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笑顔のフィニッシャー。西端玄汰[清水建設江東ブルーシャークス]
ヴォルテクス戦の後半26分、インゴール右端に飛び込んだ。「コーチからの試合前のフィードバックなどを活かしてプレーしています」。(撮影/松本かおり)
2025.12.26
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笑顔のフィニッシャー。西端玄汰[清水建設江東ブルーシャークス]

田村一博

 慣れ親しんだグラウンドで弾けるようにプレーした。
 玄海ジュニアラグビークラブ、東福岡高校で基礎を学び、近大を経て清水建設江東ブルーシャークスに入った西端玄汰(にしばた・げんた)が、のびのびとプレーした。

 12月20日に福岡、東平尾公園博多の森陸上競技場でおこなわれた九州電力キューデンヴォルテクスとの試合(リーグワン、ディビジョン2)は、40-27のスコアでブルーシャークスが逆転勝ちを手にした。
 前半は7-20と劣勢も、後半に5トライを重ねた。

 そのうちの1トライを2024-25シーズンの途中にアーリーエントリーで加入し、今季が実質1年目の西端が挙げた。
 後半8分にステップで相手を翻弄、右隅に飛び込んだものは、TMOでの検証後にタッチに出たと判定されてキャンセルされた。しかし同26分に正真正銘、トライラインを越えて5点を追加した。
 21-20と均衡したスコアを広げるものだった。

後半8分、TMOの結果トライがキャンセルされるも、ステップで相手を抜き、決めた、いい走りだった。(撮影/松本かおり)


 プレシーズンに取り組んだ土台を大きくするトレーニングが実り、FWのセットプレー強化、全員の運動量増加が実現した。
 ブルーシャークスはその強みをしっかり出し、この日の勝利で開幕2連勝とした。

 2024-25シーズン、西端は狭山セコムラガッツとの入替戦1試合に出場しただけだったが、今季は開幕から2戦連続で先発の座をつかんでいる。そしてこの日、今季初トライを挙げて「ちょっとは勝利に貢献できたかもしれません」と控え目に喜びの言葉を口にした。

 高校時代まで過ごした地でのパフォーマンスを振り返り、「アタックでは良かったところもありましたが、コーチからも言われている課題がディフェンスです。きょうも、そこはあまり良くなかった」と反省する。

 トライについては、「(相手のディフェンスは)外のスペースが空くと、分析の結果がコーチから事前に伝えられていました。そこをビリー(バーンズ/SO)らが分かってくれていました。ごっつぁんトライです」。
「自分の力で取り切れるようになりたい」と続けた。

 この日のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれた10番のビリー・バーンズは、昨季まで豊田自動織機シャトルズ愛知で抜群のゲームコントロールを見せていたフレディ・バーンズ(現在、ルーマニアのディナモ・ブカレスト所属)の弟。アイルランド代表キャップ7を持つ。兄同様、周囲を巧みに動かす力に長けている。

 西端は練習や試合でバーンズと同じ時間を過ごし、早いタイミングで声掛けをするのが大事と理解し、実践。それが好結果を呼んでいる。
 今季初戦の日本製鉄釜石シーウェイブス戦(28-17)でもコールが効いて、ラインアウトから防御をブレイクするシーンがあった。そしてこの日も、「ここにいる」と伝えたことが奏功した。

2002年7月21日生まれの23歳。176センチ、82キロ。玄海ジュニアラグビークラブ→東福岡→近大。2024-25シーズン途中にアーリーエントリーでブルーシャークスへ。(撮影/松本かおり)


 ステップのキレとキックの利き足も含め、14番側を好む好ランナーは、176センチ、82キロ。ランを自分の強みとしてきた。そして、「社会人になってハイパントも競れるようになってきたので、それも新しい強みにしていきたい」とする。

 スクラムを押し込んだことをはじめ、FWがヴォルテクスに圧力をかけ続けた結果、後半に流れをつかんだこの日。西端は野村三四郎、立川直道、李優河のフロントローに感謝するとともに、「バックスがもっとトライを取って、走れば、フォワードが楽になると思うのでもっと頑張りたい」と話す。

 仁木啓裕監督から「元気印」と呼ばれ、吉廣広征ヘッドコーチからも、「チームの盛り上がりを呼ぶ」と言われる。みんなに可愛がられるタイプだ。
 事実この人の得点シーンのあとは、全員でおこなうトライ後のアクションにも勢いがあった。

 父・要さんは宗像サニックスブルースのバックローとして活躍した人(現在は安川電機BLUE BLAZEヘッドコーチ)。妹の渚さん(高3)、湊美(みなみ)さん(高1)は、2人とも福岡レディースで全国大会も経験している。濃密なラグビーファミリーの中で育った。

 この日のスタジアムは、高校3年時の花園予選決勝でもプレーした場所で、5年ぶりに駆けた。「ここには、いい思い出が多いですね。あの時の決勝も独走トライをしたことを覚えています」。
 家族や友人、出身クラブの玄海ジュニアラグビークラブの子どもたちの姿もあり、「何人かが声をかけてくれました」と表情を崩す。いい一日になった。

「父に教わったのは、気持ち、です。アドバイスはいつも、気合い、でした。ラグビーの基礎は、スクールのコーチに教わりました」と少年時代を思い出して笑う。
 自宅は、今年日本代表になったクボタスピアーズ船橋・東京ベイの廣瀬雄也の家と30秒の距離。一歳上の廣瀬、その弟の幹太(福岡工業大3年)、父・要さん、そして自分の4人で、いつも暗くなるまで2×2に興じた。そんな毎日も、いまの自分の一部を作っている。

表情豊か。玄海ジュニアラグビークラブでともにプレーした、NECグリーンロケッツ東葛のFL森山雄太、SH藤井達哉らと対戦することも楽しみにしている。(撮影/松本かおり)


「(廣瀬雄也とは)小学校も同じだったので、いつも一緒に通学していました。それが、東福岡の3年のときにキャプテンをして、急に頭も良くなって(勉強もして)、明治でもキャプテンですよ。日本代表にもなった。遠くに行っちゃった感じです」
 そう言いながら、「自分も頑張ろう、と思います」と続ける。

 ラグビー100パーセント×仕事100パーセントの生活は思っていた以上のハードさも、「だいぶ慣れてきました」と前向き。「年内2勝というチームが目標としていたものは今回実現できたので、(D1への)昇格など、この先にある目標にも貢献していけるようにしたい」と言う。

 話していると、周囲を元気にする人と伝わってくる。
 近大時代の同期たち、日本代表になったコベルコ神戸スティーラーズの植田和磨(WTB)について「遠くに行った」と笑顔で称え、ブルーシャークスでもチームメートとなり、昨季すぐ8戦に出場した藤岡竜也(CTB)を「僕にはないストイックさがある」。

 仲間の活躍を素直に喜び、それを自分のパワーにできる。そんな循環力を自然と身につけている人は、強い。

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