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全勝対決は大差がついた。
12月27日、東京・秩父宮ラグビー場。ジャパンラグビーリーグワン1部の第3節があった。昨季準優勝のクボタスピアーズ船橋・東京ベイが、前年度6位で開幕2連勝同士にあたる東京サントリーサンゴリアスを79-20で下した。
終始、接点を制圧し、スペースに球を回し続けた。
右プロップのオペティ・ヘルはチョークタックルと好突進を重ねた。フッカーのマルコム・マークスもターンオーバー、ビッグゲインで光った。
2季目(昨季は短期契約で6試合出場)で、今季初戦からブレイクのフルバック、ショーン・スティーブンソンは、ハイボールの奪い合いで相手の圧を食ってはいた。しかし、豪快なトライや攻守逆転からの走りで存在感を示した。
日本代表でもあるナンバーエイトのマキシ ファウルア主将は、ハーフタイムまでプレーしたこのゲームを前向きに総括した。
「相手は強いとわかっていた。そのなかで準備したものを出せてポジティブです。(事前に)簡単に結果は出させてくれないと(周りに)メッセージを伝え、自分たちから仕掛けた。試合の入りを意識して、いいスタートが切れて、そのままの流れでプレーができた」
この日は接点で球出しを遅らせ、相手がアタックしたそうな方向に分厚い防御ラインを敷くシーンが目立った。マキシは続ける。
「(自軍の)ディフェンスシステムで、(1人の走者にタックラーが)2人で入ることをより意識。それがうまくいき、プレッシャーをかけられた」

ビッグスコアの一戦からの収穫と課題を木田晴斗が語る。身長176センチ、体重90キロの26歳だ。兵庫の宝塚ラグビースクールで競技を始めた頃は極真空手もしていた。年代別の世界王者となったこともある。
関西大倉中、関西大倉高、立命館大を経て2022年にスピアーズ入り。実質1年目の22年度にはベストラインブレイカー賞を得て、今年は度重なる負傷を乗り越えて日本代表デビューを果たしている。
上位国との対戦が続いた秋の代表ツアーへは、コンディション調整のため事前合宿の段階で離脱した。
しかし、12月中旬からの国内シーズン突入後は開幕節以降の2戦で3トライ。この日も持ち場のウイングで先発し、後半8分にダイビングトライを刻んで44-6とした。さらにその前後には左足でのキック、チェイス、空中戦、ラインブレイクと複数の好シーンを作り、ノーサイドの瞬間までフィールドに立った。
スタンド下の取材エリアで、自身のプレーについて応じた。
——わずか2点リードで迎えた前半22分、敵陣10メートル線エリア左でのこと。向こうのミスボールをドリブルし、人と人の間を潜り抜け、20メートルほど先でキャッチしました。かつ、追いすがる守備役をハンドオフで弾きました。チームは約3分後に15-6としました。
「(球を追う際に)焦り過ぎずにできた。間合いの感覚がよくなっているな、と。しっかり加速もできていました。これをタイトなゲームでも(終了間際まで)できるよう、身体のコンディションを整えて頑張っていきたいです」
——22-6とさらに差を広げた31分には、自陣深い位置からのハイパントキックをハーフ線付近左中間でキャッチ。相手フルバックで代表経験者の松島幸太朗選手に、空中で競り勝ちました。
「ちょっと、(サンゴリアス側の)エスコートが邪魔で(妨害に関する)ペナルティかなと思ったんですけど、ギリギリ競れるか、競れんかくらいの距離感やったので、これは競ったほうがいいなと思って跳んだ。うまいこと(相手とボールの間に)身体を入れられた。練習しているところではありますし、よりこれから磨いていきたい。今回は、よかったです」
——後半8分には、左タッチライン際をダイブしてトライ。
「最近、トライできないところもあるので、そこをしっかり決めていけるようにしたいです(約4分前に似た形を阻まれていた)」
——フルバックのスティーブンソン選手の存在も大きいのでは。
「一瞬のスピード、間合いが非常にうまい。僕たちも(サポートに)行きますし、(相手が)フルバックのショーンをマークすると、僕らのところ(大外など)が空いてくることもある。個の能力が高い選手で、安心感もあります」
——スピアーズの組織防御については。
「特に意識とかはないです。とにかく自分たちのディフェンスシステムの通りに動いているだけで」
——それぞれが、こぼれ球もよく拾い、絶えず攻めていた印象です。
「とにかくハードラインのフィジカリティ(ぶつかり合い)で勝っているところが大きい。あとはスペースにボールを運べている。どこのスペースが空いているのかについて、うまいこと判断できているのがいいところかなと思います」
実力者が一枚岩になっている事実を伝えていた。
充実した組織のワンピースとして、「『自分、自分』というより、力を抜いて」を意識する。故障を予防する狙いもあり、局面ごとの出力、脱力のバランスを取る。
「40点差の勝負と僅差の勝負とでは、プレーは変わってくる。もちろん全力ではやるんです。容赦なく。ただ、これは個人としての課題でもあるのですが、そこで怪我をしてしまっては意味がないので」
——きょうは、力の加減もうまくいきましたか。
「そうですね。実際に怪我なく終われました」

各地グラウンドで力走する人気選手は、グラウンド外でもチャレンジングだ。
12月上旬には「Smood(スムード)」というアパレルブランドを立ち上げ、話題を集めている。
——挑戦の経緯は。
「手術(昨季のことか)をして、時間が余って、何をしようかなと思っていました。もともとファッションが好きで、ずっとどこかのタイミングでアパレルをやりたかったので、まぁ、ちょうど(よいタイミング)ですね。僕が好きな海外のスタイルが、あまり日本にはないなぁ、そういう形のものを作りたいなぁと、始めました」
——体格の大きな人がゆったり着られ、かつぶかぶかに見えないスタイル。
「そうですね。シルエットも細かくやって(こだわって)、リラックスできる雰囲気に」
——服を作るとなれば、デザインや業者への発注と様々なタスクが生じます。
「そこはいろいろな人に助けてもらい、ラグビーに負担がかからないようにうまいことやっています。(スタッフは)4~5人。皆の力で回っている感じです」
同僚らがアイテムを着用する様子は、SNSでよく見られる。
12月13日は、兵庫・ノエビアスタジアム神戸で、コベルコ神戸スティーラーズに33-28と勝った。その試合後、相手チームのアーディ・サベア選手にアイテムを渡していた。
こうしたプロモーションの一環としての動きについて聞かれると、やや微笑み、慎ましさを覗かせるのだった。
「いろんな人に渡したいんですけど、やり過ぎもあれなので、うまいことバランスを取りながら。本当は(サンゴリアスのチェスリン・)コルビにもあげたかったですけど、点差もありますし」