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【Just TALK】「与えられた役割を示すのは同じ。2026年もよろしくお願いします」。稲垣啓太[埼玉パナソニックワイルドナイツ]
今季は開幕から全3戦に出場(すべて後半ピッチに入る)の稲垣啓太。細部にこだわる。(撮影/向 風見也)
2025.12.29
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【Just TALK】「与えられた役割を示すのは同じ。2026年もよろしくお願いします」。稲垣啓太[埼玉パナソニックワイルドナイツ]

向 風見也

 人員を入れ替えて勝ったことに価値があった。

 埼玉パナソニックワイルドナイツは12月28日、神奈川・相模原ギオンスタジアムでジャパンラグビーリーグワン1部の第3節に臨み、三菱重工相模原ダイナボアーズを33-3で制した。

 ナンバーエイトにはジャック・コーネルセンが代表活動後の休息を経て復帰した。

 一方、司令塔のスタンドオフには第2節で故障した山沢拓也に代わり、齊藤誉哉が今季初先発。スクラムハーフでも開幕節でメンバー入りした小山大輝、萩原周が抜けるなかで新人の李錦寿がスターターを担った。

 新ヘッドコーチの金沢篤が、公式会見で語った。

「誰が出てもパナソニックのラグビーができる準備をしています。そのうえで、試合が来るタイミングによって、そこ(各ポジション)に誰が入るか…ということです。ナンバーエイトにはジャックが戻ってきた。パナソニックのいいラグビーを発揮してくれました。齊藤はプレシーズンからユーティリティープレーヤーとして動いていて、今回はスタンドオフ。いくつかプレッシャーを感じるところもあったと思いますが、すべては彼の経験となり、次に繋がる。よかったと思います」

ダイナボアーズ戦で先発SO、73分プレーした齊藤誉哉。©︎JRLO


 試合内容にもらしさがにじんだ。掲げる堅守速攻の看板通りに、ダイナボアーズをノートライに抑えた。

 相手にトライラインを越えさせなかったのは、12月14日、東京・味の素スタジアムで2連覇中の東芝ブレイブルーパス東京を46-0と下した初戦に続き、今季2度目の快挙だ。

 後半27分頃には左端の区画を攻略されたかに見えたが、走者がタッチラインに足をつけていたとビデオ判定で判明。同22分より登場のロック、オッキー・バーナードのカバーリングが効いた。

 攻めては序盤こそミスが重なったが、次第に決定力を高めた。カウンターからの連係攻撃、敵陣ゴール前でのモールをよりどころとした。指揮官はこうだ。

「チームとして働くことで流れを持ってこられた。成長を感じられました」

 日本代表47キャップを持つフッカーの坂手淳史主将も、修正点はあるとしながら前向きだ。

「無理なプレーをしてなかなか流れが来ないなか、ハドル(円陣)を組みながら『まずチームにフォーカスしよう』と。だんだん流れが向いて、前半は劣勢の中でもいい形で終われた(21-3)。後半も守る時間帯が長かったですが、たくさんいいところを見せられた。ディフェンスには自信を持っています。自陣に入られてもパニックにならずにいられています」

試合後の記者会見。金沢篤ヘッドコーチ(左)と坂手淳史主将。(撮影/向 風見也)


 スタンド下の取材エリアに現れたひとりは、左プロップの稲垣啓太だ。

 日本代表53キャップの35歳で、この日は後半10分からフィールドに立った。自らも好タックルを重ねたうえで、理路整然と述べた。

——ご自身の守りについて。

「(プレシーズンの時期に)いろいろと試しながらやっていて、シーズンに入るにあたって自分のディフェンスの形を明確に。今年、大事なものは威力。それを求めてやっていく。1人目のタックルについてはいい。ただ、2人目としてタックルすることに、改善の余地があります。2人目で低く入るのが難しいチャレンジ。1人目と2人目の入るタイミングがずれると、(走者も動くため)方向性が一気に変わるんです。そこをもう少し高めていきたい。ひとりでは難しいですが」

——稲垣選手は「防御に性格が出る」とも仰います。その心は。

「どんな時に性格が出るか。それは抜かれた時です。抜かれた人間は『やってしまった』と思い、(カバーしに)戻ると思います。ただ、その横で(突破された局面に)関与していなかった人間が全速力でオフサイドラインまで戻れるか。ここには性格が出ると思います」

 話の流れで、ライバルを打ち崩すために手を尽くすことこそがラグビーに必要な「リスペクト」の精神だとも訴えた。

「弱点があれば徹底的に突く。それがプロです」

 光ったプレーにはスクラムも挙がる。終始、向こうのパックを苦しめた。

 後半11分頃にはハーフ線付近左で、固いパックを維持していた。

 シンビンによる数的不利があり、7人で組んでいたにもかかわらず、である。

 それぞれがひざを深くため、背筋と芝生とを平行に保つ意図がにじんだ。体重差によって押し込まれるより先に、次の展開へ移った。

 ちょうど最前列で組んでいた稲垣は、こともなげに言う。

「人数が多かろうが、少なかろうが、ちゃんとした手順で、正しい方向に持っていけばプレッシャーはかけられます。確かに人数が少なければ重量的には劣るのかもしれませんが、大切なのは重量ではなく、方向性をどう整えるか。また、その方向性を整えるために自分たちの重心をコントロールする。それだけです。…最後の1~2本で、我々3人(フロントロー)の方向性がばらばらになりました。そこはすぐ、修正できるのかなと」

 OBでワールドカップ経験者の堀江翔太アシスタントコーチのもと、各人の姿勢にこだわる組み方を作り上げている。

意思統一されたワイルドナイツのスクラム。©︎JRLO


——うまく組めている時は、背中のラインがきれいに映ります。意識していることは。

「背中のラインです! …背中のラインがきれいというのは、堀江さんがすごく喜ぶと思います」

——選手時代の堀江さんのコンタクトシチュエーションにも通じるような。

「スクラムも、コンタクトも一緒です。コンタクトの強い姿勢のスクラムが、一番、強いです。また、その姿勢でタックルができれば、威力が出ます。繋がっているんです」

 2025年最後の一戦で白星を掴んだ。2026年はどんな年にしたいか。

「もう、2026年なんですよね」としばし考え、発した。

「あまり先は見ていないです。いつも通り。目の前の1試合、1試合をしっかり取り組んでいきたいです。与えられた役割をグラウンドで示せるようにしたいです。なので、変わらないです。来年もよろしくお願いします」




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