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ハイテンポな球捌きで強気に仕掛ける果敢な姿は、音を立てて暴れる爆竹のようだ。
宮川博登は、闘志をむき出しにして戦うスタイルと、重要局面での勝負強さが魅力のスクラムハーフだ。ボールを持たない時間帯も、強烈なプレッシャーを与え、相手のペースを崩す。まだまだ粗削りなところはあるものの、その一挙手一投足がチームに活力を与える。対戦者にとっては非常に厄介で、脅威となる。
2025年4月から、横河武蔵野アトラスターズでプレーしている。1年目からチームにフィットし、トップイーストBグループ優勝に大きく貢献した。強い意志と行動力に、他の人とは違う、何か特別な片鱗を感じさせるルーキーの登場は、横河武蔵野にとって、未来を託す9番が見つかったというところか。
今シーズンは、リーグ戦の8試合中6試合に出場した。初めて先発起用されたのは2025年11月9日、武蔵野陸上競技場でおこなわれたライオンファングス戦だった。前半30分には初トライを挙げ、チームの期待にスコアで応えた。

春のトレーニングマッチでは全体の流れに乗り切れず、必死な形相を浮かべる場面もあった。その後、右肩上がりで調子を上げ、自身のピークをうまく秋に合わせていった印象を受けた。
「チームに馴染んできたのが夏頃という感じでした。春シーズンは、なかなか自分自身の強みを出せず、チームの遂行するラグビーに上手くフィットできていませんでした。夏頃からチームメイトとプレー外でのコミュニケーションを取ることで仲が深まり、試合でのパフォーマンス向上に繋がりました。年が離れた先輩方からも可愛がってもらい、チームメイトとの居心地が良くなったことが、チームにフィットできた要因だと思います」
トップイーストリーグBグループの横河武蔵野は、降格1年目となる2025年度のリーグ戦で1位となり、12月20日、日立Sun Nexus茨城(A5位)とのA/B入替戦に臨んだ。前半は7-10と日立がリードしたが、2点ビハインドで迎えた後半47分、青い烈風・WTB宮上廉が約30メートルを走り切る逆転トライを奪い、19-16の3点差で退けた。
来シーズンはAグループの舞台に返り咲き、創部80周年を迎える。
再昇格を勝ち取った黒須夏樹ヘッドコーチ(以下、HC)の、勝者の弁はこうだ。
「今は、とにかく選手たちの1年間のハードワークが報われて良かったなという気持ちです。遠方まで足を運んでいただいたファンの皆さんとは、2週間前の優勝と今日の昇格の喜びを分かち合うことができ、大変嬉しく思います。シーズンを通して熱い声援ありがとうございました」

試合内容について、こう振り返る。
「普段しないようなイージーミスを前半自陣内で犯し、それでも3点ビハインドでハーフタイムを迎えられたのは、春から一番強化してきたディフェンスのおかげでした。後半はスチールを連発し、ロスタイムではアタックを継続して逆転トライを奪えたので、本当に素晴らしいパフォーマンスだったと思います。しかもそのロスタイムには、交代で入った、我々が“ガッツメンバー”と呼ぶ選手たちが躍動してくれたのも、チームとして誇らしかったです」
ハーフタイムのロッカーでは、選手たちが落ち着いて前半のレビューをおこなっていたそうだ。黒須HCからは、後半やるべきことだけを明確に伝えた。「アタックでのサポート、ディフェンスでは踏み込んでのタックルです」。
この試合に怪我で不出場だった宮川は、試合前、出場メンバーのためにノンメンバー全員から応援メッセージを集めた。若林将哉と山田聖也は、モチベーションビデオを作った。
「それは今のアトラスターズの一体感を体現しているものでした。たとえ入替戦に負けたとしても、チーム作りのプロセスとしては大成功だったと感じました」
そう話す黒須HCは、2025年6月にチームに合流して以来、毎回のゲームごとに、課題と成果を選手の一人ひとりにフィードバックしてきた。
「夏樹さんからは、毎回、アタックのことを高く評価していただいています。『この判断はテレパシーでも仲間と繋がっているの?』といったお褒めの言葉をいただき、モチベーションアップに繋がっています」
ディフェンスに関しては、毎回、修正を指摘されていたらしい。
「味方を自分の指示で動かすことについてです。LINEで映像と共に細かいアドバイスをいただいており、日々練習で改善しています。徐々にアトラスターズのディフェンス・システムにフィットすることができ、フィードバックでも改善できているねといった言葉をいただいています」

リーグ戦では、チーム戦略を理解し、自分の強みを生かし、難なくチームにフィットしているように見えた宮川だったが、「今年はシーズンを通してパスの修正をおこなっていました」と明かした。
「ザブさん(森洋三郎BKコーチ)やSHの先輩方につきっきりで見てもらいながら、試行錯誤を重ねて、パススキルの向上に取り組んでいました。もともと高校、大学時代からハイテンポに捌くことを得意としていましたが、その癖から全てのラックから一歩持ってボールを捌いており、チームのリズムが崩れることがありました」
そこを修正しようと、ラックからの球捌きを入念におこなった。
「シーズンでは、ボールを持ち出すところと、その場から捌くところを使い分けて、上手くできるようになりました。このスキルが良い判断へと繋がったと考えます」
練習の積み重ねによって、キックにも自信が生まれた。
「秩父宮でも強みは出せていました。キックに関してはチームの戦略で、自分でもかなり練習して強みにもなっていたので、思い切って蹴っていました。常に同じフォームになるように意識して、練習してきました」
残念ながら、2回目の先発出場となった11月22日の富士フイルム戦(秩父宮)で左膝の前十字靭帯を断裂した。1年目のプレーは、そこで終了。復帰は来年の夏頃になる予定だ。
先のことは、あまり考えたことがないという。10年後に、自分がどうなっていたいかと尋ねると、「まだまだプレーしていたい」と切り出す。
今年9月14日におこなわれた開幕戦が、横河武蔵野でのファーストキャップとなった宮川。かたや、チーム最年長のSH・那須光(35歳)は、その試合で100キャップに到達した。
「那須さんの100キャップの試合に1キャップとして自分が出場して、100の凄さを体感して、自分も目指したいって思いました。試合数の少ないトップイーストで、100試合の出場は簡単ではないことは分かっていますが、10年後はその数字を狙える位置にいたい、もしくは達成していたいです。あと、チームがリーグワンに上がれていたら嬉しいです」
宮川がひたすら進み入ろうとするその世界に、地図はない。しかし懐の中に、何かとてつもなく楽しいことが始まるような、明日の期待を秘めている。
