![「一生出さない」から始まった。北村瞬太郎[静岡ブルーレヴズ]](https://www.justrugby.jp/cms/wp-content/uploads/2025/02/2KAM0320_2.jpg)
両チームの魂がキックオフ直後からぶつかり合った。
第5節で昨季王者の東芝ブレイブルーパス東京に勝ち、今季開幕からの5戦を4勝1敗、3位の好成績でリーグワンの序盤を走る静岡ブルーレヴズ。2月1日は、ヤマハスタジアムに東京サントリーサンゴリアスを迎えて戦った。
好調なブルーレヴズとは違いサンゴリアスは、前節の三重ホンダヒート戦で今季初勝利(1勝2敗2引き分け)と、予想外のスタートを切っていた。
戦前、勢いはホストチームにあると思われた。
しかし、結果は14-33。ブルーレヴズは先制点を奪い、逆転されても後半始まってすぐにスコアをひっくり返したのに終盤崩れて敗れた。
反則17(相手は10)。自分たちの強みを出す時間を長く作れなかった。

今季開幕からの全5試合に出場し、ブレイブルーパス戦では2トライでプレーヤー・オブ・ザ・マッチにも選出されたSH北村瞬太郎は、サンゴリアス戦にも出場した。
今季2戦全勝中だったホストゲームで勝利を手にしたかった。
思うような結果を得ることができず、北村は「分析されていたように感じました。自分たちのラグビーをさせてもらえなかった」と体感を語った。
「(防御で)ファーストキャリアーを絞って前に出てきました。ブレイクダウンで圧をかけてきた。(自分たちが)嫌なことをしてきました」
個人的には、いいパフォーマンスを見せたシーンもあった。
後半1分過ぎ、カウンターアタックから奪ったトライ時は、抜け出したLOマリー・ダグラスを反応良くサポート。パスを受けた後、結果的に走り切ったWTBマロ・ツイタマにつないだ。
しかし、あらためて思う。ラグビーは簡単ではない。
トライシーンを「モメンタムができつつあった。そう感じていた時に(ダグラスが)抜け出したのでサポートに走りました」と振り返るも、「すべてうまくいく試合はないですね。(相手の圧に)飲まれました。試合中に切り替えられませんでした。今後、上位と戦う時にどうしていくのか。試合を振り返ってそれを考えていかないといけないし、学びになりました」と足元を見つめた。
北村は2024年1月に立命館大学からアーリーエントリーで加わった。しかし出場機会がないまま2023-24シーズンを終える。
今季開幕からチャンスをつかめたのは、この1年の間に自分を変え、高めてきたからだ。
ブルーレヴズに加わった当時のことを思い出すと恥ずかしくなる。「チームが勝つより、自分が活躍したいという気持ちが強かった」と回想する。
プレータイムを得たい気持ちからとはいえ、自分が得意とするランプレーをアピールするため、スペースが空いていなくても無理に走ろうとするプレーが周囲に受け入れられるはずがなかった。

藤井雄一郎監督との1対1の面談の際に言われたことが、変わるきっかけとなった。
「お前のことがいちばん心配」と切り出されると、練習での動きから伝わる身勝手さを指摘され、「そんなんじゃ一生(試合に)出さない」と言われた。
横浜ラグビースクールに在籍していた小4の時からスクラムハーフ。同スクールの中学部時代は神奈川県スクール選抜で全国ジュニア大会にも出場している。高校は、仲の良かった伊藤耕太郎と一緒に國學院栃木へ進学。レギュラーをつかんだ。
大学も伊藤ともに明大への進学を志望していたが、思うようにはならず、誘いのあった立命館大へ。ここでも1年生時から出場機会を得た。
4年生時は7試合で5トライを奪っている。
「ちょっとでもスペースがあればそこを突いていたし、そのままトライになることも多かった」と回想する当時の感覚のまま、ブルーレヴズでもプレーしてしまっていた。
「でもリーグワンのレベルでは、万が一抜けても、必ずカバーディフェンスにつかまるし、それが個人の勝手な動きならターンオーバーされてしまうんです」
藤井監督は、そういうシーンを練習で何度も見ていたから厳しい言葉で指摘した。
「自分が目立とうとするのではなく、自分のプレーで周囲を目立たせるんだ。そうしているうちに、最後に自分の前が空くんだ、と」
自分で積み上げてきたスタイルもあっただろう。言われたことと違うことをして結果を残してやろうと考えても不思議ではなかったが、「言われたことが『どストライク』で、自分を貫こうと思いませんでした」
そこから意識を変えた。スキルも高めた。変化に力を貸してくれたのは、2023-24シーズン限りで現役を退いた矢富勇毅アシスタントコーチだった。
目の前が空いた時に一気に走れるハーフの代表的な存在だった人が、練習にとことん付き合ってくれた。

「矢富さんが(ここぞのときに)走れたのは、長くて速いパスがあったからです。それを放り続けられるから、目の前が空く。バランスの良さが凄い。自分もパスを高めることから始めました」
ラックへの入り方。パスした後のランコース。「ゼロから100まで教わりました」。
それまで自分が思っていた常識と違う、レヴズの常識も理解した。
「例えばボールのさばき。これまで自分が思っていたこととまったく違ったんです。大学までは、ゴール前にいけばいくほどハーフはテンポを出さないとトライを取れない。中盤はいろんなオプションがあるので、少しゆっくり、ラックに入りながら周囲を見て……と考えていました。でも、ここは真逆。中盤はどんどんさばいていくチーム。ゴール前は周りを見て、空いているところをしっかり攻める」
長くやってきたこと、考えを変えることは簡単ではなかった。今季開幕前も、決して順調だったとは言えない。怪我もあり、プレシーズンマッチ序盤は欠場。延岡合宿での練習では他のポジションに回されることもあった。
そんな中でも徹底してパス練習を続けた成果がシーズンに入って出た。
求めていた光景が目の前に現れたのが東芝戦だった。34-28と勝ち切った試合の中で背番号9は2回、インゴールに入った。
「FWが激しくプレーしてくれて、パスを投げていたら、本当に自分の前が空きました」
その感覚は、教えてもらえるものではない。苦労して追い求めていたシーンに出会えたことは大きい。
その試合から2週間後、サンゴリアス戦で勝負の厳しさを味わったことは、長い目で見ればいい財産となるだろう。
相手の9番は、「本当に勉強になる」とリスペクトする流大(ながれ・ゆたか)だった。

試合後、ピッチの上で感じたことを「うまい。自分でゲームを作る。グラウンド全体を見て、こうなったらこうなると分かっていて、いちばん嫌なプレーをして、ここに蹴られたくないというスペースにキックを蹴って、テンポよくパスして、ここでくるだろうな、という時にワンテンポずらす」と語った。
「以前は(横浜キヤノンイーグルスのファフ)デクラークのような強気なハーフに憧れていましたが、いまは、流さんのようなタイプになりたいと思っています。ただパス、ラン、キックをするのではなく、その局面、局面に全部のオプションを持っていて、その時にもっともいいプレーを選択できるようになりたいですね」
走るスピード、パスの速さ、さばきのテンポには自信がある。
攻撃力に目を奪われがちも、高校3年時からつぶれている両耳も見逃してはいけない。
「タックルもいけます」