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事前に用意したプレーを遂行力高くやり切った立ち上がり。そして、後半に示した自分たちのスタイルと粘りで、一度は崩れかけた試合を引き締まった試合に戻した。
9月20日(日本時間/同21日、10時35分キックオフ)にアメリカ、ソルトレイクシティにあるアメリカ・ファースト・フィールドでおこなわれたパシフィックネーションズカップ2025のファイナルでフィジー代表が日本代表に33-27と勝利し、前年に続いて頂点に立った。
しかし冒頭のように、日本代表も成長した点を多く出した。
前半5分のHO江良颯のトライ、SO李承信のコンバージョンキックで7点を先行し、20分にPGで3点(李)も加えて10点をリードする。ボールを手にすれば試合をコントロールできることを体感した。
空気が一変したのは、21分にリスタートのキックオフボールを奪われ、一気にトライされたところから。31分、35分、40分と、いずれも相手陣深い地域で始まったアタックを止めることができず、自陣侵入を許す。結果、トライラインを連続して越えられた。
それぞれの得点はフィジー26点、日本10点となって、ハーフタイムを迎えた。
後半3分にもフィジーの選手たちは自陣から走り、攻め切った。スコアボードに33点を刻んだ時には、さらに点差が開く予感もしたが、そこから日本代表が自分たちの時間を取り戻した。
後半開始前のロッカールーム、エディー・ジョーンズ ヘッドコーチは選手たちに、あらためて「日本らしいラグビーをしよう」と呼びかけた。

後半7分、自陣で相手のショートキックを受けたところから奪ったトライは、多くの選手が動き続けてパスも多くつないだ。6フェーズ目でフィジーの防御を鈍らせ、WTB長田智希→FB中楠一期でアウトサイドを崩した。
後半20分にHO江良が挙げたトライは、スクラムで圧力をかけて得たPKから深く攻め込み、ラインアウトからモールで押し切った。
後半に奪ったトライはその2つだけだったが(PGも1つあり)、青ジャージー(この日はセカンドジャージーを着用。編集部注/赤白から修正しました)は後半の多くの時間、身体能力の高い相手にプレッシャーをかけ続けて自分たちのラグビーをよく出した。
最大23点差を6点差に縮めるパフォーマンスには、スタンドから多くの声援が送られた。
ジョーンズHCも前半については「世界でもずば抜けた身体能力の高さを持つチーム。それを見せつけられた」と語り、ターンオーバーから一気に攻め切られた時間帯を悔やんだ。
しかし、後半のパフォーマンスについては手応えを感じた。
「パワーやサイズで上回る相手には、スキルとスピード、戦術面で上回らないといけませんが、後半は相手に臨機に対応して戦術的にも優れた戦い方をしていました」と評価。ゲームキャプテンのワーナー・ディアンズを筆頭に、全員がハードワークをしていたとした。
指揮官はチームがトップ10に近いところまで来たと言い、将来に目を向けて「トップ4まで狙いたい」と続けた。
選手たちも、前半20分からのフィジーの猛攻にも心が折れることはなかったと、戦いを振り返った。
WTB長田は「取られたトライはトランジション(攻守交代の状況)の局面でした。得点は取られているけど戦えている感触はあったので、自分たちが求めるラグビーをやろう、と集中しました」。
「(相手のトライにも)落ち込むことはなく、アタックすれば通用していたので、後半に自信はありました」
敗戦の悔しさの中にも前向きな要素を感じている。順目への攻撃と、オフ・ザ・ボール時の一人ひとりの動きでオーバーラップ状態を作り、その中にキックを混ぜてアタックする。そのスタイルは超速ラグビーで相手にチャレンジする試合を重ねる中で、確実に進化し続けている。
長田は、この日のように、自分たちよりランキングが上の相手と競り合う試合を続けることが大事と体感を言葉にした。
ディフェンスについては、個々のタックル力をもっと高める必要性を口にした上で、相手のスペースと時間を埋めるため、全員で前へ出る現在のシステムに好感触を得ているようだ。
「まだ前へ出る時にコネクトが切れることがあるので、そこは修正が必要です」と言いながらも、相手の脅威を止める圧力がフィジー相手にも通じたところはあったと話す。
「(チェイスする態勢の)整備ができている時はいいけど、不用意なキックは減らさないと」と、アウトサイドの選手の視点から感じた課題についても指摘した。

時間をかけて積み上げてきたものがある一方で、まだまだ足りないものもあるのが現在のチーム状況。しかし、インターナショナルの経験が浅い選手たちの集団が結束を固め、前へ前へと歩を進めているのは事実だ。
今回のフィジー戦に向け、チーム内では怪我人が相次いだ。その中で、これまでのレギュラー陣の欠けたポジションに入った選手たちが持てる力を出し、チーム力を引き上げたのは、選手層の深みを感じさせるものだった。
例えば、ファイナルでベンチに入ったFL奥井章仁(フィジー戦で2キャップ目)、初キャップのCTB池田悠希が力を出した。
長田はそのことに触れ、これまで出場機会がなかなかなかった選手たちが、チャンスが巡ってきたときのために最大限の準備をしてきたことが分かると言った。
フィジー戦で2トライを挙げた江良は、自身のマインドセットについて、「日本代表として誇りを持って常にハードな練習をしてきました。勝てる自信もあったし、悔しさが大きい」と試合を振り返った後、テストマッチデビュー直後との覚悟の違いについて、「自信を持ってプレーしようという気持ちが自分の中にある」と話した。
「(相手や自分の置かれた立場を)恐れていたら自分を100パーセント出せない。自分の100パーセントを毎試合出すマインドセットで思い切ってプレーできるようになっています」
この日の試合については、「前半の入りは良かったが、前半の後半に、フィジーらしいラグビーをさせてしまった」と語り、相手の得意なトランジション、アンストラクチャーの展開の中で、相手に強みを出させたと悔やむ。
しかしハーフタイムに指揮官の「ジャパンらしいラグビーを見せよう」の声を聞いて、「もう一度引き締めてプレーし、(相手を)追い詰められた」という。
「フィジカルゲームになると分かっていた中で、前に出られたのはよかった」
スクラムも、相手の組み方を受けて味方フロントローの中で「コミュニケーションをとりながら(前に)出られました」。
ラインアウトからの先制トライはサインプレーでの仕掛け。ピールオフでボールを受けてから、右タッチライン際を走った時のランニングコ―スは個の判断だった。
「外に行くと出されるのでインに走りました。トライできなくても、次につながると思い」と、決断の根拠を口にした。
ディフェンスについては、「(フィジーは)個人の能力が高い。それを2人で止めようと思っていましたが、3人、4人(かけてしまうこと)になったし、1対1となって抜かれたシーンもありました」と反省した。
そして、世界のトップ国と戦うこの秋を見据え、「フィジカル(面の勝負)から逃げたらいけない。チームとしてフィジカル面の強さを上げていきたい」とした。

ジョーンズHCから、フィジカルバトルで勝ち続けろと言われている。
「日本代表、サクラのジャージーを背負っているので、それに恥じないプレーをしないと。ファーストキャップの時から、幼い子たちに希望を与え、勇気づけられるプレーをしたいと思ってきました。逃げたらあかんとこ。(きょうも)フィジカル(の強み)を前面に出してプレーできたのはよかった」
「コミュニケーションの量、つながりが増えました」と言い、チームに流れる空気の良さを感じている。
誰かが倒れる。痛む。そしてトライ。そのたびにみんなが駆け寄る。いい結果が出た時は全員で喜び、ハイタッチ。「コネクトし続けよう、と言っています。チーム力が上がった感覚がある。一人ひとりがチームのために体を張るマインドセットが大事」と話し、「全員が誇りを背負ってプレーしている」と感じている。
この日の先発メンバーに、外国出身選手は5人。ベンチメンバーを含めても6人と、いつもより日本出身の選手が多かった。
近年の試合ではあまりないメンバー構成を見た人の中には不安を感じた人たちもいたかもしれない。江良は、「誇りを持ってというか、意地というか、(気持ちに)火をつけてプレーしました」という。
「エディーさんに、誇りをもってやれ、日本人はハードワークし続けられる、自信を持っていけ、と(言われた)。いいマインドで(試合に)臨めました」
慣れない環境の海外ツアーを経て、チームが結束力と地力を高めることがあると、よく聞く。
3週間のツアーの最後、世界ランク9位の相手に粉砕されそうになったところから盛り返し、6点差に迫り、相手をへとへとにさせた経験が、ただの1敗や惜敗に終わらず、チームと選手たちの成長を加速させるものになることを願う。
10月下旬から、オーストラリア、南アフリカ、アイルランド、ウェールズ、ジョージアと、タフな戦いが続く。
完敗が続いた2024年秋の、辛いツアーとは違うものにしたい。