか、地元クラブや大学でプレーし、チャンスを待つしかないのが実情だ。したがって、エリートコースから外れた選手たちにとって、日本や海外チームからの誘いは魅力的に映るだろう。

以前、南アフリカの強豪高校のコーチ数人から、若い選手の海外流出について興味深い話を聞いたことがある。
まずコーチの立場としては、スーパーラグビーやU18代表など、国内の上位カテゴリーへ選手を送り出すことが、自身や学校の評価に直結するため、いったんは南アフリカ国内でのキャリア形成を勧めるという。ただし、最後はあくまで本人の決断が優先される。
さらに印象的だったのは、Z世代の選手たちの価値観だ。
ラグビーに限った話ではないかもしれないが、選手たちは結果を早く求め、物事を極めて合理的に判断する傾向があるという。プロラグビー選手が他競技と比べても選手生命の短い職業であることを前提に、国内と海外での契約金や年俸の差を冷静に比較する。その情報は、インターネットや選手同士のネットワークを通じて簡単に入手できる。
大きな怪我もなく順調に現役を終えるという理想的な前提だが、海外クラブで現役時代のすべての時間を費やすと、国内にいる場合より生涯年収が3~5倍違うと試算した選手もいるとのことだった。
そして、かつてはスプリングボックスという最終目標そのものが、若手選手の海外流出に対する強力な歯止めとして機能していた。しかし今、その前提が揺らぎ始めているという。
特に南アフリカの場合は、国内のフランチャイズから代表を選出するという縛りがないにもかかわらず、最初から自国の代表を目指さない選手が増えているそうだ。現在、ワールドラグビーのランキング1位であるスプリングボックスは、そういう意味では世界でポジション獲得がもっとも難しい代表チームである。あえてその最高の名誉に資する母国の代表入りに挑戦せず、自分の実力とタイミングを冷静に査定し、誘われている国の代表に選ばれる可能性が計算できた場合は、最初からその方向を目指す選手が増えているということだった。
ラグビー人材の宝庫である南アフリカでは、有能な人材が次々と輩出されている。一方、南アフリカ国内では、その豊富な人材を受け入れる器の数が少ないのも事実だ。限られた枠をめぐる競争は熾烈で、多くの選手が早い段階でふるいにかけられる。
日本やその他の国では、フィジカルに優れ、サイズと推進力を兼ね備えた若い選手を戦力として必要としている。この需要と供給の関係が成立している限り、南アフリカから日本を目指す若手選手が途切れることはないだろう。代表への近道ではないかもしれない。だが、プレーの場があり、生活が成り立ち、成長の実感を得られる場所がある以上、選択肢としての魅力は揺るがない。
視点が少し脇に逸れてしまったので話を元に戻そう。
エラスムスHCの感覚では、リーグワンと、例えばURCの間にはまだ明確なレベル差がある。インターナショナルレベルに達していない若い選手が、リーグワンにいてはその目標とする水準には届かないと認識している。

この見方を改めさせ、あの発言を撤回してもらうためには、結局のところ一つしかない。リーグワンが、URCや欧州リーグ、あるいはスーパーラグビーと同等のレベルであることを結果で証明することだ。そういう意味では、先にラグビーにはサッカーのようなクラブ世界一を決める大会がないと述べたが、欧州プロクラブラグビー(EPCR)が2028年に開催する可能性があるとされる “クラブワールドカップ ” が実現すれば、絶好の機会になる。
BBCの報道によれば、リーグワンにも1枠が割り当てられる見込みだという。そこでリーグワンのクラブが参戦し、欧州や南半球勢に食らいつき、上位に食い込むことができれば、エラスムスHCもさすがに「なかなかやるな」と考えを変えるかもしれない。
もちろん、もっとも手っ取り早くエラスムスHCの印象を変える方法は、本人の目の前で日本代表が “ブライトンの奇跡” を再現することだろう。しかし、スプリングボックスの2026年におけるテストマッチスケジュールはすでに埋まっており、翌2027年はワールドカップイヤーだ。世界ランキング1位のチームが、12位のチームとわざわざ試合を組む利点は少なく、次に対戦があるとしても、ワールドカップの決勝トーナメントになる可能性が高い。
今回のことをあえて例えるなら、親しい友人から突然、ラグビーを頑張っている自分の子どものことをさげすまれた感覚だ(※もちろん、エラスムスHCがそういう意図で発言したわけではないはずだが)。何とも言えないモヤモヤを残したまま、この話題を閉じることになる。
繰り返すが、南アフリカラグビーと日本ラグビーの間に、依然として大きなレベル差があるのは事実だ。であれば、エラスムスHCのコメントを否定的に捉えるのではなく、「早くここまで来い」という叱咤激励として受け止めたい。リーグワン、そして日本代表がその期待に応える日を、少し悔しさを噛みしめながら、待つことにしよう。