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ともに開幕戦に敗れたチーム同士の2戦目。何が何でも勝ちたい試合をものにしたのは豊田自動織機シャトルズ愛知だった。
12月21日、雨のヤンマースタジアム長居でホストチームのレッドハリケーンズ大阪を49-6と圧倒した(リーグワン ディビジョン2)。
徳野洋一ヘッドコーチが「前半20分過ぎまでほぼパーフェクト」と言った立ち上がり。シャトルズは前半25分までに3トライを挙げ、21-3とリードした。
チームを走らせるモメンタムを作ったのがSH末拓実(すえ・たくみ)だった。後半7分に湯本睦との入替でピッチの外に出るも、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選出された。
この日の末は、自ら動く、周囲を動かす、その判断が良かった。
先制トライを挙げたのは前半5分。PK後のラインアウトからモールを組み、攻めた。背番号9はFWをうまく使ってチームをトライライン近くまで進める。そして6フェーズ目、防御にできたギャップを自分で走って最初の5点を刻んだ。

同24分にSOジェームズ・モレンツェが挙げたトライは、末のキックを追い、そのまま走り切ったものだった。
中盤での攻防の途中、27歳のSHはラックから出たボールを相手の防御の裏に蹴る。広い視野。そして好判断。連係も取れていた。
後半が始まってすぐ、入替でピッチの外に出る少し前の4分にもトライを挙げた。
相手ゴール前のラインアウトからモールを組んだ後、ショートサイドにボールを持ち出したHO大山卓真からのパスを受け、インゴールにボールを置いた。
ヘッドコーチは試合後の会見で、「天候(雨)と相手からのプレッシャーがきつい中で、前半、しっかりとゲームをコントロールしてくれた」と、この日の末の働きを高く評価した。
さらに、「そのお陰で(後半途中からSHに入った)湯本もアグレッシブにプレーできた」と続けた。
末本人もこの日のパフォーマンスを、「反省するところはありましたが、自分らしい強気なプレーができた」と振り返った。
トライについては「自分の力だけではなく、チームで準備してきたことを遂行した結果」とした。
自身が直接的に絡んだ得点機を振り返れば、一つひとつのシーンに判断の根拠があった。
「バックスからの声に反応してパスを出そうとしたら、ギャップが見えたので走りました」と先制トライを説明する。
モレンツェのトライを呼んだキックについては、「日頃から、いいコミュニケーションが取れています。きょうも」。僅かな時間にも、意思疎通があったようだ。
「後半のモールからのトライは、あそこにスペースがあると分かっていたので、2番(HO)の選手と、チャンスがあればいくぞ、と話していました」
悪天候の中で、準備してきたことを遂行できたから完勝できた。

開幕戦の敗戦後チームは、修正というより、「自分たちのスタイルを取り戻そう」(末)の方向性で注力したようだ。
キックでエリアを取ろう。敵陣に入ったら、スコアして自陣へ戻ろう。そのためにはどうすべきか全員で同じ絵を見てプレーすることに集中した。
昨年までSOの位置でチームをドライブしたフレディー・バーンズが退団した。大きな痛手であることは間違いないが、その分、全員にレベルアップする意識が芽生えた。結果、それがチームを成長させるエナジーとなった。
徳野ヘッドコーチもプレシーズンマッチを戦い、「攻め手が増えた」と感じていた。
末は昨季6試合に出場も、先発は1試合だけ。決して満足できるシーズンではなかった。特に前半はポジション争いの中でプレータイムが得られず悔しい思いをした。
ただ、下を向くことはなかった。「近鉄に移籍された藤原(恵太)さんや湯本さんをはじめ、他の同じポジションの選手のいいところを学んだり、ゲームを見つめたり、そういったことが成長につながったと思います」
今季開幕前のプレシーズンマッチも、ハーフバックスの選手たちと密にコミュニケーションを取ることに力を入れた。それをゲームコントロールに生かした。
首脳陣は、そういう点も評価してくれたのだろう。開幕からのスターターとしての起用は、その結果だ。
長崎・佐世保の、ゆのきラグビースクールに入ったのは4歳のとき。三和中、長崎北陽台高校を経て帝京大に進学した。
1年生時から試合への出場機会を得て、2017年1月9日におこなわれた全国大学選手権の決勝に途中出場。33-26と東海大を破り、8年連続大学日本一の感激をピッチの上で体感した(チームは翌年度まで9連覇)。
その後、大学時代は頂点に立てず。4年時は全国大学選手権の3回戦で流経大に39-43と敗れている。
2020年3月に卒業。4月からシャトルズの一員となり、初年度から出場機会を得るも、2年目の途中に右膝の前十字靭帯を断裂してピッチを離れなければいけない時期もあった。そんな辛さも経験しているから、周囲に感謝しながら生きる。

自分の武器を強気なアタックと言いながらも、「経験のある湯本さんがいてくれる。その安心感があるから、僕は前半から思い切ってプレーできる」と一人では戦っていない。
レッドハリケーンズ戦で見せた、大勝を呼ぶスタートダッシュは、その言葉通りのものだった。
姉・結希(ゆうき)さんは現在、三重パールズに所属しており、女子日本代表14キャップ、サクラセブンズでも7キャップを持つ人。お互いの試合を観戦するために行き来するなど仲良く刺激し合っている。
レッドハリケーンズの日は姉も女子関西大会決勝(対日本経済大/59-6で勝利)の試合があり、それぞれが所属チームで輝いた。
こんな良き日を、これからも増やしていきたい。
新加入でオーストラリア代表キャップ30を持つノア・ロレシオは現在、試合出場可能のコンディションに近づきつつある。
末の強気がさらに引き出され、チームがより攻撃的になる新年がイメージできる。