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【留学ストレートトーク】仲間になる。国で違う。上山黎哉×笹川翼[ボンド大クラブ所属/オーストラリア]
【写真左】上山黎哉(うえやま・れいや)。1999年生まれ。大阪桐蔭高校→帝京大→花園近鉄ライナーズ。4年次には副将として大学選手権優勝に貢献。ライナーズでは、従来プレーしていたフランカーからフッカーに転向した。激しいタックルが持ち味。
【写真右】笹川翼(ささがわ・つばさ)。1999年生まれ。幼少期から祖父の影響でゴルフに励んでいたが、担任の勧めで高校2年生からラグビーを始める。Rugirl-7→横河武蔵野アルテミ・スターズ。ニュージーランドのノース・ハーバーでもプレー経験がある。兄はリコーブラックラムズ東京所属の笹川大五。

【留学ストレートトーク】仲間になる。国で違う。上山黎哉×笹川翼[ボンド大クラブ所属/オーストラリア]

中矢健太

 オーストラリア、クイーンズランド州ゴールドコーストにあるボンド大学ラグビークラブ。先日行われた同州のクラブ選手権ファイナルで、男子は初優勝、女子は4連覇を達成した。また、男女の同時優勝は同クラブ史上初の出来事だった。

 ファイナルのピッチには、2人の日本人選手が立った。花園近鉄ライナーズの上山黎哉、横河武蔵野アルテミ・スターズの笹川翼だ。
 上山は16番HOで後半22分から出場。笹川は15番FBの先発でフル出場し、同時優勝に貢献した。両選手とも所属クラブでの活動期間を経て、2014年から正式に活動しているボンド大学ラグビークラブの歴史に名を刻んだ。

 実は2人とも、ニュージーランドへの留学経験もある。今回のオーストラリア留学では、日本はもちろん、ニュージーランドとの間でも、さまざまなカルチャーショックや文化の違いを感じたという。
 そんな両選手に、今回の留学を振り返ってもらった。

チームの練習がない日は、同クラブS&Cコーチ・甲谷洋祐さんのもとで自主トレーニング。甲谷さんはバレーボール女子日本代表やジュニア・ジャパンでの指導歴がある。(撮影/中矢健太)


——おふたりは、なぜボンド大学ラグビークラブへ?

上山:オフの間にセットプレーのスキルを伸ばしたくて、昨年はニュージーランドのクライストチャーチにあるバーンサイド・ラグビークラブへ3か月間、留学しました。今回に関しても(日本のオフ期間に)プレーを続けたかったのと、ボンドには元ワラビーズのスクラムコーチや、ラインアウトコーチには、元々ライナーズでチームメイトだったベン(・トゥーリス、元スコットランド代表)がいる。そういった部分が大きな決め手になりました。

笹川:私はニュージーランドのオークランドで1年間プレーしていて、滞在ビザの期限が迫っていました。帰国するか悩む中で、以前から交流のあった、ながとブルーエンジェルスの村杉徐司さんから「ラグビーと英語を伸ばすためにも、もう1年プレーした方がいい」とアドバイスしてもらいました。ボンドの女子チームのヘッドコーチであるローレンス(の指導を受けること)を勧められて、ここに来ました。実際、ローレンスのコーチングを求めて(ボンドに)来る選手も多いです。

上山:実際コーチングはどうやった?

笹川:ローレンスと出会えたのはやっぱり大きかったかな。ある試合のメンバー選考で、コーチ陣の一人は「ツバサはパスとキックのスキルが足りないからウイングの方がいい」と。でもローレンスは「それは俺らが教えて伸ばせばいいだろ」って私を信じ続けてくれたのがすごく嬉しかった。チーム練習以外でも、ローレンスの家から近い公園でたくさん練習に付き合ってもらった。これまでは「蹴ったらミスするから蹴るな」って言われてきたけどローレンスは「試合でも蹴れるようになっていかないといけない」って教えてくれて。

上山:フルバックの経験はそれまであった?

笹川:あったけど、スタンドオフのポジションまで上がったり、ゲームをコントロールしたり、ゲームメーカーとしてのフルバックは初めてだった。フルバックとして最初の試合では、パスするべき場面で放れない、キックも飛ばない。何もできなくて、試合後は号泣したなぁ。

——上山選手は今年6月から3か月、笹川選手は4月からチームに加入していましたよね。

上山:シェアリングハウスで、ラグビー、AFL(オージー・フットボール)、水泳など様々なクラブに所属している学生と共同生活をしていました。3か月間、ラグビーとトレーニング漬けの日々を送っていました。

笹川:私はワーキングホリデーのビザで滞在しているので、ラグビーをしながら、カフェでバリスタとしても働いています。最近、ケガした右目まわりが青アザになってしまって、お客さんに心配されました。家に関して、来た当初はローレンスのところに泊まらせてもらっていました。いまはチームメイトとシェアハウスに住んでいます。
 レイヤは初日、どんな感じだった?

甲谷さんがボンドのウィメンズチームに就任したのは2年前。以来、チームではACL(前十字靭帯)のケガが起きていない。シーズン後に発表されたレッズのウィメンズ約40名のスコッドには、ボンド以外も含めて7名もの教え子が選出された。また、高校のオーストラリア学生代表に選ばれた選手も。(撮影/中矢健太)


上山:ゴールドコーストに着いたのがバイウィーク(休み)の週で、こっちに来ていたチームメイトにあったり、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズの試合を見に行ったり。週明けのチームミーティングから合流した。英語で自己紹介の準備してたけど、結局なかった!(笑)

笹川:なかったの!?

上山:最初、ミーティングの部屋の前でみんなが待っていて。何人かには少し喋りかけるけど、自分の英語が全然ダメで、会話についていけなくなるとみんな離れていく。

笹川:オーストラリアの英語、アクセントが強いし早口だから難しいよね。

上山:バイウィーク明けで、みんなは喋ることがいっぱいあったけど、話に入れないからポツンと部屋の隅で立ってて。ミーティングはもちろん全部英語で、80分くらい。話している内容は全然わからないけど、自己紹介あるかなと思って準備するやん。でも結局なかった。ちなみに、その後の練習でもなかった。そこで、去年のニュージーランドのクラブとはちょっと違うんかなって感じたかな。

笹川:女子チームはわりとそういったカルチャーがしっかりあって、ローレンスがそこを大事にしている。練習前のハドルでは毎回必ず「今日は新しいニュースあるか? 新しいメンバーは来てるか?」って聞く感じ。ボンドの女の子たちはみんな優しくて、温かく接してくれた。

——上山選手はそこから、どうチームに馴染んでいったのですか?

上山:合流して1週間後に出たセカンドグレードの試合では、逆転勝ちすることができて。いいプレーとか、いいタックルしたら、みんなとの距離がだんだん近づいていきました。試合後は「ファーストキャップおめでとう!」って、一気にグッと距離が縮まって。そこからチームの輪に入れてくれたような感じでしたね。

笹川:そこでやっと自己紹介できたんだね。

上山:ニュージーランドのときは自己紹介もあったし、最初からウェルカムな雰囲気やって、それを経験しているからこそ、余計にドライやなと思ってしまった。でも、試合をして近づくような感覚は持っていたから、それまでは耐えようと。やっぱり試合が終わったら、みんなとの距離は近くなった! ラグビーのいいところやなってあらためて感じたかな。

——一つひとつのプレーで見せていくしかない。

上山:僕はタックルに自信があって。 海外って、タックルに対して声援が湧くじゃないですか? いいタックルしたら、だんだん仲間として認めてくれて、今は信頼されている感覚があります。ある試合で、僕が相手から悪質なタックルをもらったとき、チームメイトが怒って相手と掴み合いの喧嘩になっていて。試合中の喧嘩は多いんですけど、そうやって怒ってくれたのは嬉しかったです。

——ニュージーランドとの違いは感じますか?

笹川:やっぱり、どこか違いますね。全員に当てはまるかはわからないけど、オーストラリアは良くも悪くも他人のことをまったく気にしない、みたいな。

上山:それが一番しっくりくるかもね。自分は自分。他人は他人。そこで線引きしているからヘンに干渉してこない一方で、少し冷たいなって感じる。もちろん、クラブによってまた違うとは思うけど。
 ニュージーランドのチームでは「カフェ行こうや!」みたいなのが最初からあったかな。この前、ニュージーランド出身のチームメートと試合会場まで一緒に車で行ったときに「オーストラリアどう?」聞かれて「最初はちょっとドライやった」って言ったら「せやろ! 向こうはウェルカミングの文化があるけど、少し違うやろ」って。自分が英語を上手く喋れなかったのはあるけど、彼もそう思うんやって。今はボンドも、チームメイトもめっちゃ好きやけど。

【写真左上】笹川のボンドでのオフ。ウィメンズチームにはいつも楽しい空気が流れている。この日はドレスコードを合わせて食事会へ。【写真上中】優勝して4連覇達成後、そのまま祝勝会へ。チームメイトたちと夜通し楽しんだ。【写真右上】甲谷洋祐さんと。
【写真左下/右下】ニュージーランド・ノースハーバー時代の笹川。(写真は本人提供)


——そこの差はやはり感じるんですね。ラグビーでの違いはどうでしたか?

上山: まず、オーストラリアのクラブラグビーはレベルが高いと率直に感じました。と言うのも、州代表の大会がないので、スーパーラグビーの現役プレーヤーが各クラブにいます。スタッフにもいいコーチが揃っていて、しっかりとしたレビュー、プレビューのミーティングがある。プロに近いですね。あと、どこの会場にいっても施設やフィールドが整備されています。特にボンドの環境は充実していました。

 試合では、フィールドプレーが激しい。TMOがないから、接点でどんどん顔面に飛んできます。ボールキャリーの時には3人ぐらい顔面に飛んできて「ちょっと嫌やな」と思うくらいきますね。でも、慣れていきました。スクラムも、自信になりました。肩の使い方とか、崩れないようにどうコントロールしていくのか。例えば、サニーバンクというクラブと対戦したとき、相手の3番がめっちゃ強かったんです。スクラムの組み直しで言い合いになったとき、その3番に「お前の左肩はイージーショルダーだ」って言われて「なんやねん」って思ったけど、あとで周りに聞いたらレッズでプレーしている現役選手やって。そこから学びを得て、スクラムコーチに対処法を聞いたり、映像で細かい分析をしてもらったり。そうやって改善できていったのはすごく良かったです。

笹川:女子のチームにも、ワラルーズとかレッズの選手がゴロゴロいるね。

上山:男子にもレッズの選手、何人か来てるやん。「コイツすごいな」って選手もいるけど、「これでレッズなんや」って思ってしまう選手もいる。まだあんまり試合出られていない選手が多いんやろうけど、そんなに大きな差は感じない。リーグワンでワールドクラスの選手を見慣れているからっていうのもあるかも。

——今回の留学で、最大の収穫は何ですか?

笹川:もう全部ですけど、一番良かったことは、やっぱりフルバックをやれたことかな。本当はウィングの方が自分の良さが活かせるんじゃないかって気持ちもあります。でも、パスやキックは格段に良くなって、ゲームの流れを理解できるようになった。自分ができるプレーの幅が広がった。最初はパスも下手でボールが渡らないようなレベルだったのが、いまではチーム内のゲームマネージメントグループに入っています。

上山:僕はトレーニングですね。もちろんスクラムの面で学んだことは多くありましたけど、S&Cコーチの甲谷洋祐(こうたに・ようすけ)さんからトレーニングを学べたことが大きかったです。感覚的ですけど、3か月で足が速くなったと思います。フッカーとして、ラグビー選手としてやらなあかんことが明確に見えてきました。
 なりたい自分になるには何をすればいいか。その具体的なステップを、トレーニングを通じて見つけることができました。もちろん成長したって感覚もあるけど、日本に帰ってから成長するためのキッカケを見つけられた3か月やったなって思います。この先に期待ができる 期間でした。

あるオフの日。上山は、持ち味のタックルを甲谷さんの長男・剛くんにコーチング。(撮影/中矢健太)


——最後に、これからの目標を教えてください。

上山: 日本代表です。もうすぐ26歳ですけど、バックローからフッカーにコンバートしたり、海外で経験を積んだり、まわりと少し違った道を走っていると思います。長くバックローでプレーしていたからこそ、自分なりの強みを活かしながらフッカーとしても成長し続けたいです。
 そして、まずはライナーズで活躍すること。チームをディビジョン1に昇格させる。ライナーズはもうすぐ100周年(2029年)なので、絶対に1部へ上がりたいです。その上で、代表でプレーしたいですね。

笹川:スーパーW(スーパー・ラグビー・ウィメンズ)、出たいんですよ。ニュージーランドでプレーしていた時は、オークランドの州代表でプレーするのが目標でした。でも、やっぱりレベルが高くて、入れなかった。その後、ノースハーバーのクラブに移ってからは、ホント、ずーっと試合してました。日本と違って毎週末あるので、桁違いの試合数をこなします。最初は身体がついていかなかったけど、いまではもう慣れました。ボンドでも同じでしたけどほぼ全試合出場することができました。
 もともとは日本代表になりたくて、それで海外でプレーしようと思ったのがキッカケでした。英語はもちろん、プレーできるポジションを増やして、スキルを伸ばした今回の経験は必ず活きると強く思っています。


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