替えのきかない選手。
チームリーダーが平翔太なら、ゲームリーダーは伊藤龍之介。
1月11日におこなわれた全国大学選手権決勝で早大に22-10と勝ち、2018-19シーズン以来、7季ぶりに大学日本一となった明大の神鳥裕之監督は、チームを勝利に導いた自軍の背番号10を最大級の言葉で高く評価した。
3年生の伊藤はこの日、その時の状況に応じた的確なプレー選択を80分続けた。
走る、パス、そしてキックのバランスが良く、味方の力を引き出し、相手にプレッシャーをかけた。監督が言うように、抜群のゲームコントロールだった。

自らトライを挙げたのは、7-3で迎えた前半33分。敵陣深い位置でラインアウトからトライラインに迫っていたFWからボールが出る。球出しが乱れたものの、そのボールを手にした伊藤は前に出てきた相手FWを鋭い走りで抜き去り、インゴールに入った。
CTB平主将のコンバージョンキックも決まり、14-3と差を広げた。
後半もチャンスを仕留め、得点のきっかけを作った。
8分、FL大川虎拓郎が左中間にトライした時は、長いラストパスを放った。ラインアウトで相手ボールをカットして始まったアタックに参加。CTB東海隼のビッグゲインで生まれたチャンスから出たボールを大川に送った。「大川はああいうところで落とすことが多いのに、よく取ってくれた」と笑顔だった。
19-3で迎えた20分に平主将が決めたPGは、伊藤のランが引き金になって生まれたものだった。
ラックから出たパスを受けた紫紺の10番は、相手防御が圧力をかけてこないと見るや、自ら仕掛けてラインブレイク。敵陣ゴール前にショートパントを蹴ってミスを誘った。
敵陣に居座り、FWが相手反則を誘ったことで貴重な3点を加えた。残り20分で22-3。勝利を大きく引き寄せた。

試合後の伊藤は、「他のメンバーがずっとディフェンスで我慢してくれたからいいプレーができた」と仲間に感謝した。
試合中のいろんな局面や準備期間を振り返りながら、チームが今季フォーカスしてきたことや変化について話した。
好ランナーが何人もいて攻撃力の高い早大のアタックを封じ、トライは、終盤に許した1つだけだったこの日。明大は周到な準備をして頂上決戦を迎えた。
相手のアタック力について、「両サイドどちらにでも仕掛け、外まで振る力がある」と警戒した。フィールドの左右両面の早大選手の配置、動きをしっかり見て、「ミラーで動く」(相手に対応して動く)ディフェンスをこの試合への準備期間、「ひたすらやり続けてきました」。
「みんな、それを80分間集中してやり続けることができた。すごくいいディフェンスだったと思います」
試合を決めたものについて、「大きなプレーではないと思っています。ディフェンスで小さなプレーというか、最後の1歩で手をかけるとか、つかみにいくとか、そういうことが優勝できた要因」と全員の意識の高さとエフォートを称えた。
「中盤でのディフェンスがよかった。向こうは、かなりノックオンをしていましたよね。オフロード(パスを)したいと思っている服部(亮太/SO)や矢崎(由高/FB)らキーマンに対してしっかりプレッシャーをかけ続け、しつこくタックルし、ボールに手をかけていた。それに救われました」
ひとつのビッグプレーでなく、「みんなが、この試合はディフェンスのゲームになる、って覚悟を決めて臨み、80分間集中を切らさずにやり続けた」。
一人のヒーローではなく、全員で栄冠を手にできたと実感している。

早大とは春から何度も戦ってきた。「特に今年のチームの色は、全員がしっかり理解していた」という。「それに対して自分たちが何をすればいいのか、分析もすごくいい形で進められました」
12月の早明戦で得た体感やデータ、分析に加え、大学選手権に入って見えた相手の変化も把握した。「それにしっかり対応できるように準備をしました」。
そんな背景があったから想定外のことが起きたり、驚くことはなかった。
ただ、試合序盤に「奥に転がすキックやスペースに落とすキックをしてきた」ことについては少しやり辛さを感じたという。
「しかし(早大は)、前半に蹴ったハイパントの感触が良かったのか、後半も同じようなキックを蹴ってきた。それに対し、うちのバックスリー(先発は阿部煌生、白井瑛人の両WTBとFB古賀龍人)がすごくいい対応をしてくれて、向こうに流れを持っていかれなかったのがすごく良かったです」
筑波大に敗れて今季のスタートを切った明大は、秋の深まりとともに全員が同じ絵を見てプレーするチームに変化していった。
伊藤も、「1、2年生の頃とはまったく違うチームになりました」と認める。
「ミーティングに割く時間が長くなったことで、お互いのことをしっかり考えてプレーするようになりました。特に今年の4年生の色なのかもしれませんが、みんなが自分のやりたいことではなく、チームのために、ということを意識してやれるようになった気がします」
自分が自分が、ではなく、話し合う中でチームとしてやるべきことが固まり、それぞれのやるべきことが明確になった。
伊藤は、そんな空気をチーム内で作る存在にもなった。
「(ミーティングについては)足りていないな、って思っていたので、僕が3年生になってある程度主力メンバーに入ることができたら、話し合っていきたいなと思っていました。それ(その考え)についてきてくれるメンバーがいたし、みんなが必要だと思って、長い時間のミーティングを面倒臭がらずにやってくれた。それが、すごく良かった」

才能ある選手たちの集団が結束して考え、動き出したら強い。今季の明大は、それを具現化した。
ビジネス書にあるような成功の鉄則を、自分たちの感覚で見つけ、実行に移した。ただ、変化し始めたのが24-22と慶大に苦しめられたあと、11月になってからというのが明大らしい。
伊藤は、「それまでは僕の寮の部屋に同期や先輩が集まり、麻雀をしている時間もあったのですが、そんな暇があるなら、たくさんビデオを見て分析し、ミーティングや自主練をしよう、となったんです」と話し、頂点に届いたチームには変化があったことと、伝統的な大らかさが残っていることも伝えた。
冒頭のように司令塔の力を愛でた神鳥監督は、伊藤が今季に入り「一貫性あるパフォーマンスを見せてくれるようになった」と、個人的な成長についても触れた。
本人も、「自分の強みをランと考えていましたが、パス、キックも含めたバランスがよくなってきたと思います」と話す。
「今シーズンは特別なことをしようとするのではなく、チームのスタイルをやり続けるということに集中しました。なので、ひたすらやるべきプレーを練習したし、ゲームを重ねる中で、精度と安定感が増えていきました」
WTBなど、他の選手からのトークにも助けられて判断力が高まった。
「3フェーズ攻めてうまくいかなかったら、次の手に切り替えるような基準も判断を助けてくれました」
後半の大川のトライにつながるプレーも、キックを蹴ろうと思ったところに外からの声が届き、判断を切り替えたことが奏功した。

自分の役目を「スタンドオフとしてしっかりゲームコントロールするし、チームもコントロールする」と理解している。
全員で考える集団となるために、チームの雰囲気作りの大切さも今季実感した。ピッチ内外で働き、「持っているものを全部出し切れた」と達成感がある。
来シーズンは最上級生。2連覇はさらに難しくなると気を引き締め、「そこに向けて、また一からやっていきたい」。リーダーとしての自覚が早くも芽生えている。
戦いを終えてすぐ、「(優勝した)実感はまだ湧きませんが、本当にすごく気持ちいい。やってきたことが報われるって、こういうことだなと思います」。
チームを頂点に導いた経験は、10番を背負う者にとって宝物となる。