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レイザーことスコット・ロバートソンは、スーパーラグビーのクルセイダーズの指揮官としてチームを7連覇(2017年~2023年)に導いた強者だ。優勝を決めた試合後には、ピッチでブレイクダンスを披露するなど、ユニークなキャラクターの持ち主としても知られる。
今年からオールブラックスのヘッドコーチ(HC)に就任したロバートソン。その座に就くまでには、ドラマがあった。
これまで、現職HCの任期が終わってから後任が発表されてきた。しかしNZラグビー協会は2023年3月、前HCのイアン・フォスター氏が指揮を執っているうちに後任にロバートソンを指名したのだ。
前HCの残す結果が物足りず、厳しい目が注がれる状況もあったが、スーパーラグビーレベルではあるが、NZでコーチとして最も成功している男を海外に手放したくなかった。
ロバートソンHC誕生により、2004年から約20年続いた、いわば身内体制(アシスタントコーチが繰り上がってHCとなる)にも終止符を打つことになった。
メディアを騒がせた今年最初のセレクション
ロバートソンがオールブラックスのHCに就任してから半年が過ぎ、大きな仕事の時期が訪れた。2024年の最初のオールブラックスのスコッド、32人のセレクションだ。
6月24日だった。ロバートソンHCが選手、そしてコーチとして慣れ親しんだクライストチャーチでスコッドの発表をした。
※セレクターは、ロバートソンHCをはじめ、アシスタントコーチのスコット・ハンセン、ジェイソン・ホーランド、レオン・マクドナルド、ジェイソン・ライアン
注目のキャプテンは、クルセイダーズを指揮していた時にキャプテンを任せていたスコット・バレットに代表での大役を任せることにした。一部のメディアが騒いだものの、前体制のイアン・フォスターHCとサム・ケインの関係性も同様だった。自然な成り行きともいえる。
一方で32人のスコッドには、いくつかのサプライズがあった。
5名の新顔がいた。HOジョージ・ベル(クルセイダーズ)、PRパシリオ・トシ(ハリケーンズ)、FL/NO8ウォレス・シティティ(チーフス)、SHコルテス・ラティマ(チーフス)、CTBビリー・プロクター(ハリケーンズ)の名前が挙がった。
ケガのHOサミソニ・タウケイアホの代わりにベル、誰もがノーマークだったPRトシ、この2人の選出はサプライズだった。
ソトゥトゥが外れたポジションには、今季スーパーラグビーデビューのシティティが選ばれた。
シーズン途中から登場し、試合を重ねるごとに着実に成長。そしてプレーオフに入ってからのパフォーマンスはハリケーンズ撃破に大きく貢献。結果セレクターを満足させた。
最も騒がせたのは、NO8ホスキンス・ソトゥトゥの落選だ。
今季のスーパーラグビー・パシフィックでWTBセブ・リースと共にトライ王となる12トライを挙げたソトゥトゥは、ブルーズの21年ぶりの優勝に大きく貢献したと言える。ざわついたのも、ある意味当然かもしれない。
ラグビーは、ボールを持って目立っている人だけで成り立ってはいない。セレクターは当然、テレビ画面に映ってない選手の動きも見ているという。いわゆるボールを持ってない時の動きだ。
さらには、選手のキャラクター(性格)などを含めてコーチ陣からフィードバックを貰う。シーズン中にセレクターから選手たちへの伝達もあり、それをしっかり遂行できているかも大事だ。様々な要素を見極めた上でセレクターは、最終的にシティティを選んだようだ。
ロバートソンHCが、自分の現役時代と同じポジションンのシティティを絶賛している様子が印象的だった。
注目の初戦は納得のメンバー。ボーデン・バレットはベンチスタート
2024年度のオールブラックスの開幕戦は、7月6日(土曜日、現地時間19:05キックオフ)にダニーデンにイングランドを迎えておこなわれる。
ロバートソンHCのオールブラックスでの初采配だ。何かと話題を呼ぶ男だけに、選手よりも大きな注目が集まてっている。
7月4日に試合出場予定メンバーの発表があった。
ここ数週間でNZのメディア、ラグビーファンの間で論議が盛んだった初戦のメンバー。最も注目されたのは、W杯後に日本に移籍したFLシャノン・フリゼル、SHアーロン・スミス、SOリッチー・モウンガの抜けた6番、9番、10番のセレクションだ。
HCを中心にセレクター陣が選んだのは、6番サミペニ・フィナウ、9番TJ・ペレナラ、10番ダミアン・マッケンジーだった。
興味深いセレクションは、他にもあった。100キャップを超えるテストマッチ経験のボーデン・バレットを抑えてスティーヴン・ペロフェタを15番で先発に抜擢したのだ。このセレクションはスポーツニュースを賑わせた。
これに関してロバートソンHCは、「テストマッチのような(レベルの)スーパーラグビーの決勝を経験している。ハイボールも強い」とペロフェタを評価する。
ボーデン・バレットベンチスタートとは贅沢なセレクション。相手にとっては不気味な存在となるだろう。
ペロフェタ抜擢のサプライズはあったものの、全体的に見てバランスが取れた良いセレクションになった。
ロバートソンHCは、「このメンバーを選ぶのはとても難しかったが、土曜日にイングランドを倒すためにベストの23人を選んだ」。続けて「私たちはよく準備してきたし、万全な態勢だ」と語った。
この試合の一番のマッチアップは、晴れて背番号10を背負うダミアン・マッケンジー×マーカス・スミスの司令塔対決だろう。両者とも自分で仕掛けて前に出るランが魅力。スタジアムを大いに沸かせてくれるだろう。
9番で先発のペレナラ、14番で先発のリースは、ケガから約2年ぶりの代表復帰で意気込んでいる。どんなパフォーマンスを見せてくれるか楽しみだ。
NZの冬の悪天候を気にする必要がないルーフのあるスタジアムの下で、FW陣の激しいコリジョン(衝突)、エキサイティングなBK陣の華麗なプレーがたくさん見られるはずだ。ボールがよく動くエンターテインメント満載の試合が期待できる。
10年ぶりにNZを訪れたイングランドに対し、オールブラックスのHCとして初采配のロバートソン。スーパーラグビーで成功しているもののテストマッチは土俵が違う。セレクション騒動の沈静化には、まずは初戦で良い結果を残す必要がある。
ロバートソンの腕の見せ所だ。