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「なんて日だ!」
驚きの声が響いた。
レイザーこと、スコット・ロバートソンがオールブラックスのヘッドコーチ(以下、HC)を退任した。あまりにも急な展開にニュージーランド(以下、NZ)国内は一気にざわついた。選手たちのオールブラックスのコーチングスタッフへの不満は、想像以上に根が深かった。
2026年の新年を迎えて僅か2週間。まだまだ夏休みの余韻が残る1月15日、ビッグニュースが飛び込んできた。NZ時間午後、NZラグビー協会(NZR)から正式な退任発表があった。
ロバートソンHCは、スーパーラグビーのクルセイダーズを7連覇(2017年~2023年)に導いた実績を武器に、強いオールブラックスの復活の切り札として、2024年からヘッドコーチに就任した。
NZラグビー協会が前例を破り、2023年3月に前ヘッドコーチのイアン・フォスター氏の任期中に、後任として指名したのがロバートソンだった。それにもかかわらず、このような結末を迎えた。
2027年のワールドカップまでの4年契約。その半分となる2年でチームを去ることは、誰も想像できなかっただろう。突然の出来事に、NZ国内の夕方のテレビのニュースはトップで大きく取り上げ、トークバックラジオは、司会者だけでなくリスナーも驚きを隠せない様子だった。

◆蓄積された選手たちの不満が、2025年のレビューでついに表面化。
1月15日の午前、NZのテレビ局1NEWSが「スコット・ロバートソンがオールブラックスのコーチを解任される見込み」というビッグニュースを報じ、国内は一気に緊張感に包まれた。
その記事には、「NZラグビーユニオンが本日、オールブラックスのヘッドコーチである、スコット・ロバートソンが、4年契約の2年にして解任される事を発表する見込みです」と具体的に書かれていた。
実は前日の1月14日午後には、NZ ヘラルドが「オールブラックスのレビュー(2025):アーディ・サヴェアの将来が不透明、NZラグビー、選手の反発の危機に直面」と、強い見出しのWEB記事を掲載していた。
そこでは、オールブラックスの大黒柱であるFLアーディ・サヴェア(現在、コベルコ神戸スティーラーズ所属)がオールブラックスのコーチング体制に強い不満をもっており、日本残留かレンスター(アイルランド)に移籍を検討しているという具体的な話にまで触れていた。
さらに、「コーチ陣の大幅な変更がなければ、代表に復帰しない可能性がある」とも書かれており、不満はサヴェアだけに限らず他の主力選手にも広がっている深刻な状況が伝えられていた。
2025年シーズン終了時点すでに、セレクションを含む現体制への不満が(主力も含む)複数の選手から出ていると漏れ聞こえていた。またロバートソンHCは一部のメディアに対し、実質的にはアシスタントのスコット・ハンセン氏がHCの役割を担っていると語った報道もあった。選手たちの不満はハンセン氏にも向けられていたのでは、という声も挙がっていた。

不満は選手たちだけからではなかった。
2024年には、アシスタントのレオン・マクドナルド氏の退任。さらに2025年の年末遠征の直前には、ジェイソン・ホランド氏が契約を延長しない発表をした。2年で2人のアシスタントコーチ退任という事実は、コーチングスタッフ同士の信頼関係にも問題があったことを示していると言っていいだろう。
アシスタントコーチたちの退任劇に、選手たちも納得がいっていなかったと想像ができる。残されたコーチ陣の多くは、ロバートソンがクルセイダーズを率いていた時代に関わった人物で占められていた。その点も、メディアやファンの間でたびたび話題となっていた。
選手たちはこの2年にわたり、首脳陣に対して複数回にわたる不満や懸念を示していたと報じられている。それらが積み重なった結果、2025年末の遠征後におこなわれたシーズンレビューで、内部の不満が一気に表面化した。
◆最終レビューが導いた結論 、ロバートソン退任。
年が明け2025年度の最終レビューの時期を迎えた今週、詳細が徐々に明らかになり、1月14日から少しずつ表に出てきた。
決定的な動きがあったのは、1月15日。NZラグビー協会はロバートソンHCがチームを去ることを公式に発表した。前日のNZヘラルドの報道から、わずか24時間以内の急展開だった。
表向きはNZラグビー協会とロバートソンの「双方合意による退任」とされたが、現地メディアの論調や選手の反応を踏まえると、実態は事実上の解任と受け取れる。
昨年の時点では、一部のコーチングスタッフの変更にとどまり、ロバートソン体制は継続されるとの見方もあった。しかし結果的に契約を2年残しての退任となった。
前任のイアン・フォスターは、2022年に成績不振もあり解任が濃厚となりながらも、主力選手たちが当時のCEOのマーク・ロビンソン氏に掛け合って、フォスター継続を勝ち取った経緯がある。
しかし、今回は、複数の主力選手たちの声がロバートソン退任へと繋がった。前体制時とは正反対の展開となった点は、非常に興味深い。
NZラグビー協会の会長のデイビット・カーク氏は、「変更を加えなければ、チームが本来の軌道に戻るとは思えなかった」と述べた。ロバートソン氏の退任に至った具体的な問題やテーマについては詳しくは語らなかったものの、「我々はチームのピッチ内外での進捗を広範囲にわたって精査し、その上でスコット(ロバートソン)と今後について話し合いました。NZRとスコットは、チームの最善の利益のために彼がヘッドコーチを退任することに同意した」とコメントを出した。
さらに、「ニュージーランドラグビーを代表して、スコットのオールブラックスへの貢献に感謝します。彼は常にチームを最優先し、退任という難しい判断をおこなったことを尊重します。選手としてもコーチとしてもチームへの情熱は明らかであり、長年にわたりニュージーランドのラグビーのあらゆるレベルで尽力してきたことは大きな功績です。今後の活躍を願っています」と、ロバートソンに対してねぎらいのコメントも添えた。

近年の不振の中で 『切り札』 と見られていたロバートソンの退任は、あまりにも衝撃的だった。ロバートソン自身も自らコメントを出した。
冒頭で「オールブラックスを指揮することは、私の人生において最大の名誉でした」と語る一方、終盤には「この結末には心が張り裂ける思いです」と、率直な気持ちがにじみ出ていた。
スーパーラグビーで絶対王者クルセイダーズを7連覇に導いた。自信はあったはずだ。無念さを感じて当然だろう。指揮を執ったテストマッチの通算成績は20勝7敗。NZラグビーのファンやメディアは、誰もその成績に満足していない。
この結果は、スーパーラグビーとテストマッチがまったく別の土俵であることを示すとともに、常に勝利を求められるオールブラックスの指揮を執ることの難しさをあらためて突き付けた。
NZラグビー協会は、新たなヘッドコーチ選考のプロセスを、直ちに開始する。
後任候補として真っ先に挙がるのは、前日本代表指揮官のジェイミー・ジョセフ氏(オールブラックスXVのHC/現ハイランダーズHC)。その報道が有力で、コベルコ神戸スティーラーズHC、デイブ・レニー氏の名前も挙がっている。
首相の次に大変な仕事と言われているオールブラックスの指揮官に誰が就くのか。NZ国内はさっそくこの話題で持ちきりで、それはしばらく続くだろう。
今年は新たにネーションズカップが始まり、8月にはスプリングボックスとの4テストを含む南アフリカツアーもある。新体制で迎える多忙なシーズンとなり、不安が残るものの、NZのラグビーファンはオールブラックスが新たな飛躍を遂げる一年になることを期待している。