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「彼ら(スプリングボックス)は、オールブラックスを徹底的に打ちのめした」
フルタイムの笛が鳴った瞬間、Sky Sport NZの実況が放った言葉だ。
ザ・ラグビーチャンピオンシップ(以下、TRC)第4節。9月13日におこなわれたオールブラックスとスプリングボックスの第2戦は衝撃的な結果に終わり、ニュージーランド(以下、NZ)国内はどよめいた。
スコアは10-43の大敗。特に後半は0-36と一方的に崩壊し、言葉を失うほどのパフォーマンスだった。だからこそ、実況が使った『embarrass』を含む表現は「徹底的に打ちのめした」よりも、むしろ『彼らは、オールブラックスに大恥をかかせた』と訳す方がしっくりくる。
それほど、この日のオールブラックスは屈辱的な内容で負けた。
◆国内に広がった困惑と失望。
試合後、NZ国内のメディアやファンの間では当然のように困惑が広がった。
毎週日曜午後に放送されるラグビー専門のラジオ番組では、おなじみの司会者が冒頭から悲しげな恒例の音楽を流し、Sky Sportの実況による『大恥をかかせた』というフレーズを4回も繰り返し再生。さらに自らの言葉で「オールブラックスは、大恥をさらした」と語り、番組がスタートした。
オールブラックスが歴史的な大敗を喫するとは、こういうことを意味する。

◆前半は拮抗も、後半はスプリングボックス劇場。
序盤は目まぐるしい展開が続き、まさにエンターテイメントのような前半戦だった。
プレッシャーを受けながらも2度のトライを防いだオールブラックスは、18分にWTBリロイ・カーターがデビュー戦で鮮やかな先制トライ(7-0)。その後同点に追いつかれるも、10-7とリードして折り返した。
しかし後半は、まさに『スプリングボックス劇場』だった。
開始早々のスクラムで後退すると、その勢いを止められずに連続失点。ディフェンスは崩壊し、アタックも無得点。後半だけで5トライを許し、0-36と完敗。最終スコアは10-43。まさに屈辱的な数字がスコアボードに刻まれた。
◆敗因の分析。
【敗因①】セットピースの崩壊
試合前のプレビューでも挙げたポイント、スクラムとラインアウトのセットピースが最大の課題となった。
スクラムは前戦から改善が見られず、試合を通してプレッシャーを受け続けた。
ラインアウトでは、第1戦で相手ボールを何度も奪うほど優勢だったが、第2戦の後半には精度を欠いた。特にHOサミソニ・タウケイアホが交代し、新人ブロディー・マカリスターに代わってから悪化。スプリングボックス相手の大舞台では荷が重かったかもしれない。結果として、セットピースの不安定さが自滅の要因となった。
【敗因②】空中戦、キック処理の脆弱さ
アルゼンチンとの第2戦でも指摘された課題が、今回も露呈した。
第1戦ではダミアン・マッケンジーを中心にある程度対応できていたが、第2戦ではスプリングボックスに徹底的に攻略され、テリトリー(地域)とポゼッション(ボール支配)を奪われ続けた。
毎試合安定した対応ができていない現状では、空中戦の不安定さが振り出しに戻ったと言わざるを得ない。

【敗因③】キャプテンシーへの疑問、再び
この論点もアルゼンチン第2戦後に浮上していた。前週イーデンパークで無敗記録を「51」に更新した試合では、キャプテンのスコット・バレットが積極的に声をかけ、チームを引っ張っていた。
だが、大敗した今回はリーダーシップ不足を指摘する声が再び高まった。勝利しているときよりも、劣勢に立たされたときこそリーダーの力量が問われる。
ロバートソン体制となりスコット・バレットがキャプテンに就任した当初から、その適性には疑問があった。クルセイダーズでもキャプテンを務めていたが、その際はサム・ホワイトロックという“影のリーダー”がいたために好成績を残せていた面もある。
実際、ホワイトロックが去った昨季はチーム(クルセイダーズ)が低迷し、プレーオフ進出すら逃した。ところがキャプテンをデイヴィッド・ハヴィリに託した今季は、立て直して王者に返り咲いている。
こうした事実を踏まえると、スコット・バレットのキャプテンとしての器に再び疑問符がつく。試合後の記者会見で見せた、言葉にし難い表情は象徴的であり、キャプテン継続に不安を覚えた人も少なくなかった。
◆レジェンドたちの厳しい言葉と指揮官の説明。
大敗翌日以降、スポーツラジオ番組(視聴者からの電話参加も含む)では、前日の敗戦要因について活発な議論が交わされた。議論の中心はほぼ共通しており、元選手たちからもスコアと試合内容に対して「恥ずかしい」という言葉が出るほどだった。
また、毎週日曜夜にSky Sportで放送されるラグビー番組では、レジェンドたちが深刻な表情で大敗を振り返る姿があった。スプリングボックスの素晴らしいパフォーマンスを認めつつも、オールブラックスについては「劣勢になった時に答を見つけ出すことができなかった」、「最も失望したのは、残り時間がまだ15分あったのに、試合を立て直せなかったことだ」と厳しい言葉が並んだ。
この感覚は、ラグビー経験の有無に関わらず、多くのNZ国内ラグビーファンも同様に感じている。実際、14点差で残り時間が十分に残っていた場面では、1トライを取れば、試合をまだ振り出しに戻せる状況だった。隣国オーストラリア代表 “ワラビーズ” が今季、劣勢から挽回しているのを見ているだけに、オールブラックスの現状に不安を抱くのも理解できる。

試合後、メディアから徹底的に原因を問われたスコット・ロバートソンHCは、ハイボールで相手に上回られたことを認めつつ、次のように説明をした。
「どのエリアで悪かったのかを調べ、何を直すべきかを見つける」
この発言は、試合中に修正箇所が明確に分からないままプレーしていた可能性を示唆している。試合直後のコーチングボックスの様子もそれを物語っていた。
ホームでの大敗は、先日のアルゼンチン戦での敗北とあわせ、より重みを増した。3年前の大不調時には、当時のHCイアン・フォスターや主将サム・ケインがメディアに袋叩きにされたことを思い出す。今回の大敗でも同じような状況が起こっても不思議ではなかったが、前回ほど過激な報道にはならなかったように見えるのは気のせいだろうか。
会見で指揮官の隣に座ったスコット・バレット主将は、顔色が優れず、緊張や不安がにじむ複雑な表情を見せていた。大敗の重さとチーム再建の責任を背負う立場であることのプレッシャーの重さを感じていた。
来週(9月27日)、オールブラックスは復調の兆しが見えるワラビーズをイーデンパークに迎える。
再び立て直すことはできるのか。新たなプレッシャーが待ち受ける。