logo
【熱血沸騰! 台灣橄欖球①】『クレイジードクター』杜院長の国際セブンズ、今年も。拓大が3連覇
3連覇の拓大。主催者の杜元坤院長(前列右端)から優勝賞金の目録を受け取る。前列中央は奥田魁主将。(撮影/松本かおり)
2026.01.01
CHECK IT OUT

【熱血沸騰! 台灣橄欖球①】『クレイジードクター』杜院長の国際セブンズ、今年も。拓大が3連覇

田村一博

 ステージに上がり、中央へ歩きながら「ラグビー! ラグビー! ラグビー!」と10回ほど繰り返した。
 声の主は杜元坤(Tu Yuan-Kun/トゥ・ユウェンクン)氏。12月27日、28日と、台湾北部の大都市、台北で『YUAN-KUN CUP TAIPEI SEVENS 2025』(2025台北元坤盃國際大專七人制橄欖球邀請賽)が開催された。
 冒頭のシーンは大会1日目の試合後、「選手之夜」と称しておこなわれた選手全員を招いての食事会でのことだった。

 バンドやキャンペーンガールを招いて、華やかな雰囲気の中で会が進行されていた途中、大会主催者の杜院長の挨拶の時間となった。
 院長と書くのは、杜氏が医師だから。無私無欲の主催者は台北医科大学卒で、同大学ラグビー部の出身だ。現在は義大医院院長、義守大学医学院教授(骨科/整形外科)、元坤運動文創産業公司取締役会長を務めている。

大会1日目の終了後に開催された「選手之夜」で挨拶のため、壇上に立った杜元坤院長。(撮影/松本かおり)

 現在は細身も、台湾代表でプレーした経験もある。65歳。
 選手之夜で壇上に立ち、「ラグビー!」と連呼しつつ右手を突き挙げるアクションを大きくしていくと、会場の学生たちも一緒に声を上げ始めた。最後に院長が「ラグビー! イエーィ」と雄叫びを挙げた時、興奮は最高潮に達した。

 杜院長は、若者たちが気持ちをひとつにして必死にプレーしたり、笑ったり、悔しくても、すぐにまた立ち上がる姿が大好きだ。
 自分も、ラグビー部でそういう青春時代を過ごしたのだろう。だからいま、楕円球を追う若者たちを全力で応援する。台湾ではラグビーは人気スポーツとは言えないが、愛好家たちに夢を与える活動を続けている。

 杜院長はラグビーの世界の外でも尊敬されている。特別な発想と生き方から、尊敬を込めて『クレイジードクター』と呼ばれる。
 その手術法は世界的に有名。医学界に大きな影響を与えた。台湾の離島への医療にも熱心(実際の医療と個人的な寄付を重ねている)。威張らず、優しさを配る生き方を、医学とラグビーの両方で実践している。

「選手之夜」は、お酒なしでも、とことん盛り上がった。(撮影/松本かおり)


 杜院長のラグビー愛は、とても深い。この大学セブンズは今年で6回目。国際大会にして3回目だ。
 海外チームの渡航費の多くと滞在費、台湾国内チームの宿泊費やその他開催費用を合わせると莫大な金額になるが、ラグビーを志す若者のためだ。必要なものを笑顔で用意する。
 国際大学セブンズ大会以外にも、台湾ラグビー界への貢献や寄付は数え切れないほどだ。

 杜院長は初日の開会式で、大会を創設したときの気持ちをそこにいる人たちに伝えた。

「6年前、世界が新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより停止した時、私はこの大会の創設を決めました。60年に渡りラグビーを愛してきた一人の医師として一歩前に踏み出し、ラグビー選手たちが競技と情熱を続けられる舞台を提供しようと決意しました。この大会は、若者たちが勇気、チームワーク、尊重、そして規律を学ぶ場でもあります」

 大会の意義について、「選手たちがプレーする舞台であると同時に、世界を台湾へとつなぐ窓口」とも話した。
「私たちは競技力の向上だけでなく、若者たちが国際的な世界に触れる機会を得られるよう海外チームを招待しています」

 台湾の大学生たちに呼びかけた。
「皆さんに才能や勇気が足りないことはありません。必要なのは、信じてもらい、支えられることだけです。台北市陸上競技場の芝に立ったその瞬間、台湾ラグビーの新しい歴史が始まりました。皆さんは、ただ試合をしているのではありません。台湾は世界に見てもらう価値があると、皆さんが証明するのです」

 大会初日、各チームとも力の限り戦い、その夜の「選手之夜」では、選手たちがチームの枠、国の違いを超えて触れ合った。
 多くの者たちが列車のような隊列を組んで会場内を練り歩くシーンがあった。杜院長の見たかった光景。そして、自らその隊列の中に入っていった。
 それは主催者と参加者の関係ではなかった。同好の仲間たちが大勢いる場所で、その心地よさを心底楽しんでいるように見えた。

杜元坤院長は、いまだ現役。仲間たちと駆けた。(撮影/松本かおり)
スタジアムには記念品の売店も出た。(撮影/松本かおり)


 今大会には日本から拓殖大(以下、拓大)、関西大、名古屋大の3校が参加し、韓国からは延世大とソウル大の2校。タイからチュラロンコン大学もやって来た。
 この6校に台湾国内の10校を加え全16校が出場。力のある8チームを公開組、残りの8校を一般組として、プールステージ→順位決定戦が実施された。

 公開組で頂点に立ったのは一昨年、昨年と連覇中の拓大だった。
 プールステージ初戦の延世大戦は7-7と引き分けた。2戦目の長栄大戦には27-10と勝って2日目に進む。台北医学大に48-19と快勝して準決勝に挑んだ。

 中國文化大にも勝ち、決勝で対峙したのは初戦と同じ、韓国の強豪、延世大だった
 序盤はお互いにミスが目立つ展開。拓大はエリアをとられ、押されるシーンもあった。しかし開始5分、シリベヌシ・トカが先制トライを挙げると流れを引き寄せる。前半終了間際には奥田魁主将もインゴールに入り、12-0としてハーフタイムを迎えた。

 後半に入り、先にトライを許した拓大だったが、その後も攻める姿勢を崩さなかった。
 4分になる頃にサムエル・ウォーターマンのトライで17-7と差を広げると、6分過ぎに再び奥田主将が自陣から快走。22-7とファイナルスコアを刻んだ。フルタイムの笛が吹かれると、グリーンのジャージーが全員駆け寄り、歓喜の輪を作った。

好ゲームとなった決勝の拓大×延世大。写真左上は、拓大シリベヌシ・トカの先制トライ。(撮影/松本かおり)


 決勝前、奥田主将はチームメートに「ラスト1試合を楽しもう。みんなで走り切ろう」と呼びかけてキックオフを待った。
「最初はエリアで負けていましたが、一つのトライを機に、いい流れに持っていけました」と戦いを振り返る。
 同主将は大会MVPにも選出された。

 現在3年生の奥田主将は京都成章高校出身。今大会だけでなく、最上級生となる新シーズンも、チームの先頭に立つ。
 そんな立場だけに、「ここに来ていないメンバーの方が多いのですが、この結果が、そのメンバーにいい影響を与えられるように、日頃の練習から取り組んでいきたい」と話した。新チームは1月13日から練習を始めるそうだ。

 拓大は2025年度、関東大学リーグ戦2部の6位に終わった。どの試合もペナルティが多く、思うような結果を手にできなかった。
 選手たちは今回のセブンズでもペナルティを少なくすることに留意してプレーした。遠藤隆夫監督も台北でのパフォーマンスを見て、「(意識してプレーする)効果は出ている」と話した。

 拓大の前身は台湾協会学校。1900年、台湾の開発に献身する人材の養成を目的に創設された。
 そんな縁があるだけに、この大会への誘いを受けた時は、すぐに参加の意思を伝えた。それ以来、12月の台湾訪問はチームの年間活動にも組み入れられている。

新チームで戦った拓大は3連覇。来季は関東大学リーグ戦1部昇格を狙う。(撮影/松本かおり)

 今回は3年生以下の新チームのメンバーで参戦した。奥田主将は「自分にとっても(リーダーとして)いい経験になる」と話し、「この大会で優勝できれば、チームにも自分自身にも自信になる」と初日に話していた。
 思っていた通りの結果を手に入れて表情を崩した同主将は、地元メディアの取材を受けて、「1年生の時からこの大会に招待してもらっています。今大会はキャプテン。優勝が途切れたらどうしようという気持ちもありましたが、素晴らしい雰囲気の中で勝てて嬉しい」と対応した。

「大会のレベルは年々上がっているように感じました。1日目からまったく油断できず、チームとしても、(多くのことを学ぶ)いい経験ができました。他の国のチームと試合をできるのも、この台湾でのセブンズだけ。本当に、いい機会です」

 新シーズンに向け、「リーグ戦2部で全部勝って1部に昇格したいです。留学生たちもいますが、彼らに頼りすぎず、日本人選手が(相手にとって)脅威になれるように、夏までにフィジカル、スピードを高めたい。今年の結果が悪かったので、(来季は)上位チームとの対戦から始まる。シーズン開幕時には、チームを完璧な状態にしておかないといけないと思っています」と今後の展望を口にした。

 チームには、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、フィジー、トンガからの留学生がいる。それぞれ個性がある。束ねるのは簡単ではない。
 その点についてキャプテンは、「留学生たちはマイペースで、それぞれの国の文化がある。それを尊重しつつ、日本の文化も学んでもらい、お互いをリスペクトしていいチームにしたい」とした。

MVPに選ばれた拓大の奥田魁主将。賞金1万元(約5万円)。(撮影/松本かおり)


 今回の優勝で、チームは20万元(ニュー台湾ドル/約100万円)を得た。遠藤監督は、「選手たちにとっては、滅多にないモチベーションになる」と話した。賞金は、今回の遠征費の一部に充てられるようだ。

 
 杜院長は決勝戦後の閉会式で、「選手、コーチ、レフリー、観客、スタッフの皆様、本当にありがとうございました。2日目は天気にも恵まれて、素晴らしい大会となりました。ラグビーにおいて一番大切なのは諦めないこと。この2日間、みんなが全力を出し、諦めずに戦い続け、仲間と力を合わせる姿を見ることができました」と感謝の気持ちを伝えた。
 大会の最中、主催者が最も多く口にした言葉は「謝謝」だった気がする。




ALL ARTICLES
記事一覧はこちら