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◆三者三様のクォーターファイナル。
リーグワンは、東芝ブレイブルーパスの連覇で幕を閉じ、今シーズンの全日程が終了した。一方、世界の主要リーグでは現在、プレーオフなどシーズンの佳境を迎えている。
ユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップ(以下、URC)のセミファイナル(準決勝/6月7日)はボーダコム・ブルズ(ブルズ)とハリウッドベッツ・シャークス(シャークス)の南アフリカダービー、そしてもう片側がレンスター・ラグビー(レンスター)とグラスゴー・ウォリアーズ(グラスゴー)のアイルランド・スコットランド対決になった。
南アフリカのファンや関係者にとっては、2021-22年シーズンのように、できれば決勝の舞台で自国の2チームが顔を合わせる展開が理想だったに違いない(※2021-22年シーズンのプレーオフ決勝はストーマーズ×ブルズ。18-13でストーマーズが優勝)。それだけに、せっかく準決勝まで南アフリカの2チームが勝ち上がったにもかかわらず、そのうちの1チームが、しかも自国のチームによりプレーオフトーナメントからキックアウトされるという現状には、どこかもったいなく割り切れない気持ちが残る。
ただ、このプレーオフの組み合わせは、起点となるクォーターファイナル(準々決勝)でレギュラーシーズンの総合順位(例:1位×8位、2位×7位等)により決まっているので致し方ないことではある。
しかし、URCではアイルランド、イタリア&スコットランド、南アフリカ、ウェールズの4地域による「シールド」という枠組みも採用されている。そのため、プレーオフの組み合わせにおいても、このシールド内の順位を考慮し、同じシールド同士の対戦が決勝までないような仕組みを取り入れてもよいのかもしれない。
もっとも、南アフリカ勢は毎年のように3チームがプレーオフに進出しており、そのすべてが勝ち進んだ場合、準決勝での同国対決は避けようがないのではあるが…。
さて、そんな南アフリカの3チーム(ブルズ:総合順位2位、シャークス:3位、ストーマーズ:5位)は、それぞれ異なる展開で準々決勝(5月31日)の戦いを終えている。
ブルズはホーム、ロフタス・フェールスフェルト・スタジアム(ロフタス)にエジンバラ(7位:スコットランド)を迎えた。試合はいきなり前半3分に売り出し中のスピードスター、WTBセバスチャン・デクラークがキックをチェイスしようとした相手WTBにぶつかったということでシンビンとなった。エジンバラBKは14人となったブルズのディフェンス網を突破し、4分、そして13分と続けてトライを決めた。
少し嫌な雰囲気を吹き飛ばしたのが、NO8キャメロン・ハネコムだ。6月5日にアナウンスされた、今シーズンのスプリングボックスに選出された。ちなみにブルズからはハネコムを含めて10名が代表に選ばれている。
ハネコムは18分にモールサイドを突き、そのままトライを決め、エジンバラに傾きかけた流れを止めた。

エジンバラも意地を見せ、28分に元スコットランド代表のSOロス・トンプソンがこの日2本目のトライを決める。しかし、エジンバラの攻撃は一旦、ここで止まった。この後、31分にやはりスプリングボックス入りを決めた35歳、FBウィリー・ルルーの好走からCTBデビッド・クリエルにパスがつながり左中間にトライ。36分にもFBルルーからの絶妙なパスがWTBデクラークにわたり、最後はCTBハロルド・ボルスターが左隅にトライ。ただし、前半は18-21とエジンバラに3点リードされている状態で終了した。
後半に入っても、前半終了間際からのブルズの勢いは止まらなかった。
後半42分、再びFBウィリー・ルルーが相手を引き付けて、ここしかないタイミングで同じくスプリングボックスに選出されているWTBカナン・ムーディにパスを通し、左中間にトライを決める。ルルーの的確かつピンポイントなプレーは職人の域に達している。
なお、ムーディは右ウィングで背番号は本来14番だが、この試合では24番を着用していた。これは、先月急逝したブルズおよびスプリングボックスのレジェンド、コーネル・ヘンドリックスを偲び、今シーズンは14番を欠番とする決定がチーム内でなされたためである。
その後もブルズはFWとBKがうまく連携し、バランスの取れた攻撃でさらに2トライを追加。試合の流れを完全に掌握した。終盤、点差が開いたことでやや緩みが出たのか、エジンバラに2トライを許す場面もあったが、最終的には42-33(トライ数:6-5)で準決勝進出を果たした。
次にスプリングボックスへ15名の選手を送り込んだシャークスとアイルランドのマンスター(6位)とのホーム、ダーバンでの試合は非常に興味深い展開になった。
試合はシーソーゲームとなったが、残り5分で24-21、シャークスの3点リード。そのままシャークスが逃げ切るかと思われた後半76分、途中出場のアイルランド代表キャップ125のレジェンド、コナー・マレーが50m近いペナルティゴールを決め同点に追いついた。
両チームとも3トライ、3コンバージョン、1ペナルティゴールにより24-24で80分を終え、20分の延長戦に突入。しかし、延長戦でも両チームはともに攻め切れず、得点することができなかった。URCの規定により、プレースキック・コンペティションがおこなわれることになった。
プレースキック・コンペティションは両チームで3人のキッカーを選出し、その3人がそれぞれ22mラインの中央、左右の15mライン地点、そして同様に10mラインの中央、左右の15mライン地点から計6回プレースキックを蹴り、その成功率を競う。
プレースキック・コンペティションがおこなわれたのはURCでは初めてのこと。最近では2022年のヨーロピアン・ラグビー・チャンピオンズカップのプレーオフ準々決勝(マンスター×スタッド・トゥールーザン)でも実施された。
まるでサッカーのPKを連想させるような場面であり、それがラグビーにふさわしい決着方法なのかについては賛否が分かれるところだ。
「では他に代替案があるのか?」と問われると、即答するのは難しいものの、サッカーとの差別化を図る意味でも、ラグビーならではの独自の決着方法があってもよいのではないかと、個人的には感じている。
結果的に、この試合のプレースキック・コンペティションでは、シャークスが6本すべてを成功。一方、マンスターは元アイルランド代表のローリー・スキャネルが2本目のキック(22mライン、右15mライン地点)を痛恨のミス。これが勝敗を分ける決定打となり、シャークスが勝利を手にした。
ただし、このコンペティション中に思わぬアクシデントが発生した。シャークスのSHジェイデン・ヘンドリクセが、4本目のキック(10m、中央)を蹴った直後、ふくらはぎをつってその場に倒れ込んだ。続くマンスターのキッカー、アイルランド代表SOジャック・クロウリーがプレースキックの準備に入ったところで、レフリーはヘンドリクセが治療を受けていることを理由に、一時中断を指示した。
クロウリーは自分のペースを乱されたことでイライラしていることが表情から読み取れた。そこへヘンドリクセがクロウリーに向かって笑いながらウィンクをしたのである。クロウリーのイライラは怒りに変わりヘンドリクセに向かって「早くどけ!」的な言葉を発したようだ。
このシーンがTV中継で部分的に抜かれていたため、当然、アイルランド側ではヘンドリクセがケガを装って妨害行為をしたとなり、南アフリカ側では冗談でウィンクしただけで、実際ヘンドリクセはふくらはぎがつって歩けなかったと主張した。
筆者が客観的に見ても、やはり後者の可能性が高いように思える。
ヘンドリクセのふくらはぎには、つった際に見られる特徴的な筋肉の隆起が確認できた。また、彼は交代なしで120分間を走り抜き、さらに試合中のコンバージョンやペナルティキックもすべて一人で担っていた。いくら鍛え抜かれた肉体とはいえ、限界を迎えていたのは想像に難くない。おそらく、あのウィンクには「ごめんね」や「もう少し待ってね」といった意味が込められていたのだろう。
ただ、たとえ悪意がなかったとしても、相手が苛立っていたのは分かっていたので、誤解を招きかねない行為は避けるべきだったかもしれない。
最後のストーマーズは、今年のスコットランド代表選手を13名擁するディフェンディングチャンピオン、グラスゴー(4位)とのアウェイ決戦に臨んだ。試合は、ストーマーズが立ち上がりにPGで先制するも、直後にスコットランド代表の共同キャプテン、FLローリー・ダージがラインアウトの隙を突いてトライを奪取。ここからストーマーズは常に追いかける展開を強いられる。
後半に入ると、ストーマーズのディフェンスに綻びが見え始め、徐々に点差が開いていく。最終的には18-36のダブルスコアで敗れ、ストーマーズの今シーズンはここで幕を閉じた。
点差ほど両チームの実力差は感じられなかったが、要所を締めるグラスゴーの試合巧者ぶりが際立った一戦だった。
これらの結果、南アフリカからはブルズとシャークスが準決勝に駒を進めた。

◆25-13。ブルズの強力スクラム、粘りのディフェンスが準決勝を制す。
南アフリカダービーの決戦はレギュラーシーズンの順位が一つ上のブルズの本拠地、ロフタスでおこなわれた。観客数は今季最多の4万7214人。
順位ではブルズが上回っているものの、レギュラーシーズンの直接対決ではシャークスが2試合連続で勝利している(※第8節:20-17、第11節:27-19)。このファクトが、予想を一層難しくしている。
そして、メンバー発表の時点で両チームのファンの明暗が分かれたかもしれない。
ブルズには朗報が届いた。膝のケガで最終第18節と準々決勝を欠場していた司令塔、SOヨハン・グーセンの復帰が決定したのだ。
一方、シャークスには痛手となるニュースが続いた。まさにFWの支柱である両ロック、スプリングボックスのエベン・エツベスと、トップリーグ時代にトヨタ自動車ヴェルブリッツ(現トヨタヴェルブリッツ)で活躍したジェイソン・ジェイキンスの欠場が続けて発表された。エツベスは試合週の練習中に頭部打撲を負い、ジェイキンスは準々決勝で負傷した箇所が癒えなかったとのことだ。
エツベスは言うまでもなく“エンフォーサー”、そしてキャプテンとしてチームをけん引してきた存在であり、その不在はシャークスにとって大きな損失だ。加えて、今季はケガのため度々チームを離脱したエツベスの役割を埋める形で多くの試合に先発出場してきたジェイキンスの欠場も重なる。シャークス自慢の“ツインタワー”を同時に欠くことは、FWのパフォーマンスに少なからぬ影響を与えるだろう。
シャークスHCのジョン・プラムツリーは試合前のインタビューで“世界一のロック”が出場できないのは痛いとしながらも、「ラグビーはチームスポーツ。彼一人がチームを作ってきたわけではないし、今シーズン、(ケガが続いた)彼抜きでも我々は勝ってきた」と強気の発言をした。
なお、かつて日本代表のディフェンスコーチを務めたプラムツリーHCはタラナキ出身のニュージーランド人だ。しかし、ダーバン出身の女性と結婚したこともあり、南アフリカへ移住し、シャークスで約10年間、選手としても活躍した。
ブリッツボックス(7人制南アフリカ代表)に選出されたこともある。なお、ヘッドコーチとしてシャークスを率いるのは今回が2度目となる。
対してトップリーグ時代にトヨタ自動車ヴェルブリッツを率いたブルズのジェイク・ホワイトHCは「今のシャークスはチーム史上最強だ」と敵を称賛している。その一方で、ブルズの選手たちには「これは代表入りのトライアルではなく、あくまで一つのチームとして戦ってほしい」と伝えていた。これは、スプリングボックスの代表に選出されなかったブルズの選手たちへのメッセージでもあった。
準決勝の2日前に発表されたスプリングボックスのスコッドには、前述のとおりシャークスから15名、ブルズからは10名の選手が名を連ねた。ホワイトHCは、今回選外となったSHエンブローズ・パピアやHOヨハン・グロベラーらについても「代表に呼ばれるべき選手だ」と高く評価している。
ほぼスプリングボックスともいえる陣容のシャークスを相手に、ブルズが直接対決で勝利を収めることができれば、セレクターの評価にも影響を与えるはずだ。だからこそホワイトHCは、個のアピールではなくチームプレーに徹し、シャークスから白星を奪うことで、さらに多くのブルズの選手を代表へ送り出したいと考えている。
いずれにせよ日本にゆかりのある2人の名将の采配振りが注目される。

前半6分の3度目のスクラムで勝負はほぼ決まった。
ファースト、そしてセカンドスクラムもブルズが圧勝していたが、この3度目のスクラムは自陣ゴールを背にした相手ボール。ブルズFWはブルドーザー・プッシュでついに相手ボールを奪い取った。シャークスのフロントローは、PRオックス・ンチェ、HOボンギ・ンボナンビ、PRヴィンセント・コッホという、もし明日、テストマッチがあればこの3人は先発出場していてもおかしくないメンバーだ。それをブルズのフロントロー、PRヤン=ヘンドリック・ウェッセルズ、HOグロベラー、PRウィルコ・ロウは圧倒的な強さで押し切った。
特に3番ロウの押しはかなり強力で、対面のンチェを完全に制圧していた。もちろん、ウェッセルズとロウも今回のスプリングボックスに名を連ねている。シャークスFWは、やはり大黒柱のエツベスとジェイキンスの不在が影響しているのだろう。
そして、相手ボールを奪取したブルズはゴールを背にしながらも、ボールを外に展開しようと試みた。そして、CTBデビッド・クリエルの放った飛ばしパスを今日はウィングで出場していたシャークスの194cmの大型BK、イーサン・フッカーがインターセプトし、グラウンディングした。一瞬、ロフタスは悲鳴に包まれたが、レフリーはすぐにシャークスBKラインのオフサイドを指摘した。
恐らくシャークスBKはあのようにスクラムを押されたことがないので、オフサイドラインを下げるという経験がほとんどなかったのだろう。この後もブルズFWはスクラムを要所要所で押し勝ち、チャンスを作り、そして、ピンチを凌いだ。
これを受けてブルズBKも奮起する。7分にはWTBデクラークが個人技で、21分には再びデクラークからのキックパスを受けたWTBムーディがトライを決める。
ただし、ここからが良くない。ブルズは規律が守れず、28分にCTBボルスター、36分にNO8ハネコム、そして、終了間際の40分にはFLマルセル・クッツェーがシンビンとなる。ロスタイムがあり前半は42分まで続いたため、ブルズは前半終盤、13人、または12人での戦いを強いられることになった。
しかし、この局面を乗り切ったことが大きかった。
結局、シャークスは数的優位を活かせずゴールを割ることができず、前半は15-3で終わることができた。ただシャークスが攻めきれなかったというよりは、ブルズが執念のディフェンスで防いだという印象だ。ブルズはよく前に出てタックルを繰り返した。
後半44分、依然として13人のブルズは、シャークスのトライゲッター、WTBマカゾレ・マピンピにトライを献上する。
その後、48分、ピッチに戻ったばかりのNO8ハネコムがFLシヤ・コリシにタックルに入られた際に、ハムストリングスを痛め、自分では歩けずカートで退場した。突破役のハネコムの負傷はブルズにとって非常に痛い…。
56分にシャークスWTBフッカーが右隅にトライを決めてからはお互い一進一退の状態が続いたが、66分にSHパピアがラインブレイクし、浦安D-RocksのスプリングボックスNO8、ヤスパー・ヴィーセの弟であるLOコーバス・ヴィーセが快走し、最後はCTBクリエルがゴールを越えた。
結果は25-13。圧勝とはいえないが、ブルズはよく守った。スタッツをみるとポゼッションやクリーンブレークはシャークスの方が高い数値だったのだが、タックルの回数がブルズは177回(成功率75%)、シャークスは81回(同69%)。防御で勝ったといえるだろう。
また、この試合のプレイヤー・オブ・ザ・マッチには、攻守両面で活躍したWTBデクラークが選ばれた。デクラークは前述のアタック面だけで評価されたのではない。この試合でデクラークのプレーの中で最も印象に残ったのは、後半すぐに見せたWTBマピンピを仰向けに倒したタックルだった。このタックルは目の肥えた観客を唸らせ、スクリーンで何度もリプレイされるほど模範的なヒット・アンド・ドライブを実践したタックルだった。
そして、ブルズが13人で戦うという厳しい状況下で、勢いに乗っていたシャークスの流れを断ち切り、チームメイトを奮い立たせる重要なプレーとなった。準々決勝、準決勝の活躍を見る限り、デクラークもスプリングボックスに呼ばれる日は近いのではないかと思う。
試合後のインタビューで、ホワイトHCは特にディフェンス面の完成度を褒め称えた上で、「今日の試合はほんの一歩に過ぎない。今夜の戦いから学び、次のさらに厳しい試練に備えなければならない」と、まだ仕事は終わっていないことを強調した。
もう一方の準決勝では、レンスターがディフェンディングチャンピオンのグラスゴーを相手に終始安定した試合運びを見せ、37-19で快勝。決勝進出を果たした。

◆いざダブリン最終決戦へ。
そして決勝の舞台は、6月14日、敵地ダブリンのクローク・パーク。レギュラーシーズンを首位で終えたレンスターとの最終決戦が待ち受ける。
レンスターは今年のスコッドには23名のアイルランド代表経験者がおり、内4名は今回のブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズにも選ばれている。これらに加えてスプリングボックスの長身ロックRG・スナイマン、フランス代表のPRラバ・スリマニ、そしてサバティカル制度による短期契約ではあるがオールブラックスのCTBジョーディー・バレットが『補強』されているという強力な陣を敷く。
また2023年ワールドカップでスプリングボックスを優勝に導いた後、ジャック・ニーナバーがシニアコーチとして指導を続けており、レンスターはもともと南アフリカラグビーとの関わりが深い。現地の報道によると今シーズン後、NZへ戻るバレットの代わりに、ストーマーズのユーティリティバックスであるスプリングボックス、ダミアン・ウィレムセに触手を伸ばしているということだ。
ブルズは、レギュラーシーズン1位で16勝2敗の好調レンスターに土を付けた2チームの内の一つだ。13節においてブルズはホームでレンスターに21-20という僅差で勝利した。
ただし、この試合はシックスネーションズの最終戦から1週間後という日程であったため、レンスターはアイルランド代表に選ばれていた12名を出場させなかった。したがって、13節の試合結果はほとんど参考にはならないだろう。
もっとも、これは筆者の主観的な予想にすぎないが、ブルズのフォワード陣、特にスクラムでは優位に立てるのではないかと考えている。逆に、もしスクラムで主導権を握ることができなければ、ブルズにとっては厳しい展開になるだろう。

準決勝でもブルズFWはシャークスの現役スプリングボックスのフロントロー3名を相手にして、圧勝した。また先に13節の試合は参考にならないと書いたが、スクラムに関しては、レンスターの1番はアイルランド代表キャップ2の新進気鋭、ジャック・ボイル、そして3番はフランス代表キャップ57のベテラン、ラバ・スリマニがスクラムの主軸を務めていた。つまり決してレベルの低い相手ではなかったが、スクラムはこの試合でもブルズが圧倒できた。
さらにブルズの両プロップ、ヤン=ヘンドリック・ウェッセルズとウィルコ・ロウは、準決勝の前日に発表された今シーズンのURCエリートXV(ベスト15)に選ばれている。これはブルズのスクラムの強さが評価されての受賞だろう。
ちなみにブルズからは他にNO8キャメロン・ハネコムが選ばれており、ロウとハネコムは2年連続の受賞となった。他の南アフリカのフランチャイズからはシャークスからCTBアンドレ・エスターハイゼン、ストーマーズからSOサッシャ・ファインバーグ・ムゴメズルが選ばれた。
さらにハネコムはURCを構成する5か国のメディア関係者による投票で決定される次世代シーズン最優秀選手賞を受賞した。
試合後にテーピングで膝を固定し、松葉づえをついてチームメイトと勝利を祝うためにピッチに姿を見せたハネコムは、決勝への出場はならなかった。驚異的な身体能力を武器に密集を突破し、幾度となくトライチャンスを演出してきた彼の欠場は、チームにとって大きな痛手になる。
長く過酷なシーズンの最終戦だ。ハネコムに限らず、両チームの選手たちは誰もが満身創痍の状態で、身体のどこかに痛みを抱えながら決勝に臨むことになるのだろう。BBCによるとレンスター側もブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズのオーストラリア遠征を控えているPRタイグ・ファーロング、CTBギャリー・リングローズ、FBヒューゴ・キーナン、FLジョシュ・ファンデルフリーアーのカルテットがいずれもケガのため決勝に出場する可能性は低いとしていた(リングローズとファンデルフリーアーは先発出場へ)。
ブルズが南アフリカへURC優勝トロフィーを持ち帰ってくれることを、心から願っている。
【プロフィール】
杉谷健一郎/すぎや・けんいちろう
1967年、大阪府生まれ。コンサルタントとして世界50か国以上でプロジェクト・マネジメントに従事する。高校より本格的にラグビーを始め、大学、社会人リーグまで続けた。オーストラリアとイングランドのクラブチームでの競技経験もあり、海外ラグビーには深い知見がある。英国インペリアルカレッジロンドン大学院経営学修士(MBA)修了。英国ロンドン大学院アジア・アフリカ研究所開発学修士課程修了