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【フランス協会→リーグワンを吹く/リュドヴィック・ケール氏INTERVIEW・下】TMO担当者には「ソファでくつろいでいる感じで画面の前にいて」と。で、うわっ、となった時に介入を。
フランス協会所属のリュドヴィック・ケール レフリーは1989年1月4日生まれ。2006年にレフリー活動を開始。2015年にPro D2レフリー初担当、2017年にTOP14レフリー初担当。2019年からフランスラグビー協会とプロフェッショナルレフリー契約。(撮影/松本かおり)
2026.03.06
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【フランス協会→リーグワンを吹く/リュドヴィック・ケール氏INTERVIEW・下】TMO担当者には「ソファでくつろいでいる感じで画面の前にいて」と。で、うわっ、となった時に介入を。

福本美由紀

【編集部注】日本国内での公式登録名はルドヴィック・カイヤ。リュドヴィック・ケールは現地での発音。


 前回は、レフリーとしての歩みや、日本ラグビーへの驚きを語ってくれたリュドヴィック・ケール氏。
 今回は、現代ラグビーを取り巻く課題へと切り込んでいく。世界中で深刻化するレフリーへのSNS中傷に対する毅然とした姿勢、フランス独自の試みである『オレンジカード』の運用実態、そして判定の精度を左右するTMOへの要求……。

 さらに、フランス代表の強化を支える密接な協働関係についても明かしてくれた。
 未知の領域だったスクラムを理解するために、何時間ものビデオ分析を厭わないその姿勢からは、彼の飽くなき完璧主義と、何よりラグビーという競技への深い情熱が伝わってくる。

2025年3月にTOP14での100キャップを達成。リーグの公式Instagramより


◆『10パーセントのミス』に向けられる目。


——フランスではレフリーへのプレッシャーも大きいですね。人々が常にレフリーに好意的とは限りませんし、SNSなどで攻撃したり批判したりする人たちもいます。

「ええ、その通りです。私自身はそういったものから自分を遮断して、余計なものが入り込まないようにしているので、あまり気になりません。精神的にタフでいなければなりませんからね。

 フランスでも、試合中に観客から直接ひどい嫌がらせを受けることはそれほど多くないんです。むしろ大きな問題となっているのはSNSです。そこには本当に数多くのメッセージが届きます。ですから、それらを最大限ブロックしたりフィルタリングしたりして、まともに取り合わないようにする必要があります。

 私の場合、SNSで中傷や脅迫めいたメッセージを受け取っても、むしろ失笑しています。というのも、そういうメッセージを送ってくる人たちに限って、ピッチサイドで直接顔を合わせたら『レフリー、お見事でした!』なんて言うんです。画面の裏に隠れている時だけ批判的になる。だから私は全く気にしません。そう割り切って注意を向けないようにする必要があります。日本のレフリーの方々にも同じようなことが起きているのかは分かりませんが、フランスでは間違いなく深刻な問題ですね」

——日本ではそれほどでもないと思いますが、フランスのメディアやSNSで見かけるものは、時にかなり過激です。

「その通りです。フランスではかなり厳しいですね。SNSでも、時にはメディアでも、批判は常に存在します。一つのミスが厳しく叩かれることもあります。ただ、私自身は、もし本当にミスをしたのであれば、メディアで批判されること自体は構わないと思っています。

 ミスは起こるものです。そしてミスをした時、誰よりもまず自分たちが一番辛い思いをします。 その後の1週間を最悪な気分で過ごすことになる。だからこそ大事なのは、すぐに次の試合で笛を吹き、次のステップへ進むことなんです」

——あなたの上司であるマチュー・レイナル氏は、「レフリーの判定の90パーセントは正しいものだが、人々は10パーセントのミスだけを覚えている」と言っていました。

「まさにその通りです。判定の90パーセントが正しくても、記憶に残るのは常に残りの10パーセントのミスの方です。よく言われることですが、レフリーのミスはいつまでも言われるのに、選手のミスはすぐに忘れられてしまいます。例えば、選手が3対1の数的優位の状況でトライを取り損ねたとしても、そんなミスはすぐに忘れ去られます。しかし、試合の行方を左右するようなレフリングのミスが起きれば、人々はそればかりを覚えています。残念ながら、それがこの仕事の一部なのです。

 私はどの試合の前でも同じことを言います。先週の日曜日の試合前もそうですし、2年前のトップ14の決勝戦の前にも言いました。特に決勝のような大舞台では、人々は試合中のたった3つか4つの大きな決断で私たちのレフリングを評価します。それは、カードの提示、トライの判定、そしてビデオ判定といった、いわゆる『ビッグ・デシジョン』です。もし、これら3、4つの重大な局面での判断さえ間違っていなければ、大きな問題になることはなく、パフォーマンスは『良かった』と評価されます。

『ノン・デシジョン』(吹くべきだったのに吹かなかった場面)があったとか、タックラーのロールアウェイが遅かったとか、スクラムの判定が逆だったとか……そうした技術的な細かい部分でとやかく言われることはあまりありません。ラグビーは理解するのも裁くのも非常に複雑なスポーツですから、技術的な細部まで口を出す人は少ないのです。
 しかし、カードの色を間違えたり、認めるべきでないトライを認めてしまったりすれば、人々はそれだけを語り継ぎます。だから私はいつもTMOやアシスタントにこう言います。『今日の評価が決まるのは、たった3つか4つの大きな場面だ。そこさえ正しく裁ければ、私たちはそれほど叩かれることはないんだ』と」

アシスタントレフリーを務めた2月21日のディビジョン2、レッドハリケーンズ大阪×日本製鉄釜石シーウェイブス。近藤雅喜レフリーとコミュニケーションをとる。(撮影/松本かおり)


——ワールドラグビーの「すべてのエリートレベルの大会で『20分レッドカード』を適用する」という決定に従い、トップ14では「見る人の混乱を防ぐように」とカードの色を変え、『オレンジカード』が今季から導入されました。あなたは最初にこのカードを出したレフリーですね。勇気のいる決断だったのではないですか?

「ええ、今シーズンの開幕早々(第2節)のラ・ロシェル×クレルモンでしたね」

——そうです、ロブ・シモンズへの判定でした。

「はい、クレルモンのLOの選手です。マチュー(レイナル)からの指示では、このカードはあくまで『最終手段』として使うことになっています。このオレンジカードは、映像を確認しても判断が非常に難しく、レフリー団の間で意見が一致しないような状況で役立つものです。あるレフリーはイエローだと言い、別のレフリーはレッドだと言う。そうした状況に対する一つの答え、解決策となるのがこのカードです。映像を見ても、イエローの要素もあればレッドの要素もあり、意見が割れる。明らかにレッドともイエローとも言い切れない『グレーゾーン』の時です。このカードを使えば、チームに対して即座に(試合を通しての)退場(レッド)という重すぎる罰を与えることを避けつつ、かといって軽すぎるイエローで済ませてしまうことも防げるのです。

 私たちが受けている具体的な指示はこうです。『要素が明確で、イエローだと判断できるならイエローを出す』。『要素が明確で、レッドにすべきならレッドを出す』。そして、世間でも議論を巻き起こすような、判断が『50対50』の状況すべてにおいて、オレンジカードを出すのです。

 私が最初に出したあの場面を例に挙げると、選手の肩が相手の頭部に接触しており、レッドカードを出すための要素はすべて揃っていました。しかし同時に、1人目のタックラーも存在していました。ただ、それが2人目のタックルに決定的な影響を与えたとまでは言えませんでした。つまり『軽減要因』が存在してはいたものの、明白ではなかったのです。このように両方の解釈ができる要素があったため、私はオレンジカードを選択しました。レフリーグループで振り返った際も、マチュー(レイナル)からは『オレンジカードを出したのは良い判断だった』と言われました。でも、このカードは、そんなに使われていません」

——6枚ですね。

「ええ、まさにその通りです。17節まで終えた段階で、6枚です。このカードは人々の意見が真っ二つに割れるような、本当に限られた状況でこそ役立つのです。

 日本や国際試合との違いは、フランスにはバンカーシステムなどがない点です。ですから、私たちフィールド上のレフリーが自ら最終的な判断を下します。場外で誰かがレビューしてくれる『イエローを出して裏で確認』という仕組みではなく、あくまでフィールドにいる主審が責任を持って判定を決めるのです。このやり方もいまでは定着しており、かなり適切に運用できていると感じています」(補足:10月25日の第8節に出された後は1枚も使用されていない)

——ビデオ判定の話が出ましたが、フランスのトップ14では、TMOはどう介入してくるのでしょうか? レフリーが見逃した反則を見つけた時ですか? 例えば南半球では、本当に重大な反則の時にしか介入しません。

「フランスでも同じです。ビデオ判定の要請には2つのパターンがあります。ひとつは私たちフィールドのレフリーからで、ピッチ上で疑問があったり確認したいプレーがあったりする場合です。この場合は私たちがビデオ判定を要請します。

 もうひとつは、南半球や日本のリーグワンと同様、TMO側から要請が来るパターンです。TMOへの指示では、レッドカードやイエローカードに相当するような、極めて悪質で重大な反則があった時にだけ介入することになっています。カードが出るべき重大な局面でのみ介入を求めるのです。私たちは彼らに、あくまで『明白かつ一目瞭然(Clear & Obvious)』な事象についてのみ報告するよう求めています。

 私はいつもTMOに対し、こう頼んでいます。『自宅のソファでくつろぎながら、のんびり試合を観ているような気分で画面の前にいてくれ』と。もし、あるプレーを見て思わず椅子から飛び上がったり、『うわっ』と声を上げたりしたら、そこには何らかの重大な事象があるということです。そういう瞬間にこそ介入してほしいのです。TMOが自らレフリングをしようとしたり、重箱の隅をつつくように細かいミスを探したりしてはいけません。あくまで、誰の目にも明らかな重大な反則だけが対象なのです」

2月22日の三重ホンダヒート×静岡ブルーレヴズでレフリーを務めた。TMO判定時にスクリーンで確認。(撮影/松本かおり)


◆代表チームとの協働による強化への貢献。


——最後に、フランス代表の規律についてお尋ねしたいのですが。11月のテストマッチシリーズを見ていて疑問に思ったことがあります。彼らはとても多くのペナルティを取られていました。特にオフサイドの数が異常に多かった。トップ14ではこの反則はあまり吹かれていなかったのでしょうか?

「確かに11月のシリーズでは、フランス代表は特にオフサイドの分野で最もペナルティを受けたチームのひとつでしたね。ただ、私個人の見解としては、トップ14でもフィールドのレフリーたちはオフサイドをかなり厳格に見ていると感じています。ですから、問題の根本がそこにあるのかどうかは、必ずしも断言できません。

 しかし、私たちレフリー側も判定の基準を微調整し、より注意を払う必要があるのは事実でしょう。重要なのは、ビデオ判定の時と同じで、『明白かつ一目瞭然』なオフサイドをしっかりと裁くことです。特に、攻撃側がラインブレイクした直後のオフサイドなどがそれにあたります。代表チームはその点で多くのペナルティを受けました。(元国際レフリーの)ジェローム・ガルセスがフランス代表のスタッフとして指導していることもあり、今回のシックスネーションズ序盤ではかなり改善されていると感じます」

——フランス代表が改善されたのは、ラックでのコンテストを控えるようになったからでしょうか。

「ええ、それもあります。彼らはそこを修正しました。今回のシックスネーションズ序盤を振り返ると、確かアイルランド戦での被ペナルティ数はわずか4つで、前半にいたってはゼロでした。規律という点では、これは驚異的なパフォーマンスです。

 そもそも国際試合のレベルでは、被ペナルティ数が10回を下回れば、かなり良い数字だと見なされます。8回以下なら上出来です。それをアイルランド戦では、たった4回、しかも前半は無反則だったのですから、彼らがこのシックスネーションズにおいて、いかに規律を最優先事項に据えているかが分かりますし、それが功を奏しています。いくつかミスがあった11月に比べ、現在の規律のパフォーマンスは非常に高いレベルにあります。

 チーム内部での取り組み、そしてジェローム(・ガルセス)の助言が実を結び、素晴らしい成果を上げているのだと思います。もちろん、フランス代表の選手は全員がトップ14でプレーしています。ですから、私たちレフリー側も努力を続け、特定のルール領域において国際基準と同じような裁き方をすることで、彼らが代表戦でも戸惑わずにプレーできるようサポートしていく必要があります。

 ここ数週間、オフサイドをどのように裁くべきかについて、レフリーグループでかなりの議論と意見交換を重ねてきました。これは現在、私たちの関心の中心にあるテーマです。ただ、極端から極端へと走ってはいけません。常に『中道(ちょうど良い落とし所)』を見つける必要があります。

 というのも、オフサイドを厳しく取り締まろうとしすぎると、実際には反則ではないものまで吹いてしまうリスクがあるからです。試合のスピードが非常に速い中で、一見すると選手がオフサイドの位置にいるように感じ、笛を吹いてしまうことが現にあります。しかし、あとでビデオを見直してみると、その選手は、レフリーよりもボールが出る瞬間をよく見ていて、ラックからいつボールが持ち上げられたかを正確に把握しており、ルールも熟知していた……つまり、実はオフサイドではなかった、ということが起こりうるのです。ですから、このルールの適用には常にバランスが求められるのです」

——フランスではよく「これは英国流のレフリングだ」「英語圏のレフリングだ」といった言い方がされますが、実際に、フランスと英国圏でレフリングの違いはあるのでしょうか。

「いいえ、ありません。それは永遠の議論ですね。チャンピオンズカップの前には必ずその話題になります。しかし、現在では多くの分野において、フランスの方がむしろ厳格で、逆にチャンピオンズカップの方が少し寛容なレフリングになっていると私は考えています。

 今シーズンのフランスを例に取ると、国際レベルと比較してもその差は明らかです。日曜日(2月22日の三重ホンダヒート×静岡ブルーレヴズ)の試合前にも選手やコーチ陣と話したのですが、私たちフランスのレフリーは、スクラムへのボール投入を非常に厳しく裁いています。ボールは真っ直ぐ入れ、必ずフッキングさせなければなりません。欧州レベルや国際レベルでは、ほとんど裁かれていないのが現状です。

 しかし、トップ14ではそこを非常に厳しく裁いており、それがいま、実を結んでいます。おかげでスクラムでの攻防がより激しくなり、投入の正確性も高まりました。また、(ラインアウト後の)モールの守備についても非常に厳格です。モールの周囲やリフターの周りを回り込むような動きは、トップ14では厳しく反則を取ります。

 こうした点は、チャンピオンズカップや国際レベルでは少し緩く裁かれる傾向があります。現在のトップ14のレフリングは、より厳しく、よりルールに忠実であると言えるでしょう。これはフランス代表や選手たちにとって、むしろ有益なはずです。なぜなら、一歩上のレベルでも、少し余裕が生まれるわけですから。英国流とフランス流に差があるとは思いません。むしろ私たちの方が厳格であり、それがフランスの選手たちにプラスに働いているのです」

フランス代表のスクラム担当コーチ、ウィリアム・セルヴァットとの協働でスクラムの知識も得た。(撮影/松本かおり)


——そうすることで、フランス代表のレベルアップや強化にも貢献しているわけですね。
「まさにその通りです。それらは切り離せない関係ですから。だからこそ、フランス代表のスタッフとの頻繁なミーティングが重要なんです。スクラム担当コーチのウィリアム・セルヴァットや、ラインアウト担当のロラン・サンペレといった面々も、私たちの勉強会に参加しています。

 リーグ、私たちレフリー、そして代表チーム……これらすべてが手を取り合って協力することが不可欠です。彼らが何を求めているのかを正しく理解し、最善の形でレフリングをおこなう。そうすることで、私たちレフリーにとっても、リーグにとっても、そしてフランス代表にとっても『ウィン・ウィン』の関係になれるよう努めているのです」

——スクラムコーチのセルヴァットと協力することで、レフリー側もスクラムとは何か、スクラムの内部で何が起きているのか、プロップの間で何が行われているのかを学ぶことができますね。ケールさんはスクラムを理解するために相当な時間を費やしてスクラムの映像を見られたとお聞きしています。
「その通りです。いまの世代のレフリーを見てみると、多くがBK出身です。私自身も怪我をする前はSOでプレーしていましたから、人生で一度もスクラムを組んだことがありませんでした。

 ですから、何時間も、何時間もスクラムの映像を見て、その仕組みを理解し、研究を重ねることが不可欠なのです。例えばウィリアム(セルヴァット)と一緒に作業をすることで、どこに注目すべきかという『判定の基準』が明確になり、より深く状況を理解し、最善の決断を下せるようになります。トップ14で数年間経験を積み、この分野の研究を重ねてきたことで、知識も深まりました。それによって、より正確で、より信憑性のある判定を下せるようになっていると感じています」

——ところで、日本を観光する時間は、少しはありましたか?
「結構忙しくて、あまり観光はできていないんです。水曜日(2月18日)の夜に日本に着きました。最初は時差ボケに慣れるのが大変でした。フランスとは8時間の時差があり、最初の数日は、夜眠れず、昼間に疲れが出てしまって少し苦労しました。金曜の夜に大阪へ移動して一晩泊まり、土曜日に大阪で試合を担当しました(レッドハリケーンズ大阪×釜石シーウェイブスでアシスタント)。

 その後、大阪から三重の鈴鹿へ移動し、日曜日に三重で主審を務め(三重ホンダヒート×静岡ブルーレヴズ)、そこから名古屋へ移動しました。月曜の午後と夜に名古屋のレフリーたちと勉強会を行い、火曜の夜に東京に戻ってきました。

 それからは、試合の振り返りやインタビュー、事務作業などが続いて、今日もこのあと、午後5時からメディア向けの会見があり、夜にはレフリーたちとのワークショップも控えています。明日は一日フリータイムがあるので、東京の街を少し散策しようと思っています。その後、土曜日にレフリー(浦安D-Rocks×コベルコ神戸スティーラーズ)、日曜日にアシスタント(クリタウォーターガッシュ昭島×ルリーロ福岡)をして、月曜の朝の便で帰国します」

——観光する余裕はなさそうですね。それでも食事など、日本の文化を少しは楽しまれていますか?
「その通りです。いろいろなレストランに行きました。とても興味深いし、どれも素晴らしい味でした。日本の食べ物は本当に美味しいですね。フランスにも美味しいものはたくさんありますが、ここ日本でも同じくらい素晴らしい食事を楽しめています。本当に気に入りました。 それに、私たちの周りにはとても親切な方々がいて、特に食文化の面でいろいろな発見をさせてくれるんです。おかげで、とても興味深い体験ができています」








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