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【楕円球大言葉】トロフィーをつかんだのでリーチは言った。
ブレイブルーパスの魂で良心。リーチ マイケル。(撮影/松本かおり)

【楕円球大言葉】トロフィーをつかんだのでリーチは言った。

藤島大

 連覇を遂げた。記者会見に臨む。そこでだけ、すなわち勝ち抜き、勝ち切ったときのみ口にできる言葉があった。

 リーグワンのプレーオフ決勝。東芝ブレイブルーパス東京のリーチ マイケル主将が、ちゃんとユーモアの気配をまぶしながら、本心を明かした。

「東芝には若い選手がたくさんいて、なかなか出番が少なかったですね、ことし(このシーズン)。リーグワンをおそらく95%くらい、同じメンバーで戦ってきて。もっと若い選手をどうやって試合に出すか。ちょっと問題があると思います。日本代表になるチャンスもなくて」

 そして隣のトッド・ブラックアダーHC(ヘッドコーチ)のほうにかすかに目をやり。

「来年(来シーズン)はもっと若い選手が出られるように」

 かつてオールブラックスのキャプテンであった指導者は、こちらも深刻にならぬよう両手を広げる仕草をこしらえ、笑いを誘った。

優勝を全員で喜ぶ。リーチ主将は何度も「試合メンバー外のみんなのサポートのお陰で優勝できた」と話した。(撮影/松本かおり)


 出場メンバーを固定する。そのことの是非は、およそチーム競技であれば、古くて新しい命題のはずである。
 
 国内の大学ラグビー。優勝常連校が、下位にあえぐ相手とぶつかる。監督はどうするのか。「粗削りな新人」や「努力の虫のような2軍半の4年生」をちょうどよい機会と起用するのか。クラブの内部に沈殿するレギュラー不動の閉塞感にうまく空気の穴を通すのは、ひとつの方法である。
 
 もうひとつの立場。勝つとわかる公式戦にもベストの布陣で臨む。
 古い実例がある。1970年前後のジャパン、大西鐵之祐監督がそうだった。
 往時の日本協会の名事務局長で、代表団長などを務め、大いに手腕を発揮した人物、敬称略で小林忠郎が後年、当時を振り返って語るのを聞いたことがある。こんな内容だった。

 力の落ちる相手との試合くらい、控えの連中を起用してみてはどうか。監督の大西にやんわり告げた。あのころは戦術的交替は認められない。いっそう先発15人以外の出場数は限られる。
 ジャパンを率いて、オールブラックス・ジュニアを敵地で破り(23-19)、日本ラグビー史で初めて強国に挑んだ対イングランドで大接戦を繰り広げた(3-6)。そんな名将は反論した。

「そういう試合にこそベストのメンバーで臨んで、チームワークをつくり上げるのだ」

 戦前の早稲田大学以来の盟友であった小林はこんなことも話した。

「大西は選手に嫌われないだろう。最後までそうだったろう。グラウンドだけじゃなくて、普段から接して、特徴をつかんでいく。あれがものをいうんだ」

 そうして人心を掌握。しかし、こと選手選考においては冷徹であった。落とした者についてもよくわかっている。優れたところなら知っている。人生という観点でサポートする愛は確かだ。しかし、強大な対戦相手を倒す瞬間からの逆算はできている。情にのみは流されない。

 2024年-2025年のブレイブルーパスも、おおむね動かぬメンバー23人が着々と前へ進んで、見事に連覇を遂げた。
 国立競技場の取材スペースで、ふたりのリザーブ選手に「さっき会見でリーチ主将が若い選手の出番がない、と、あえて話しました。そのことについて」と声をかけた。

後半33分から大舞台に立ったWTB桑山聖生。(撮影/松本かおり)


 22番の桑山聖生は、今季のレギュラーシーズンは16節と最終18節のみに出場した。それまでは2023年2月25日のスピアーズ戦が最後だった。
 クラブで「K9」と呼ぶ「メンバー外」に2年。28歳、鹿児島生まれの長身WTBは「マイケルさんのいうところの若い選手」と場をなごませてから述べた。

「(ブレイブルーパスは)スタートの選手のキャラクターに特化したラグビーをしていると自分は思います。なので出ている人と同じキャラクターではいけない。それぞれが自分の強みを追求しなくてはなりません。チームのことをより理解しながら、自分に負けなければ、競争の質も高まる。いろいろな選手が出場できるようにもなるはずです。もちろん出ているメンバーをみんな尊敬しています。そしてK9にいる人間も自信はあるんです」

 23番、こちらは36歳の豊島翔平も、レギュラーシーズン開幕より11節までは公式戦の芝に立てなかった。12節の終盤に登場するや、年齢を不思議とさせる身体のキレを発揮、以後、ジャージィをまとった。

「K9にずっといるのは精神的にはしんどいと思う。僕自身もシーズン前半はまったく試合に出る機会はありせんでしたが、東芝のメンバーのサポートをしながらも、いつでも出られるように自分の準備を続けてきました」

 ひさしぶりにめぐった出番に務めを果たすための秘訣は?   

ファイナルではピッチに立てなかった豊島翔平。(撮影/松本かおり)


「うーん、先を考えず、1日1日、その週の試合にフォーカスすることですね。それがいちばん」
  
 9年前。リオデジャネイロ五輪の男子7人制でニュージーランドを破った英雄である。その、さりげないほどの一言は、やはり「東芝」のぐらつかぬ背骨のはずだ。

 あらためてスコアは18-13。ブレイブルーパスのV2は成った。
 つくづく感じる。優勝はするに限る。思考の幅が広がるのだ。たとえば「もっと若手にチャンスを」。敗北後なら不平ととらえられるかもしれない。でもトロフィーを抱えてすぐになら、明るい提言、闊達な意見交換のよき材料となりうる。

 リーチ マイケルは、いつの日かコーチ、監督となる。なってほしい。優勝会見。隣の愛するキャプテンに「リーチさん、来シーズンはもう少し若い選手に出場チャンスを」と言われたら、胴上げに照れるみたいなスマイルを浮かべるだろう。





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