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【よくわかる フランス TOP14】レギュラーシーズン終了。トゥールーズ圧倒的に1位通過。最終章へ
完全復活とはいかないけれど、存在感を示すトゥールーズのSOロマン・ンタマック。(Getty Images)

【よくわかる フランス TOP14】レギュラーシーズン終了。トゥールーズ圧倒的に1位通過。最終章へ

福本美由紀

 6月7日、トップ14のレギュラーシーズン最終節の7試合がおこなわれた。今年も数々のドラマがあった。全7試合が一斉にキックオフされ、テレビのマルチプレックス中継が目まぐるしく画面を切り替え、刻々と変化する各試合の行方を伝えた。
 見る者も忙しないが、その忙しさが感情を掻き立て、クライマックスへと導かれる。まさに、トップ14祭なのだ。

 昨年度王者トゥールーズは、勝ち点90で2位ボルドーに12ポイント差をつけ、最終節を待たずに1位通過を決めた。トライ数(118)、総得点(891)、失点(462)のいずれもリーグトップという圧倒的な数字を叩き出し、リーグ最多トライ記録(昨季自身が打ち立てた103を更新)とリーグ最多得点記録(2020-2021シーズンのクレルモンの830点を更新)を更新した。

 しかし、欧州チャンピオンズカップ準決勝でボルドーに敗れてからの直近4試合は2勝2敗と、その圧倒的なイメージとは裏腹の不安定さを見せている。最終節で残留を懸けるペルピニャンに35-42で敗れる波乱も演じた。
 主力の一部を温存していたとはいえ、21-7とリードして前半を終えながら、後半に2枚のイエローカードを受け、30分で5トライを奪われるトゥールーズらしくない失態は、決勝ステージに向けた不安を拭いきれない。

 さらに負傷禍もチームを襲う。
 WTB/FBアンジュ・カプオッゾは腓骨骨折で来季まで復帰が絶望的。PRジョエル・メルクラー、FLマチス・カストロ=フェレーラも相次いで負傷でピッチをあとにした。すでにSHアントワンヌ・デュポンだけでなく、HOペアト・モヴァカも膝の負傷で長期離脱中だ。攻撃の起点となり、脅威を与え続けていたカプオッゾの離脱は大きな痛手となるだろう。

 その中でポジティブな点は、SOロマン・ンタマックの復調だ。2023年に膝の手術を受け、4月にはコンディションが60〜70%とされていたが、今では現地メディアは40%と評価している。シーズン終了後には残存する膝の破片除去手術も控える。
 しかし、最終節ではSHアントワンヌ・デュポン、FBトマ・ラモス不在の中、司令塔として冷静にゲームをコントロール。先制トライを挙げ、2本目のトライの起点となる活躍を見せた。ゴールキックも3本中3本成功、ディフェンスでは7タックル全て成功と、48分にベンチに下がるまで攻守にわたりチームを牽引した。

 スペインで合宿を行うトゥールーズは、準決勝でラモスとWTB/FBブレア・キングホーンの復帰が見込まれる。この合宿で本来のラグビーと自信を取り戻し、この1か月とは別のアタックを披露できるか、王者の真価が問われる。

 一方、トゥールーズから5トライ、40点を奪った13位ペルピニャンは、その自信を胸にプロD2のグルノーブルとの入れ替え戦に臨む。シーズン序盤から怪我人に悩まされてきたが、ここに来てようやくメンバーが揃い始め、LOポソロ・トゥイランギも調子を上げている。トゥールーズ戦でもディフェンスを跳ね飛ばしてトライを挙げた。

6月7日におこなわれたトゥールーズ×ペルピニャンは、42-35でペルピニャンが勝った。(Getty Images)


 2位でレギュラーシーズンを終えたボルドーは、飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
 チャンピオンズカップ優勝の翌週に行われた前節のトゥーロン戦こそ敗れたものの、フランス空軍のアクロバット飛行隊に例えられる華麗なBK陣が自由に駆け巡り、59-28でヴァンヌを突き放して勝利した。この試合でもSOマチュー・ジャリベールが見事にトライを演出し、まさに『マエストロ』の域だ。

 敗れたヴァンヌは最下位でプロD2への降格が決まった。「あんなに素晴らしいラグビーをするチームが降格するのは胸が痛む。彼らの苦しみを想像するよ。トップ14に残したヴァンヌのイメージを彼らは誇りに思うべきだ。彼らが降格するのは少し不公平だと感じている人は多いはずだ」とボルドーのヤニック・ブリュHCは語り、多くの賛同を得ている。

 ヴァンヌのラグビーは、どこからでも攻めるエンターテイメント性の高いスタイルだが、選手層の薄さから後半に失速し逆転負けを喫する場面も多かった。この試合も前半は僅差だったが、後半に突き放された。SOマキシム・ラファージュは今季253点を挙げながら、ポーのSOジョー・シモンズに1点差で得点王を逃した。手堅くPGを狙っていれば、順位は変わっていたかもしれない。それでも、ジャン=ノエル・スピッツァーHCは自身の哲学を貫く。
「私は、ラグビーとはトライを奪わなければならないスポーツだと確信している。最終的に、我々は総得点で8位という結果だった。これは非常にポジティブなこと。そのプレースタイルが裏目に出ることもあったが、これは私の信念であり、このラグビーで多くの人々を巻き込むことができたと自負している。このラグビーこそが、人々をテレビの前に釘付けにし、スタジアムに足を運ばせるのだと信じている」

 3位トゥーロンは、4位につけていたバイヨンヌとのアウェー戦で、一部主力を温存して臨んだ。対するバイヨンヌは、勝てばクラブ史上初のトップ14プレーオフ進出という状況。トゥーロンのピエール・ミニョニHCが「リズムを掴みたかった」と語る一方で、バイヨンヌのグレゴリー・パタHCは「決勝トーナメントで戦える力のあるチームだということを示したかった」とコメント。この温度差が試合に反映され、コリジョン、ラックで上回ったバイヨンヌが18-10で勝利。4位でレギュラーシーズンを終え、ホームでの準決勝進出戦の権利を獲得した。

レギュラーシーズン最終節にヴァンヌを59-28と圧倒したボルドー。写真はSOマチュー・ジャリベール。(Getty Images)


 バイヨンヌは3年前に昇格して以来、SOカミーユ・ロペス、LOアルチュール・イチュリアといった元フランス代表選手に加え、フィジー代表CTBシレリ・マンガラ、アルゼンチン代表WTBマテオ・カレーラスがスピードで、今季加入した元イングランド代表CTBマヌ・トゥイランギがパワーと経験でチームを強化。今季ホーム戦で唯一無敗を誇る。

 バイヨンヌに乗り込み、準決勝進出を狙うのが、5位で終えたクレルモンだ。前節終了時は7位だったが、最終節でモンペリエに勝ち、カストルとラ・ロシェルが敗れたことで5位に滑り込み、4年ぶりのプレーオフ進出をもぎ取った。試合会場のモンペリエには、約350キロ離れたクレルモンから5000人のサポーターが駆けつけた。

 クレルモンはパフォーマンスの不安定さに悩まされてきた。「あまりにも波がありすぎる。サポーターも時々理解できなくなる。試合を見ていて、『今日は調子がいいぞ』と思って、ちょっと小便に行って戻ってくると、もう同じ選手たちじゃなくなってるんだ」とクリストフ・ユリオスHCは面白おかしく話す。
 しかし、モンペリエでの最終戦は「今季最高の試合だった」とユリオスHCは語る。「ピッチサイドから見ていて本当に楽しかった。15人、あるいは23人の選手たちが一丸となって戦い、私たちが準備してきたラグビーを実践し、最後まで諦めなかった姿を見ることができた。それは私にとって小さな勝利であり、ある意味で小さな発見だった」。
 この一戦が、チームの転換点となるか注目される。

TOP14の公式『Instagram』より。レギュラーシーズンの順位表


 敗れたモンペリエは今季を9位で終えた。
 クラブOBのジョアン・コデュロが今季からHCを務め、新しいシステムに馴染むまで少し苦戦したが、11月からは安定し、特に12月からはトップ14とチャレンジカップで7連勝を記録した。43歳という若さのコデュロHCの台頭は、モンペリエだけでなくフランスラグビー全体の将来性も感じさせる。
 今季でFLニコラス・ヤンセ・ファンレンズバーグ、CTBヤン・サーフォンテイン、SHコーバス・ライナーらが退団する。2015年にジェイク・ホワイトがHCに就任し、HOビスマルク・デュプレッシー、PRヤニー・デュプレッシー、FBフランソワ・ステインら、多くの南アフリカの選手と契約し、一時はモンペリエがアウェーで試合を行うと、敵チームのサポーターが「ラ・マルセイエイズ」を歌うこともあった。彼らの退団で南アフリカ色が薄れるのは時代の移り変わりを感じさせる。

 スタッド・フランセに敗れはしたが、6位に残ったカストルはスタッド・マヨールでトゥーロンと準決勝進出をかけて戦う。カストルは、パリオリンピックで銀メダルを獲得したフィジー7人制代表のジョサイア・ライスケを今年5月に交通事故で失う悲劇に見舞われた。この悲劇が彼らのさらなるモチベーションになることは間違いない。

 ラ・ロシェルは、1月から4月初旬にかけて8敗1分と1勝もできなかった。終盤に5連勝で追い上げたが、最終節でポーに敗れ、6大会連続のプレーオフ進出を逃した。選手に疲労の色が見えた。
 2度のヨーロッパチャンピオンチームでありながら、主力選手の高齢化が低迷の理由に挙げられている。選手が高齢ということは、それなりに高額の給料が支払われているということ。サラリーキャップの制約もあり、新戦力獲得の余裕もなかったのだろう。シーズン初頭に掲げた新スタイルへの転換も、選手構成が変わらなければ難しい。来季はフランス代表SHノラン・ルガレック(23歳)とジョージア代表WTB/FBダヴィト・ニニアシヴィリ(22歳)が加入する。

 ラ・ロシェルは「規律の低さ」も問題視されている。ロナン・オガーラHCは、「週の間ずっと規律について話していたが、試合中、HCはどこにいる? 彼は出場停止だ。スタンドにいる。影響力ゼロだ。だから、最も責任があるのは私だ。フラストレーション、怒り、失望を感じている。一番悪いのは私だ。悪いのは私だけだ。こんなコーチがいるのだから、選手たちのことを批判するのはやめてほしい。私がその批判を受け入れる。それが新しい『私たち』なのだ。夏の間にしっかり考えて解決策を見つけなくてはならない。これまでうまくいっていたことが、もう通用しない。一つのサイクルの終わりだ。現実を受け入れなければ。現実と真実を受け入れたときに初めて進歩できる」と訴えた。

 オガーラHCは1月の試合での「マッチオフィシャルに対する行為」および「マッチオフィシャルに対する脅迫的な行為または言葉」により、フランス協会の控訴委員会によって5週間の出場停止処分を受けており、試合中のロッカールームやピッチサイドへの立ち入り、チームへの指示出しも禁じられていた。
 彼は過去にも複数回、レフリーやリーグへの批判的言動で出場停止処分を受けている。現役時代から情熱的で、競争心が強く、勝利への執着心が人一倍強かった彼の性格が、コーチとなった今も色濃く反映されており、今後、彼が変われるかどうかも注目される。

 一方、ラ・ロシェルを倒して8位でシーズンを終えたポーは、来季、チャンピオンズカップに初めて出場することになった。2014年にNZ人のサイモン・マニックスHCが就任し、元オールブラックスのSOコリン・スレードやCTBコンラッド・スミスらを獲得した。2021年5月からはセバスチャン・ピケロニHCが指揮を執り、フランスU20代表を2度世界チャンピオンに導いた手腕を発揮。若手の育成に力を入れ、CTBエミリアン・ガイユトン(21歳)やWTB/FBテオ・アティソグベ(20歳)、LOユーゴ・オラドゥ(21歳)らがすでにフランス代表キャップを獲得している。今季プロデビューした19歳のCTBファビアン・ブロ=ボワリーら若き才能も躍動し、ボルドー、トゥールーズと並ぶ魅力的なBK陣を擁する。昨季エクセターから加入したSOジョー・シモンズが彼らを操り、正確なキックで得点を積み重ねる。
 開幕から怪我人の多さに悩まされた。昨夏のオラドゥ(代表でのアルゼンチン遠征時に現地女性とトラブル)の事件もあった。怪我人が10人を切ったのは4月中旬と、決して万全な状態ではなかった中で、最終節ではラ・ロシェルの強みであるFW戦を上回り、大方の予想を覆す勝利を挙げた。

 ラ・ロシェルと同じくプレーオフの常連だったラシン92は、2月にスチュワート・ランカスターが解任され、クラブOBのパトリス・コラゾがHCに就任してから「魂を取り戻した」と言われる。しかし、降格は免れたものの、今季は10位で終え、プレーオフも来季のチャンピオンズカップ出場権も逃した。コラゾは来季も続投が発表されている。

TOP14の公式『Instagram』より。レギュラーシーズン終了時点で、14クラブ中8クラブが過去最高の観客動員数を記録した


 最終節でラシン92に敗れ11位でシーズンを終えたリヨン。今季はジョノ・ギブスをアドバイザーに招聘したが、彼はチーフスでさらに広範な職務に就くことになり、昨年12月にはこの連携は終了した。
 当時13位だったリヨンにとって、ギブスによるリモート指導は機能しなかった。リヨンは昨年9月、スタッド・フランセを解任されたカリム・ゲザルをHCに招聘。ゲザルは2016年にリヨンで選手からコーチに転向し、2019年から2023年まではフランス代表FWコーチを務めていた。5年ぶりにゲザルが戻ってきたリヨンは、チームとしてのまとまりを取り戻し、一時は6位まで順位を上げたものの、終盤は失速した。

 ゲザルが去って約3か月後、今度はロラン・ラビットもスタッド・フランセを去ることになった。その後は、2022年からディフェンスコーチとして在籍するポール・ガスタードがHCを引き継いだ。クラブ史上初の降格の危機からギリギリで逃れたが、カストルに勝利し、入れ替え戦を待たずに残留を決めた瞬間も、選手にガッツポーズや歓喜は見られなかった。
 FBレオ・バレは「試合を通して僕たちを支え、鼓舞し続けてくれたサポーターに感謝する。こんな苦しいシーズンになって、彼らに申し訳なく思う。個人的にもチームとしても、恥ずかしいという気持ちと、ホッとしたという気持ち。こんなシーズンは誰にも経験してほしくない」と語る。
 キャプテンのLOポール・ガブリヤーグも「肩の荷が下りたような気持ち。ただ、今シーズンの出来には満足していないので、喜びは抑えた。浮かれてはいられない。こんなシーズンを送ったのだから、謙虚に、控えめにいるべき。ロッカールームでは笑顔も見られ、互いの労をねぎらい、安堵と連帯感を共有した」と述べており、彼らの長い苦しい一年が伺える。

 トップ14 2024-2025は最終章に突入する。


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