自立。越権。そのあいだに「プレーヤーパワー」がある。
あらためて意味するところは以下のとおり。指導体制のふがいなさを理由に中心選手がチームの方針を決める。あるいはコーチ(監督)の人事に主力が影響を駆使する。
先のオールブラックスのスコット・ロバートソンHC(ヘッドコーチ)の解任劇の背景にそれがあった。と、ニュージーランドのメディアはしきりに伝えた。
コベルコ神戸スティーラーズ所属の世界的バックロー、アーディ・サベアは「HC留任」なら離脱をほのめかした。そんな報道すら。ニュージーランド・ヘラルド紙を引く。
「ヘラルドの取材では、32歳のサベアは、オールブラックスのコーチングの顔ぶれに変化のない場合、来年末までの(ニュージーランド協会との)契約をまっとうせず、サバティカル(功労者に許される短期契約)で加わった神戸への残留やヨーロッパのクラブへの移籍を検討していた」
こういうことは公式には否定される。同国協会のチェアマン、第1回ワールドカップ優勝キャプテンのデヴィッド・カークはもちろん述べた。
「辞任の背景に選手の反乱はない」(同)
事実としては、協会によるレビュー(シーズン振り返り)のための代表各人へのインタビューのあと、にわかに任を解く勢いは増した。
クルセイダーズにおいてはスーパーラグビー7連覇という圧巻の成績をもたらした敏腕、スコット・ロバートソンは、満を持しての就任に際し、セレクションなどで大きく自分の色を出さず、前任のイアン・フォスター期の主力の多くを残した。

じんわり、漸進的な強化に自信があったのかもしれない。結果としてはレオン・マクドナルド(現・横浜キヤノンイーグルスHC)ら複数のアシスタントコーチの離脱もあり、腰の定まる前に「20勝7敗」のレコードを「軌道に乗れず(チェアマンのコメント)」と突き放された。
プレーヤーパワーには低迷脱出に際しての即効性がある。しかし、長期的には危険だ。
中核をなすプレーヤーが戦法決定やレギュラー選考の領域に入り込むと、うまく運ばないときにチームやクラブ内の不満が、選手と選手という、いわば同じ高さであちこち飛び交う。たとえば大物スタンドオフに「ごめん。メンバー外だ」と告げられると、鬱憤はたまる。同じポジションの者ならなおさらだ。先には崩壊が待つ。
監督に外されれば悔しいが、そこで完結する。コーチの務めには「不平や不服の吸収」も含まれる。
ではプレーヤーパワーと自立的リーダーシップの違いとは。
2015年8月、ワイルドナイツを率いて2シーズン目を迎えるロビー・ディーンズに質問したら、こう答えた。
「まったく異なります。グラウンドに発揮されるリーダーシップはコーチの側が選手へ委譲するものです。ふたつの山があって、私はこちらに登りたい、選手はこちらがよいと意見が分かれる。同じくらい困難で似たような景色を見られるのなら、(リーグ開幕まで3カ月の)この時期は、選手の声を尊重します。みずからがつかむ。責任を分かち合う。そこが違いを呼ぶわけです」
芝の上には、まるで監督のようなリーダーが存在する。だから土壇場に強い。ただし、その者を任命かつ起用するのは、あくまでもコーチ席の人間である。これが正しい。
2025年度の国内大学ラグビーに「自立」の成功例があった。シーズン中盤までの足踏みに学生が危機感を覚え、部員主導で攻守と心理を整えてみせた。
明治大学の栄冠である。
開幕節。筑波大学に負けた。勝ったのに、よいところが少なく意気消沈の日本体育大学戦などを経て、11月2日の対慶應義塾大学は、引っくり返されておかしくない2点差の白星。引き締まった姿とは距離があった。
ところが11月16日。帝京大学を向こうに劇的な逆転勝利を遂げた。試合後の取材で、メンバーだけの長時間ミーティングを重ねての「覚醒」は明らかとなる。
気づいて変わる方向がよかった。複雑→簡潔。高く長く、あえて短く、キックをどしどし用いて、いざ敵陣に侵入するとFWの強靭とBKのゲーム感覚でスコアしてみせる。

慶應戦の終盤、4分20秒もゴール前で攻め立てながら阻まれ、逆襲を浴びたのに、難敵のはずの早稲田大学のトライラインをスッと越えてみせる。個々の能力が高いので、攻守のイメージにブレがなくなり、全部員の心構えの向きさえそろえば、たちまち力は倍増した。
敗北。停滞。大苦戦の辛勝。蘇生。あとは突っ走った。神鳥裕之監督らしい包容の構えも手伝って、まれなる「よいプレーヤーパワー」にも近い自立は機能した。
再現性はあるか。微妙かもしれず、そこがよかった。雨天続きをスレスレでしのいだら青空に大輪は咲いた。意図を超える経緯と結末。スポーツのひとつの妙味だ。
あらためて前線で体を張る現役にとって指導者との関係は単純ではない。
1997年か98年。記憶ではどちらかの夏。本コラムの筆者は、早稲田のコーチとして菅平高原の宿舎にいた。数年前のキャプテン、敬称略で中竹竜二が部屋を訪ねてきて、身近な後輩に聞いたり、自分で感じた部内の雰囲気を教えてくれる。
「コーチ陣がちゃんとした人ばかりで、みんな息詰まっています」
予期せぬ一言だった。確かに、現役時のキャリアのみならず、社会でも力を発揮するような実力派を招いてスタッフを編成した。当時、声をかける立場だったのでよく覚えている。見識やキャラクターをもとに厳選したつもりだった。現役には、ぜひ、よき先輩と接してほしいという思いもあった。
「きつい夏合宿。学生は好きでないコーチの悪口を言ったり、反発したりすることで気持ちのバランスをとるんです。それが、みんな、いい人で」
プレーヤーパワーの芽のほんのちょっと土に顔出した先っぽすら摘んでしまった。不平の吸収を先回りした。そういうことか。ラグビー選手は繊細な生き物なのだ。