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4年生の秋に初めての9番。「ひとりではやれなかった」。佐々木健人[東洋大]
佐々木健人は2004年3月12日生まれの21歳。160センチ、67キロ。美幌ラグビー少年団→札幌山の手高校→東洋大総合情報学部4年。(撮影/松本かおり)

4年生の秋に初めての9番。「ひとりではやれなかった」。佐々木健人[東洋大]

田村一博

 長く、いちばん近くにいる仲間は「うまくいかない時でも絶対に下を見ず、前へ行こうとする人」と言った。
 佐々木健人の人柄は、その言葉に詰まっている。

 東洋大ラグビー部の寮長を務めている。160センチのスクラムハーフは4年生の秋になって初めて、関東大学リーグ戦1部の試合で9番のジャージーを着た。

 これまでも関東大学春季大会では9番のジャージーを着たことがある。しかし、試合メンバーに入った時の多くは21番。背中の数字が初めて一桁になったのは今季5戦目の東海大戦からだった。以来、リーグ戦最終戦の大東大戦まで3戦続けて先発でピッチに立った。

 札幌山の手高校出身。冒頭の言葉は、高校時代からのチームメートで現在は東洋大のキャプテンを務めるステファン・ヴァハフォラウのものだ。
 佐々木が先発した直近の3試合ではNO8とSHの関係で共に戦った。高校時代までは、佐々木が9番でヴァハフォラウが10番だった。

佐々木は大学卒業後はトップイーストリーグでプレーを続ける予定。(撮影/松本かおり)


 高校時代もいまも、ふたりとも寮に暮らしている。両選手揃って「兄弟みたいなもの」と言うのは、札幌山の手高校に学んでいる頃、まとまった部活の休みの際、ヴァハフォラウは佐々木の美幌町(北海道東部)の実家にホームステイのような形でお世話になっていた。

 そんな背景があるからヴァハフォラウは、「一番近いところで佐々木の努力を見てきました。(彼は)強い。諦めずに、ずっとチャレンジする人。うまくいかなくても絶対に下を見ない。前へ行こうとする。いまも寮長としていろんな仕事がありますが、それも含めて、いいリーダーとしてグラウンド内外でちゃんとしています」と話す。

 佐々木が高校時代の思い出を語る。
「オフの時、(美幌での)自分は休もうかな、と思う時もあったんです。でもステファンは筋トレをしたり走ったりする。負けていちゃだめだ、という気持ちになりました。言葉ではなく、行動で見せてくれるので、『自分もやらなきゃ』って、いい刺激をもらっていました」

 普段の生活だけでなく、9番と10番、いまは8番と9番と、ポジションも近いから、お互いに考えていることが分かる。「短い言葉で考えが伝わるんですよ」と話す佐々木の頬が緩んだ。

東洋大キャプテンで佐々木の高校時代からのチームメート、ステファン・ヴァハフォラウ主将。「ステファンとは高校時代からいつもラグビーの話をしていました。気持ちが折れそうな時も声をかけてくれて、すごく自分のことを見ていてくれた。だから、しんどいな、と思う時もやってこれた。自分だけの力じゃなくて、仲間の力もあるからやってこれました」。(撮影/松本かおり)


 11月30日の関東大学リーグ戦1部での今季最終戦。東洋大は大東大戦に34-12と勝利し、東海大に続くリーグ2位の座を確保した。
 その試合で80分プレーした佐々木は、「前半はしっかり流れをつかみ、自分たちのペースでやれていたと思いますが、後半、コミュニケーションがなくなったり、結果、ミスが増えてしまいました。しんどい時、疲れた時こそコミュニケーションをとらないといけない。小さなこと、凡事徹底できていたら、最後までいいゲームを続けられたかなと思います」と反省し、チーム力をさらに高めたいとした。
 先発での試合出場を重ね、もともと強い責任感がさらに増している。

 福永昇三監督が「常に一生懸命で、東洋大を象徴するような、練習量が多い選手。寮長も務めていて献身的。チームのために、という思いが強い選手」と評価する佐々木は、なかなか先発で試合に出られない時期のことを思い出して言う。

「2年生の頃からリザーブには入っていましたが、先発の機会がなかなかなくて、『自分は何がダメなんだろう』と考えました。悔しい思いもしましたが、そこで投げやりにならず、ただ出たいという気持ちだけでなく、『自分が(先発メンバーに)入ったとしたら試合をどう組み立よう』とか、練習の時から考えるようにしました」

「テンポを上げたり、落としたり、ゲームの流れを読んでプレーするのも持ち味です」。(撮影/松本かおり)


 自分の強みを見つめ直した。
「運動量とテンポの作り方、と思っています。ただはやくプレーするだけでなく、リズムを上げたり、落としたりできる。そこが自分の強みと思い、練習から意識しています」

 2024年度シーズンの途中から今季開幕からの4戦目まで、2学年下の生田旭が9番のジャージーを着てきた。
「試合になったらもちろん生田を全力で応援するのですが、試合メンバーが決まる前の練習までは、自分が試合に出たい気持ちを強く持っていました。『生田の(出ている)時とは違う展開を作れるなら出られるかな』って思い、フィットネスの練習量を増やしたり、練習からテンポを上げたり、コミュニケーション量を増やしたりしました」

 現在、怪我からの復帰途中にある生田のことを気遣い、今季のクライマックスに向け、「9番だろうと21番だろうと全力でやりたいです」と強く思う。
「グラウンドに立つ時は出し惜しみすることなく、全力でプレーします。自分の強みは全力で泥臭いプレーをやることなので」
 全国大学選手権の初戦は12月14日の帝京大戦。4年続けて大学日本一の座に就いている強大な相手にすべてをぶつける。

 寮長として部内の空気を引き締めることも、自分に求められている重要な役目。「試合の結果がいい時にチームの気が緩むことがあるので、そういうところに気をつけないといけない」と気を引き締める。

関東大学リーグ戦2位で全国大学選手権に挑む東洋大。【写真左上】森山海宇オスティン【写真左下】中山二千翔【写真右】ボールを持つのはHO小泉柊人。(撮影/松本かおり)


「私生活から凡事徹底しています。インフルエンザ対策で手洗いの徹底や黙食、黙浴の時間を作ったり。4年生やリーダー陣に細かいルールを伝え、誰かが感染してもそれが広がらないようにするのも大事です」
 寮の周囲のゴミ拾いや落ち葉拾いにも取り組む。「自分が緩むとチームも緩む」といつも気を張って、言いにくいことも言う。
「相手が嫌な気持ちにならないように気をつけています」と気も配っている。

 フィールドの内外でフル回転の毎日を前向きに過ごせているのは、「仲間や家族の支えがあるから」と言う表情が柔らかかった。
 初めて9番のジャージーを着ることになった試合前、実家に連絡する時に涙がこぼれそうになった。
「何度も心が折れそうになった時に、頑張れ、と。なかなか会えませんが、そういう言葉に支えられたので」

 ラグビーをしていると、支え、支えられて生きていることを強く感じる。最後の最後まで、いろんな人とつながって戦い抜く。







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