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2018年に発足したメジャーリーグ・ラグビー(以下、MLR)は深刻な財政的脆弱性を抱えており、2025年のオフシーズンに壊滅的な「緊縮の危機」に直面している。
2025年シーズン終了後、リーグは11チームからわずか6チームへと、ほぼ半減する事態に。また、この崩壊はノラ・ゴールド(NOLA Gold/ニューオーリンズ・ゴールド)による選手への契約不履行問題に象徴される、リーグ全体の構造的欠陥を露呈させた。
リーグの歴史、近年の動きについて書いた記事に続き、今回は実際の現場スタッフの声も交えながら、リーグの現状、そして未来についてリポートする。
【2026シーズンのMLR/6チーム】
シアトル・シーウルブズ(Seattle Seawolves)
カリフォルニア・リージョン(合併新チーム/California Legion)
シカゴ・ハウンズ(Chicago Hounds)
ニューイングランド・フリージャックス(New England FreeJacks)
オールドグローリーDC(Old Glory DC)
アンセム・ラグビー・カロライナ(Anthem RC)
◆リーグ緊縮による選手への影響:ノラ・ゴールド(NOLA Gold)の場合。
①デフォルト(債務不履行):契約の破棄。
ノラ・ゴールドは2025年シーズン限りでの撤退を発表した。この決定は、表向きには「草の根レベルの育成に焦点を当てる」ための戦略的決断として発表された。
しかしその裏でクラブ経営陣は、2026年シーズン終了まで保証された「法的拘束力のある」契約を結んでいた多くの選手たちに対し、非情な提案をおこなった。契約上の合意を履行する代わりに、わずか「1か月分の給与」を退職金として提示したのだ。
さらにこのオファーは選手たちに対し、契約によって保証された他のすべての権利と保護を放棄する書類に署名することを条件とした。
②選手への影響:契約の無効化と市場の飽和。
選手の一人、マルコム・メイによれば、選手たちがオファーを拒否したあと経営陣は、「交渉のテーブルに着こうとせず」、一切のコミュニケーションを絶った。それによって、複数年契約を結んでいた約20名の選手が、財政的・職業的な宙吊り状態に陥った。
オーナー陣は一方的な条件提示のあと、選手との接触を一切断つ「音信不通(ghosting)」の状態を続けている。保証契約を無視したまま資産を別法人へ移転させようとする疑惑も浮上している。
これに反発した選手たちは2025年11月、ファンやサポーターに向けた連名の「公開書簡(Open Letter)」を発表し、法的拘束力を持つ契約の遵守と誠実な対話を求める声をあげた。
私自身もノラ・ゴールドに知り合いの選手がいるが、彼はこの撤退により、2026年シーズンのプロ契約を失うことになった。新たな契約は見つけられておらず、カナダ・ブリティッシュコロンビア州のブリティッシュコロンビアリーグで、現在はプレーをしている。
ノラ・ゴールドの破綻に加え、マイアミ、ヒューストン、ユタの撤退、カリフォルニアの2チームの合併により、100名以上とも推定されるプロ選手が職を失い、労働市場が飽和状態となった。彼らは、わずか6つに減少したチームの限られたロースタースポットを奪い合うことを余儀なくされた。
この危機はリーグ全体に波及し、合併したカリフォルニア・リージョンの選手たちも、2025年以降の契約がすべて無効となり、個別に再交渉を強いられる事態となった。さらに、リーグがカナダ人選手を初めて「外国人枠」として扱う新ルールを導入したため、カナダ人選手の就労機会はさらに狭められた。
◆破綻の要因分析:なぜMLRで破綻が相次いでいるのか。
メジャーリーグ・ラグビーが直面している現在の状況は、単なる一つのつまずきではなく、プロスポーツとしての「産みの苦しみ」とも言える構造的な課題が表面化したものだ。
MLRのビジネスモデルは、根本的に個々のオーナーの私財に過度に依存している。各フランチャイズは「毎年数百万ドル」の損失を出していると報じられており、この構造はオーナーが損失を補填し続ける意思と能力を持っている間しか維持できない。
2025年の危機は、この「オーナーの投資疲れ」が限界に達したことを示している。ユタ・ウォリアーズのCEOは、チーム運営を「非常に大きな財政的負担」と表現し、存続には「追加のパートナー」が必要であると公に認めている。
ユタやマイアミ、ヒューストンといったチームの活動停止は、単なるビジネスの失敗というよりは、持続可能な資本モデルを再構築する過程で生じた、痛みを伴う調整局面と捉えるべきだろう。

この経営の難しさについて、2025年シーズンにニューイングランド・フリージャックスでスタッフを務めた内野優氏は、現場の視点からこう語る。
同氏によれば、リーグ全体が財政的に厳しい局面にあることは周知の事実であり、各チームのオーナーはリーグの成熟を願いつつも、同時にビジネスとしての成否を極めてシビアに見極めている。
ニューイングランド・フリージャックスは、2025年のMLRシーズンで優勝を果たし、その他のシーズンでも常にプレーオフに進出するなど、最も成功しているクラブの1つである。
それだけのクラブでも、現場を支えるのは、ヘッドコーチと2人のアシスタントコーチ、そしてわずか数名程度の正社員、アナリストなど残りのスタッフはパートタイムでの雇用という、極めてスリムな組織だ。
私が間近で見てきたシアトル・シーウルブズでも似たような構造になっている。そのような身の丈に合った経営こそが、現在のMLRで生き残るための必須条件となっているのだろう。
収益構造に目を向けると、リーグからの放映権料の分配、スポンサーからの資金、チケット代、グッズ収益などが収益源として存在する。
その中で特にスポンサーからの資金が大きな支えとなっている模様だ。
チケットは、5000人前後が最大収容人数となっており、ホーム平均で3500人程度の入り。プロリーグを維持するには決して大きい観客数とは言えない。
日本のリーグワンの東芝ブレイブルーパス東京は、2024-25シーズンの収入を親会社東芝からのスポンサー料を非公開としつつも7億超としている。
一方MLRのクラブは前出の内野氏によると、その半分弱程度と見られている。そしてその環境は、選手の生活にも直接的な影響を与えている。
トップ層でも年俸(正確には1シーズンあたりの契約期間は概ね半年)は1000万円程度、多くの選手は半年契約で500万円を切るレベルという条件だ。そのため、不動産業を手伝ったり、S&Cコーチを務めたりと、副業を持ちながらキャリアを継続する選手は珍しくない。
チームが用意したシェアハウスで共同生活を送り、限られた予算の食事代で体を作る彼らの暮らしは、決して華やかなプロのイメージだけではない。
また、北米特有の巨大なスポーツ市場の壁も厚い。アメフトや野球が圧倒的な認知度を誇る中で、ラグビーは依然として「知る人ぞ知る」存在にとどまっている。
前述の内野氏は、ボストンやマサチューセッツ州では、ラグビー関係者や地域住民はチームの存在を知っていると話す。しかし、その外に行くと知られていないのが現実だ。
時間軸は異なるが、私が、2019年4月ごろシアトルマリナーズの本拠地「T-Mobile Park」を訪問し、球団の幹部の方と話した時、シアトル・シーウルブズを知らなかった。同じ都市にあるプロスポーツチームなのに、である。
ただ、この逆境こそが独自の戦略を生んでいる。
フリージャックスは、地道な地域交流やアカデミー運営といった草の根活動を徹底し、ラグビーに関わる「関係人口」を増やすことに注力した。
また、他のメジャー競技と競合しない戦略的な会場選びを徹底した結果、観客数は2022年から2024年にかけて+61パーセント、チケット収益は+90パーセントという成長を記録している。
構造的な課題を抱えながらも、地道なファン形成とスリムな経営を両立させることでMLRは、いま、以前とは違う現実的なプロスポーツの形を模索している。

◆将来の展望:MLRの2026年シーズンと2031年ワールドカップ
①MLRの2026年シーズン
2026年シーズンは、前述のように6チーム制でおこなわれる。サンディエゴとロサンゼルスの2つのフランチャイズが合併して誕生したカリフォルニア・リージョンは、サンディエゴやロサンゼルスなど州内複数の都市をホームとして戦う、州全域を代表するチームとしての立ち位置を目指している。
チーム数の減少に伴い、これまでのカンファレンス制は廃止され、全チームが同一のランキングで競う「シングルテーブル」方式が復活する。レギュラーシーズンは、各チームがホーム&アウェーで他の全5チームと対戦する、計10試合の構成だ。
日程は、2026年3月28日にカリフォルニア・リージョン×アンセムRCの開幕戦がおこなわれ、4月上旬に全チームが始動する。レギュラーシーズン最終戦(Decision Day)は6月7日に予定されている。
その後、上位4チームがプレーオフに進出する。準決勝(1位×4位、2位×3位)を経て、チャンピオンシップ・ファイナルへと進む。
またアメリカ代表の強化のため、これまで外国人選手とカウントされなかったカナダ人選手が、外国人扱いとなった。ニューイングランド・フリージャックスのようにカナダ人選手が多くを占めるチームも多く、チーム層やカナダラグビー界への影響も大きそうだ。
②ワールドラグビーのジレンマ:RWC2031パラドックス
ワールドラグビー(以下、WR)は、2031年男子大会および2033年女子大会のラグビーワールドカップ(以下、RWC)開催権をアメリカに与え、ラグビーの未来をアメリカ市場に賭けている。WRは、草の根レベルからプロレベルまで、ラグビーの競技基盤を構築するため「2億5000万ドル(約382億5500万円)以上」を投資している。WRのアラン・ギルピンCEOは、この戦略が「成長し、繁栄しているアメリカの国内プロリーグ」の存在をベースにしているとしている。
しかし、ここに深刻なパラドックスが存在する。ワールドラグビーのアメリカ戦略全体が、MLRの成功を前提としているにもかかわらず、そのMLRは繁栄するどころか崩壊している。WRの投資は、失敗しつつある乗り物(MLR)に注ぎ込まれているということになる。
MLRが強化するはずだったアメリカ代表(USAイーグルス)は2023年のRWC出場を逃し、国際的な競争力を欠いている。
これは国内リーグが不安定で、レベルが不十分であることと無関係ではないだろう。
◆まとめ。
私自身2018年-2019年シーズンでは、シアトル・シーウルブズの母体となったシアトル・ラグビー・クラブ(Seattle Rugby Club、当時はシアトル・サラセンズ)でプレーしていた。
練習場所も、シアトル・シーウルブズの隣で、ロッカーやミーティングルームも隣接。シアトル・ラグビー・クラブの1軍選手の多くは、シアトル・シーウルブズの練習にも参加していたし、シーウルブズで契約を得て、プロ選手としてデビューする選手も多くみてきた。
アマチュアレベルで活躍してきた選手が、プロ選手としての輝く機会を得る。より高いステージへの階段がすぐ間近に感じられるその良さをなくしてほしくはないと思う。
2031年、アメリカでラグビーワールドカップがおこなわれる。「眠れる巨人」とも称されるアメリカは、ひとたび火がつけばプロスポーツとしての熱狂と規模は計りしれない。
これまでラグビーの存在感が大きくなかったこの地で、最高峰の大会が開かれることの意義は極めて大きい。ラグビーの持つ真のポテンシャルが解き放たれる瞬間を期待せずにはいられない。
その時、アメリカ中を包み込むことになるであろう、熱狂の光景を見てみたい。そして、何よりこの国にラグビーという文化が深く根を下ろすきっかけになってほしいと願う。
【筆者プロフィール】
おおたけ・かずき
1996年愛知県名古屋市生まれ。早稲田GWRC、University of Washington Husky Rugby Club、Seattle Rugby Club、Kenya Homeboyz、Kenya Wolves等を経て、現在カナダ・アルバータ州のラグビーチームでプレー中。13人制ラグビー日本代表副将(現在キャップ6)。早稲田大学、University of Washingtonを経て、外資系戦略コンサルティングファームの東京オフィス、ケニアオフィスなどに勤務したのち、独立。