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カンタベリー代表と正式契約の三宅駿。NPC開幕前にクラブラグビー優勝を決める決勝トライ!
所属するマリスト・アルビオンをクライストチャーチ地区のクラブ王者に導いた三宅駿。(撮影/松尾智規)

カンタベリー代表と正式契約の三宅駿。NPC開幕前にクラブラグビー優勝を決める決勝トライ!

松尾智規

 冬真っ盛りのクライストチャーチで、素晴らしいラグビーを見た。7月27日、クラブレベルを超越したかのような白熱した決勝戦に沸いた。
 カンタベリー地区のクラブラグビーの最高峰リーグである『メトロ・プレミア』の決勝は、マリスト・アルビオン(以下、マリスト)がリンウッドを27-25で破り、劇的な優勝を飾った。
 この試合のヒーローとなったのは、ロスタイムにディフェンスを切り裂き、逆転トライを挙げた三宅駿(みやけ・しゅん)だった。

 決勝は、今年6月にスーパーラグビーの王者に返り咲いたクルセイダーズの本拠地のアポロプロジェクツ・スタジアムに、多くの観客を集めておこなわれた。そこにはクラブのスクール生をはじめ、OB、選手の親族や友達、そして年配のラグビー愛好家たちが足を運び、ラグビー王国ニュージーランドならではの熱気を作り出していた。
 選手たちは、スーパーラグビーと同じように、トンネルをくぐって入場。その先には、両クラブのスクール生がそれぞれのクラブのジャージを身にまとい、花道を作っている。ハイタッチで選手たちをピッチに送り出す演出があった。

最後の最後まで勝敗の行方が分からなかった熱戦を多くのファンが見守った。(撮影/松尾智規)


◆波乱の展開。三宅がいきなり魅せる


 試合は、開始3分に三宅がペナルティゴール(PG)を決めて先制。さらに6分には三宅自ら仕掛けてディフェンスを上手くかわし、トライを挙げる。三宅の活躍によりマリスト・アルビオンが8-0とリードし、最高のスタートを切った。
 しかしその後のマリストは、ラインアウトが不安定でリズムに乗れず、得点を重ねることができない。逆に、リンウッドのパワーランナーの突破に劣勢に立たされる場面が多くなっていった。結果、3トライ2ゴール、1PGを奪われ、8-22とリードを許して前半を終えた。

◆後半は激しい攻防戦。三宅がロスタイムに決めた


 流れを変えたいマリストは、リザーブ選手の投入から勢いを取り戻す。53分、60分に立て続けに2トライを奪い22-22の同点に追いつき試合を振り出しに戻した。
 しかし67分に反則からPGで3点を追加され22-25と再びリードされた。

三宅は決勝トライ(写真左上/右上)にゴールキッカー(写真左下)、前半にもトライ(写真右下)と大活躍だった。(撮影/松尾智規)


 その後は両軍ともに敵陣22メートル付近まで攻め込むものの、ジャッカル(スティール)でチャンスを逃す場面が何度か見られる熱い攻防が続いた。しかし、残り時間4分、マリスト側にキック処理のミスが出る。リンウッドボールのスクラムがマリスト陣で組まれた。
 リンウッドはそこから時間を稼ぐかのように、FWが近場にこだわった安全策の攻撃に徹する。フェーズを重ねるリンウッドの攻撃に対してマリストは果敢にタックルを繰り返す。残り時間は1分半。追う側にとっては、自陣22メートルライン付近での相手ボールと、絶体絶命の状況だった。

 しかし、攻撃しているリンウッドがラックで倒れ込みの反則を犯す。逆転を狙うマリストは、タッチキックで地域を取るのではなく、一切の躊躇なくSHが自陣深い位置からクイックタップでの展開を試みた。
 一気にうしろに下げられたリンウッドの選手たちは、足が止まり始めた。その隙をついたマリストは敵陣ゴール前までボールを運び、FWの近場でトライを狙う。足が止まっているように見えたリンウッドの選手たちも最後の力を振り絞りトライラインを必死に守る。見応えのある攻防は凄まじいものだった。

 ロスタイムに入り、ゴール前中央からのクイックリサイクルから、背番号10の三宅にボールが渡る。BKのディフェンスを巧みなフットワークでかわし、カバーディフェンスのFWの選手にタックルされながらもトライエリアになだれ込んだ。その瞬間、マリストの優勝が決まった。

◆試合後の明暗と三宅の言葉。


 80メートルを挽回されて逆転を許したリンウッドの選手たちは、まさにハートブレイキングだった。ゴールポストの前で呆然とする選手、信じられない結末に傷心する選手たちの姿があちらこちらにあった。
 一方、大逆転勝利のマリストの選手は、両手を突き上げ、抱き合い喜びを爆発させた。

 逆転サヨナラトライを挙げた三宅は喜びを露わにすることはなかったが、興奮を隠しきれない様子だった。コンバージョンを蹴り終え、フルタイムの笛が鳴った瞬間には、安堵したのかグラウンドに手をつく姿があった。その後の表彰式で、ようやく笑顔を見せた。

 表彰式を終えた三宅は、「残り5分ぐらいの時は、負けたと思いました。自陣22メートル(相手ボール)だったし。でも(ボールを取った後)相手がむっちゃ疲れていて、彼らはゴールライン(トライライン)に歩いて帰っていたのでいけると思った。最後(トライを)取れて良かったです」と嬉しそうに語った。

劇的な一戦を制しての優勝に喜びを爆発させるマリスト・アルビオンの選手たち。(撮影/松尾智規)


 三宅のプレーは、試合を通じて素晴らしかった。華麗なフットワークで2トライを挙げる活躍だけでなく、冷静にゲームを読む能力、状況判断の上手さが光った。攻撃面だけでなく、60分に訪れた大ピンチの状況でコーナーぎりぎりで身体を張ってトライを防ぐディフェンスでも勝利に貢献した。昨年NPC(NZ国内選手権)でカンタベリー代表としてデビューをしただけの事はある、貫録のプレーを魅せた。

 昨年のデビュー後には、歴史のあるカンタベリー代表の背番号10の赤黒ジャージに袖を通した。試合数も重ねて信頼を少しずつ得ていった。今年はカンタベリー代表の正スコッドとして三宅の名前があり、晴れて正契約選手となった。

 決勝の翌日(7月28日)の朝8時からカンタベリー代表のミーティングがあるとの事だった。激戦を終えたばかりで厳しいスケジュールになるが、充実した表情だった。

 今年のNPCでの具体的な目標を、「カンタベリーで毎週他の選手からいろいろ学び、少しずつ上手くなれたらいいな、と思っています」と、とても謙虚な言葉が出た。
「NPCが始まるので、これからです」とクラブラグビーとのスピードやテンポの違いについても言及している。NPC開幕を目前に控え、気持ちも高ぶっているようだった。

カンタベリー代表に選ばれた選手たち。チームのオフィシャルFacebookより。(撮影/松尾智規)


 決勝戦後に黄色い声援を含む声が三宅に投げかけられていた。さすがに嬉しそうだったけれど、優勝を決めるトライを挙げる活躍をしたにもかかわらず、はしゃぐことなく、次のステップ(NPC)で成長できるように「毎日を大事にしていきたい」。落ち着いた言葉が胸を打つ。
  ニュージーランドのラグビーの原点でもある『Grass Roots Rugby』の良さ、三宅の素晴らしいパフォーマンス、そして謙虚な姿勢を感じた一日だった。
 この先も、三宅がどんなプレーを見せてくれるのか楽しみだ。

 NPCの開幕は7月31日。オークランド×ワイカトで幕を開ける。三宅所属のカンタベリーのシーズンは、8月2日、昨年の王者ウエリントンとの対戦で始まる。





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