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いよいよ、オールブラックスの指揮官が動いた。
ザ・ラグビーチャンピオンシップ(以下、TRC)の第3節(9月6日)は、熱狂のイーデンパークで世界チャンピオンのスプリングボックスを24-17で破り不敗神話を死守したオールブラックス。その勝利はアーディー・サヴェアの100テストに華を添えた。
試合前の平日会見では、スコット・ロバートソンHC(愛称:レイザー)が落ち着かない様子を見せ、緊張感が漂っていたが、勝利後には表情が一変した。いかにスプリングボックスとの一戦が重みを持っていたかを物語っている。
ニュージーランド(以下、NZ)国内のメディアもファンもチームと指揮官を称賛。敗北が許されないプレッシャーから解放されたことで、ロバートソンHCは次の一手を打つ余裕を得た。
◆セブンズのスター、WTBカーターがデビューへ。
9月11日、ロバートソンHCは、TRC第4節(9月13日/ウエリントン)、対スプリングボックス戦の23人の登録メンバーを発表。前戦で負傷によりHOコーディー・テイラー(脳震盪)、WTBエモニ・ナラワ(脇腹)の欠場が明かされていた中で先発に5人の変更があった。
最も注目されたのは、左WTB(11番)に抜擢されたリロイ・カーターだ。セブンズ代表として名を馳せたスピードスターは、昨年のパリ・オリンピック後に15人制に専念。今年のスーパーラグビーのチーフスでデビューを果たすと、開幕から持ち味の決定力を発揮して一気に脚光を浴びた。シーズン9トライを挙げてチームの快進撃(レギュラシーズン首位通過)を牽引した。
カーターの魅力は、単なるスピードだけではない。長い距離を走り切る持続力、セブンズ仕込みのスペースを突くランニングスキル、そして高いワークレートと多彩だ。NZ国内では「もっと早く起用すべきだった」との声が多く、アルゼンチン戦での痛い敗戦(8月24日)を挟んだこともあり、待望の代表デビューがついに実現する。

会見でカーターは「この(11番)ジャージを着たレジェンドは、これまでにもたくさんいる。ジョナ・ロムー、ジョー・ロコゾコ、リーコ(イオアネ)。これを着ることができるのは本当に誇らしいです。すべてのキウイ(NZ人)の子どもたちと同じように、ずっと(オールブラックスになる)夢をみていました」と語り、喜びを噛み締めた。
長らく先発に名を連ねてきたWTB/CTBリーコ・イオアネが23人枠から外れたことも大きな話題となったが、カーター起用には、ファンもメディアも大方納得の反応を見せている。
ロバートソンHCは「他の選手に機会を与えた。私の仕事はチームに厚みを持たせること」と説明。その上で「彼(カーター)は非常に速く、ハードワークぶりに我々もワクワクしている。競争心が旺盛で、今が彼のチャンスだ」と期待を寄せた。
【チーム編成のポイント】
・SH(スクラムハーフ)
怪我から復帰したノア・ホザムがいきなり先発入り。前週の大一番で好パフォーマンスを見せたフィンレー・クリスティーが控えに回り、前節で落ち着いたデビューを果たしたカイル・プレストンはメンバー外となった。
・バックスリー(WTB/FB)
ナラワ欠場により右WTB(14番)にはウィル・ジョーダンがFBからシフト。FB(15番)には、前週ナラワの負傷交代後に好プレーを見せたダミアン・マッケンジーが昇格。デビューのカーターと共に、攻撃的なバックスリーの布陣となった。
・フロントロー(PR/HO)
テイラーの欠場に伴い、HOはサミソニ・タウケイアホがベンチから先発昇格で2番を付ける。PRタイレル・ロマックスが先発復帰となり3番を付け、フレッチャー・ニューウェルが控えに回った。
・バックロー(FL/NO8)
注目のバックローは、前戦と同じ布陣。特に6番で2戦連続先発のサイモン・パーカーが一戦目に続いてフィジカルバトルでチームに貢献できるか注目だ。なお、今季、代表ではブラインドサイドFL(6番)での出場が多かったトゥポウ・ヴァアイは第2戦も本来の持ち場、LOでの出場となった。
ベンチには、HOブロディー・マカリスターが7月のフランス戦以来のメンバー入りで2キャップ目を狙う。さらに、PRタマイティー・ウイリアムズ、LOファビアン・ホランド、FLデュプレッシー・キリフィ、前戦で貴重なトライを挙げたCTBクイン・トゥパエア、そして注目株のSO/FBルーベン・ラヴなど、将来性と実力を兼ね備えた選手が並ぶ。

◆試合のポイントはセットピース。
前節の試合では、両軍の強みと課題がセットピース(スクラム、ラインアウト)に如実に表れた。
【ラインアウト】南アフリカの強みを、オールブラックスはLOヴァアイを中心に何度もスティール。修正してくるスプリングボックスに対し、どこまで再現できるかがポイントになりそうだ。
【スクラム】オールブラックスは前節、スクラムで苦戦した。後半の反撃を許した原因となり、2連勝を狙うにはここでの修正が必須となる。
【接点・空中戦】試合の優位性を握るうえで引き続き注目。前戦で途中出場のマッケンジーのキック処理が安定していたこともあり、第2戦でも確実に処理できるかが鍵となる。
◆注目対決:リロイ・カーター × チェスリン・コルビ (WTB)
ビッグマッチだ。見どころがたくさんある中で、この2人の対面対決に注目したい。
両者ともセブンズ経験を持つ、スピードスターのWTB。カーターはデビュー戦で、いきなり世界トップクラスのウィング、チェスリン・コルビとの激突を迎える。スピードとキレのあるランが、どれほど観客を魅了するか、楽しみな対決だ。
カーターは、「彼は素晴らしい選手で、今まさに最高のウィングの一人だ。でも、私にとっては新たな挑戦に過ぎない。彼と対戦するのが待ちきれないよ」と、気持ちが高ぶっているようだ。
2連敗だけは避けたい世界王者スプリングボックス。対するオールブラックスは、ホームでの連勝を狙う。両者のプライドがぶつかり合う一戦は、再び観る者すべてを熱狂させる激戦になることは間違いない。
