![成長ゆえの涙。先にある未来。北村瞬太郎[静岡ブルーレヴズ]](https://www.justrugby.jp/cms/wp-content/uploads/2025/05/20250517_QF_revs-steelers_05387.jpg)
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大事な試合に負けた責任を自分に向けた。
このシーズンを長くピッチの上で過ごして責任感が芽生えた。
北村瞬太郎の目からは涙が溢れ、顔はくしゃくしゃだった。
5月17日に花園ラグビー場でおこなわれたトップリーグのプレーオフトーナメント準々決勝で、静岡ブルーレヴズはコベルコ神戸スティーラーズに20-35と敗れた。
レギュラーシーズンで4位となり、プレーオフに進出した静岡ブルーレヴズは、今季2度の対戦で2勝している5位のスティーラーズと、この日の試合を戦った。
レヴズは前節(5月10日/レギュラーシーズン最終節)の対戦でも29-23と勝利。2週続けての顔合わせだった。
シーズン3度目の対戦は、過去2回とは様相が違った。
スクラムで相手からペナルティを奪うのは赤いジャージーの側。レヴズはスティーラーズの後手を踏み、前半を10-17とリードされると、常に先を走られたままフルタイムを迎えた。

レヴズのSH北村は試合後、「ただただ悔しい。80分の打ち合いで負けた。ゲームメイクで後手に回った。それが押し込まれる原因になった」と話した。
10-24のスコアで迎えた後半11分、北村はトライを挙げた。ターンオーバーから切り返し、攻めたボールを手にすると、持ち味のスピードで相手防御を切り裂いてトライラインを越えた。
コンバージョンキックも決まり、17-24と再び迫った。
ただチームは、直後のキックオフボールからのアタックでハンドリングエラーをするなど、なかなか勢いに乗ることができなかった。北村は、「ひとつのミスから、自陣で試合をすることが多かった」と振り返った。
前半35分過ぎから相手トライライン近くで攻め立て、結果的にPGで3点を得たシーンも悔やんだ。
「あそこはうまくやっていれば、5点か7点にできたと思います。それなのに自分で突っ込んでしまった。あれがターニングポイントだったかもしれない」
相手の反則を誘いはしたものの、流れを途切れさせたと反省した。
リーグワン発足以来、チームは初めてのプレーオフ。2023-24シーズンの途中、アーリーエントリーでレヴズの一員となった自分にとっても初の大舞台。
「いつも通り、という気持ちでいましたが、相手も懸けてくるものが違いました。その中で、普段と同じプレーができませんでした」
この日のスティーラーズは、気持ちを前面に出してスクラムを組み、ディフェンスしているように感じた。
それを「受けてしまった」。
相手の気迫をはね返すだけの強いマインドが、自分たちには足りなかった。
今季は東芝ブレイブルーパス東京から2勝を挙げ、埼玉パナソニックワイルドナイツにも勝つなど、勢いに乗った時には無類の強さを発揮する一方で、脆さも同居していた。
思うようにゲームを進められない時に、どう戦うのか。本当に強いチームには一貫性がある。

【写真右上】7番で先発の大戸裕矢。80分働き続けた
【写真左下】スティーラーズ戦には後半から出場したFLクワッガ・スミス主将
【写真右下】ファンは試合前から試合後まで大きな声援を送った
「スクラムやラインアウトモールなど、自分たちが立ち返るところをもっと強くしないといけないですね。試合の中でうまくいかないときに、そういうものがあれば焦らない。自分たちの強みをさらに磨けば、もっとレヴズらしいラグビーができるはずです」
レギュラーシーズンの全18試合に加えてこの日のプレーオフと、今季は19試合すべてに出場した。実質1年目から自分の強みであるスピードを前面に押し出してプレーし、15トライを挙げる活躍だった。
今季、北村がこれだけ飛躍すると思っていた人がいただろうか。
立命館大から加わったままのマインドとプレースタイルでは、輝くことはなかった。チームに求められるプレーをする中で、自分の強みを出したから輝いた。
2024年1月に立命館大学からアーリーエントリーで加わった。しかし出場機会がないまま2023-24シーズンを終える。
今季開幕からチャンスをつかめたのは、この1年の間に自分を変え、高めたからだ。
ブルーレヴズに加わった当時のことを思い出すと恥ずかしくなる。
チームの勝利の前に、自分の活躍。以前はそんな思考回路だったから、練習でも、自分をアピールするプレーが多かった。
得意とするランプレーを出すタイミングを探してばかりだった。
目が覚めたのは、藤井雄一郎監督との1対1の面談の時だった。身勝手さを指摘された。そして、「それでは一生(試合に)出さない」と言われた。
恥ずかしい自分に気がついた。
「自分が目立とうとするのではなく、自分のプレーで周囲を目立たせろ。そうしているうちに、最後に自分の前が空くから」
その言葉を信じてチームに求められることを徹底したら、その通りになった。そして、実戦でくり返しているうちに、その言葉は、自分のスタイルとなる。
「監督に言われたことが、いま、自分の強みになっています」
シーズンを通してチームの真ん中でプレーしたから、責任感もチーム愛も深くなった。
スティーラーズ戦に敗れてシーズンが終わった時に涙を流し、ベクトルを自分に向けて敗因を話したのも、シーズン前とはまったく違う北村瞬太郎になっていたからだ。自分よりチームのことが大事な9番になった。

スティーラーズ戦では、トイメンとして対峙したベテランの日和佐篤がプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた。
「個人的な対決は意識していませんでしたが、僕より日和佐さんの方が上だったというだけ。シンプルにそう受け止めます」と言って、「盗めるところは盗みます。来シーズンは誰にも負けたくない」とさらなる成長を誓った。
「今シーズンをしっかり振り返って、リーグワンで一番のハーフになれるよう、ゼロから、また1年間やっていきたいですね」
これだけの活躍をしたなら日本代表への招集もあるのではないか。そう水を向けると、「シーズン中はレヴズのラグビーに集中して考えていませんでしたが、シーズンも終わりました。ラグビーをやっている以上、世界や日本代表は、誰もが目指したい場所。僕も目指していきたい」と意欲を口にした。
赤白のジャージーを着て濃密な時間がさらに続くなら、進化のスピードはさらに増す。