
グランドファイナルの舞台に、2人の日本人が立った。
8月30日(女子)、31日(男子)と2日かけて、オーストラリア・クインズランド州におけるクラブラグビーリーグ QPR(Queensland Premier Rugby)の決勝戦がブリスベンのバリモアスタジアムで行われた。
このスタジアムは普段、クインズランド・レッズのトレーニング場として使われており、例年QPRの決勝の舞台となっている。丁寧に手入れされた天然芝に立派な観客スタンド。決戦は今年も、素晴らしい環境で開催された。
女子の対戦カードは、3連覇中のボンド大学ラグビークラブとイースト・タイガース。男子の1st グレードは同じくボンド大学と、ジェームズ・オコナーの古巣であり大会2連覇中のブラザーズ・ラグビークラブだった。

ボンド大学には女子チームに横河武蔵野アルテミ・スターズからWTB / FB笹川翼、男子チームには花園近鉄ライナーズからHO上山黎哉がそれぞれ留学していた。両者ともに決勝戦のメンバーに選ばれた。
試合数日前のジャージープレゼンテーションでは、ボンド大学の下部クラブであるボンドパイレーツのOBでもあるジェームズ・スリッパーがプレゼンターを務めた。 MCの “Japanese sensation!” というかけ声と喝采のもと、上山は現役ワラビーズからジャージを受け取った。
女子の部では、笹川が15番で先発出場した。
序盤は相手に先制から連続トライを奪われ、苦しい展開で折り返す。しかし、後半は息を吹き返したかのようにボンドはアタックを続けた。粘り強いディフェンスで何度もピンチを凌いだ。

アタックの中心となったのは、12番のティージェイ・ムーライ(TJ Murray)。今年3月のシドニー大学との試合でデビューし、強烈なタックルで何度も会場を沸かせた15歳は、この日も絶好調だった。
スルスルっと相手のスペースを突く。抜け出しても、倒れない。ゲインラインを幾度となく突破し、後半20分ごろには自らトライも奪った。とても高校1年生とは思えないパフォーマンスだった。そう遠くない将来、国を代表するような選手になるだろう。
また、前半途中からピッチに入ったザラ・コレス(Zara Colless/ 22番)のロングキックはチームを勢い付け、苦しかった試合の流れを大きく変える。このゲームのMVPにも選出された。


笹川は絶妙なタイミングでのパスや、裏に抜けてきた相手への激しいタックルでチームに貢献。結果、33-29でボンドが4連覇を達成した。
笹川自身、これまでは自分のスキルに自信が持てず、どうしてもパスやキックのプレー選択をうまくできないことが悩みだった。
今年4月からチームに加わって以来、プレーの幅を広げるために、ヘッドコーチのローレンス・ファイファ(Lawrence Faifua)のもと公園でパスとキックの時間外練習に励んだ。そのハードワークの成果がしっかりと表れたパフォーマンスだった。
男子の部では、上山は16番のリザーブに入っていた。
出場したのは後半22分から。女子とは異なり、それまでは一進一退の拮抗した流れが続いていた。上山が投入されてから約10分後、裏に抜け出した22番SHディオン・サムエラ(Dion Samuela)のチップキックから23番WTBハミッシュ・ロバーツ(Hamish Roberts)がグラウンディング。27-25とリードをひっくり返した。
後半80分を超えてもなお、ブラザーズはインゴールラインまであと1メートルと迫る。しかし、最後はボールが滑ってノックフォワード。ボンドが守り切った。
ノーサイドのホイッスルと同時に、四方のスタンドから選手たちや応援に駆けつけた人々がなだれ込み、会場は歓喜の渦に包まれた。後半から入ってきたプレーヤーたちが確実に仕事を果たした、劇的な初優勝だった。

上山は、帝京大学の大学4年時に全国大学選手権の優勝経験を持つ。
実は、前々日のトレーニングで 「優勝する雰囲気だと思います」と話していた。結果、その言葉通りとなった。
ボンド大学にとって、男子の優勝、また男女の同時優勝は史上初の出来事。笹川と上山は、その歴史的な偉業達成のメンバーとして名を刻んだ。
笹川と上山は、互いにニュージーランドへの留学経験も持つ。そのニュージーランドの真隣に位置するオーストラリア。今回の留学では、それだけ近い国々にも関わらず、意外にも文化や雰囲気のギャップに驚かされたという。
近日中、同級生でもある2人の対談の公開を予定している。