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アーディー・サヴェアの100キャップにチームが奮い立った。
フルタイムのホイッスルが鳴った瞬間、数人の選手はピッチに倒れ込んだ。
ラグビー最強ライバル戦にふさわしい激戦を制したオールブラックス(24-17)が、31年間守り続けてきたイーデンパーク無敗記録を『51』試合に更新した。
◆試合前から沸き立つファンの熱気。
9月6日、今季最大のビッグマッチ、オールブラックス×スプリングボックスの当日は終日熱気に包まれた。
午後4時30分、開門までまだ30分、試合時間までは2時間半もあるにもかかわらず、スタジアム周辺はすでに熱狂的なファンであふれていた。
試合会場のイーデンパークの最寄りの「キングスランド駅」に隣接するパブは大混雑。店内はもちろん、歩道や車道にまで人があふれ、ビール1杯を買うのに20分近く並ばなければならないほどだった。
試合を待ち切れないファンたちは大音量の音楽に合わせて踊り出し、スタジアム外でもお祭り騒ぎ。ダークグリーンのジャージに身を包んだスプリングボックスのサポーターの姿が多く、まるで南アフリカの街角にいるかのようだった。

◆熱狂に包まれたスタジアム。オールブラックスが逃げ切る。
4万8000人超の観客で埋め尽くされたイーデンパーク。両国のサポーターが入り混じり、ビッグマッチに相応しい空気が広がった。
国歌斉唱で一度和やかな雰囲気に包まれると、続くオールブラックスのハカ「カパ・オ・パンゴ」で一気に熱狂が爆発。感情の起伏に、誰もが胸を高鳴らせた。
試合は、序盤からオールブラックスの10番ボーデン・バレットの絶妙なキックから次々とチャンスを生み出し、WTBエモニ・ナラワ(2分)、FBウィル・ジョーダン(18分)のトライで最高のスタートを切った(14-0)。
この序盤のリードが最後まで大きくものを言った。
終盤、スクラムでプレッシャーを受けてスプリングボックスに2つのトライを許して7点差に迫られる場面もあったが、その都度冷静に対処し、試合をコントロールした。
前戦アルゼンチン戦での敗北から学んだオールブラックスは、「アルゼンチン戦からの教訓を無駄にしたくなかった」とスコット・ロバートソンHCが語った通り、敗戦の反省を勝利につなげた。

特に司令塔、ボーデン・バレットのゲームメイクは光り、最後まで試合の主導権を握る要因となり、勝利を呼び込んだ。結果、イーデンパークの不敗神話は継続された。
両軍の熱いサポーターたちは、それぞれに盛り上がった。まるで「ワールドカップ決勝」の雰囲気の中で最強ライバルのバトルが幕を閉じた。
オールブラックスの勝因は、レフリーの判定にやや助けられた場面もあったが、ディフェンス、プレーの規律が勝利を後押しした。
SHを中心に怪我人が続出する危機的状況の中で、ワールドカップ2連覇中のスプリングボックスを破った勝利の重みは大きい。
チャンスを確実にものにしたオールブラックスに対し、スプリングボックスはエンジンのかかりが遅く、序盤は、ことごとくチャンスを活かせなかった。その差が勝敗を分けた。プレーに余裕があったのも、オールブラックスの方だった。
また、スプリングボックスの指揮官ラシー・エラスムスHCは、試合前の練習で自チームよりもオールブラックスばかりを見ていたことが印象的だった。首脳陣も含め、チーム全体に余裕がなかったことも敗因のひとつかもしれない。
◆アーディー、節目の100キャップ。
この日の主役は、100キャップを達成したアーディー・サヴェア。節目の試合とあり、仲間より先にピッチに入場した瞬間、スタジアムは大歓声に包まれた。
アーディーの表情からは、いつも以上にエキサイトしている様子が伝わってきた。それでも試合中は冷静さを失わず、激しさと正確さを兼ね備えたいつものアーディーらしいプレーを披露した。
30歳を超えても進化し続けている。後半開始早々のピンチもワールドクラスでスピードスターのWTBチェスリン・コルビとキックチェイスを競り合い、スピードの衰えをまったく感じさせなかった。
試合終盤のジャッカル(スティール)が、勝利を確実にする劇的な瞬間もあった。まさにアーディーのために用意された舞台のようだった。
試合中も「アーディー!」のコールが何度か起こったが、最後のジャッカル時の歓声は格別で、ハカの時を上回る盛り上がりを見せた。
アーディーは自身の100キャップを素晴らしいプレーで飾り、チームの勝利を呼び込んだ。この日はチーム全体が一丸となり、チームメイトたちも節目を祝う意気込みを見せた。
◆感動のセレモニー。家族の絆、胸を打つ言葉。
試合後のインタビューとセレモニーも感動的だった。ピッチ上での試合直後のインタビューでは、「(チームが)勇敢なパフォーマンスだった。ここにいる仲間たちを誇りに思う」と、いつも通り仲間への感謝の言葉を語った。
試合を決めたジャッカルについては、「私たちは互いに支え合わなければいけない。私はただプレーを予測し、チームが私に求めることをやろうとするだけです。シンプルなことです」と、アーディーらしいハンブル(謙虚)な言葉が並んだ。
続く100キャップセレモニーでは、アーディーの家族をはじめ多くの人々がピッチに集まり祝福した。愛妻サスキアさんから、記念のシルバーキャップがアーディーの頭にかぶせられ、キャップ贈呈、キス、ハグと続く温かな光景に、アーディー・サヴェア一家の絆がにじみ出ていた。見守る観客からも温かい拍手が送られ、その場は感動に包まれた。
インタビューでアーディーはまず神に感謝を述べ、その後、先日100キャップを達成したチームメイトのコーディー・テイラーに触れ「コーディーの家族とも一緒にオークランドで祝えるのが嬉しい」と語り、ここでも仲間を思う姿勢を示した。
記念撮影では家族やチームメイトと写真を撮った後、100キャップを達成したばかりのアーディーとコーディーが2人だけで肩を並べ、笑顔で語り合いながら何度もハグをかわす姿も感動的だった。


アーディーはラグビーマンとして一流であることはもちろん、人としても大きな存在感を放つ。キャプテンのスコット・バレットは「彼はチームの精神的なリーダーだ。私たちは彼の節目を特別なものにしたかった。(チームの)パフォーマンスはまさにそれを示していた」と語った。まさにチーム一丸となって、アーディーの節目に華を添えた試合だった。
試合後メディアに対してサヴェアは、「プレッシャーをかけ続けることが大切だと思う。あなたたち(メディア)は、そのプレッシャーを作る素晴らしい役割を果たしてくれている。選手として、そのプレッシャーを感じることで、より良いプレーをしたいという気持ちになる」と話した。
「それこそがこの国の人々にふさわしいことであり、オールブラックスとして期待されていることでもある。だから私はこのプレッシャーが大好きだ。緊張感で体が引き締まるのを感じ、それがファンのために全力でプレーしたいという原動力になる」
100試合の節目を迎えても決しておごらず、さらなる向上を目指す姿勢が胸を打つ。
祝福の余韻を背に、アーディーの視線はすでに次戦(9月13日)のスプリングボックス戦へ向けられている。今週末も熱戦が約束されている。