3万9084人が詰めかけた国立競技場は何度も沸いた。
早大は前半18分にエースのFB矢崎由高が先制トライを挙げ、明大は3トライのうち2トライをFWでゴール前に迫り、背番号6の最上太尊(もがみ・たいそん)がボールをトライラインの向こう側に置いた。
12月7日におこなわれた関東大学対抗戦Aの今季最終戦、早大×明大は、25-19で明大が勝った。
その結果、明大は5年ぶりに対抗戦Aの優勝となり、敗れた早大は3位となった(他に2位の筑波大、4位の帝京大、5位の慶大が全国大学選手権に出場)。
また、今回が101回目だった両校の通算成績は明大の43勝、早大の56勝、2引き分けとなった。

勝った明大は、FWとディフェンスで強みを発揮して勝利を得た。
前半18分、早大にラインアウトから攻められ、BKのアタックからFB矢崎を止められず走り切られたものの、許したトライはその1つだけ。早大BKに振り回されて崩されかけたり、自陣深い位置まで攻め込まれるも、よく粘った。
プライドを持つスクラムこそ思うように組めず、そこで圧力をかけることはできなかった。
しかし、FWが何度でも接点に前に出て、ゴール前へ行けば攻め切る力を出した。BKではSO伊藤龍之介がうまくゲームを作り、防御ラインもよく前に出た。CTB平翔太主将も2G2PGと安定感があった。
前半31分、FL最上のトライ、CTB平のGで10-10とした明大は、後半の立ち上がりに早大に攻め込まれ、FB矢崎にインゴールに入られるもオブストラクションでピンチを逃れた。
そしてその直後、早大陣でSO服部亮太のキックをPR田代大介がチャージ。弾んだボールをCTB東海隼がつかみ、トライとしたのが大きかった(15-10)。


明大・平主将が1PG、早大・野中健吾主将が2PGを決めて18-16となって迎えた後半26分あたりから、紫紺のジャージーは早大陣深くに入った。
PGを決められた後のリスタートのキックオフ後、明大はしばらく敵陣で過ごす。相手SO服部に精一杯の圧力をかけ続けたことが実った。
後半27分過ぎにFB古賀龍人がパスをファンブルしながらもボールを保持し続け、インゴールに持ち込んだプレーはレフリーのホイッスルが鳴り、認められなかったものの、31分には最上がトライを奪って(ゴールも決まり)25-16とした。
ラインアウト後のモールをそのまま押し込むことはできなかったが、最上はすぐに左にボールを持ち出して腕を伸ばし、試合を決定づける5点を追加した。
早大は後半35分にPGを決めてスコアを6点差に詰めるも、最後の猛攻も届かなかった。
1G4PGと14得点を挙げるも勝利できなかった野中主将は試合後、「負けてしまいましたが、(シーズンは)まだ終わっていないので、残り(の大学選手権の試合)を勝つだけ。荒ぶるまで一戦一戦、チーム一丸となって戦っていきたい」と悔しさを飲み込んだ。
大田尾竜彦監督は、春季大会で12-45と敗れたところから差を詰めた選手たちを「よく戦った。成長を感じた」と称え、伍すことができた理由を「スクラムの安定とブレイクダウン(の激しさ)」とした。
その一方で、「やや硬いゲームになってしまった」とした。


キックの蹴り合いに付き合うシーンが少なくなかったことに理解は示すも、「判断の中で、いけるところはもう少し思い切って、大胆に攻めてもよかった。ハーフタイムでは(後半はもっと)強気に、と指示しました」と話した。
『たられば』の話と前置きした上で、「トライを取り切っていたら、というシーンはいくつもありました。そこまで(崩しかけてトライ寸前というシーンを何度か作れる力はついている状態に)はきている。(この先は)そういったシーンの回数をいかに増やせるか。スクラムもラインアウトもよくやっているので、そこをベースにもっとアグレッシブなゲームをしていきたい」と、大学選手権に向けての展望を口にした。
明大の平主将は、「1週間チーム全員で準備してきたことを体現できてよかった。ただ(目指すところへの)通過点。切り替えて、選手権、日本一に向けて頑張っていきたい」と落ち着いていた。
後半27分過ぎのFB古賀のトライが認められなかったシーンについては、「レフリーに確認したところ、あれは本当はトライ、と」と明かし、会見場の空気を和ませた。
リーグワンでは試合中に何度もあるTMO(テレビ・マッチ・オフィシャル)での確認に「またかよ」と思うファンも、この日はTMOがあれば……と感じたことも多かったかもしれない。
しかし、結果的に勝ったから笑顔で「あれは本当は〜」と言えるにせよ、学生ラグビーは大らかでいいな、と感じるやりとりだった。

2トライを挙げたFL最上は、前半31分にFWで攻め込み、最後に自分が防御に割って入って挙げたトライについて、「(全員で)一丸となって取れたトライなので、チームのトライだと思っています」と振り返った。
後半に腕を伸ばして決めたトライについては(31分)、「いけると思って(前へ)出ました。取り切る気持ちでした」とした。
10-10で迎えたハーフタイム、ロッカールームで「絶対に勝つと信じて、自分たちがやってきたことをやり切ろう」と話したという。
相手がPGを重ねて追ってきても、「最後に自分たちが1点でも上回っていればいいんだ」と落ち着いてプレーし続けた。
父がボクシングの元ヘビー級世界王者、マイク・タイソンが好きだったことで、太尊(たいそん)と名付けられた。
秋田の出身。小1から小6まで相撲に打ち込み、小4時には県の王者にもなった。将軍野中でラグビーを始め、仙台育英を経て明大ラグビー部の一員となった。

以前はボールキャリーの強さを前面に出すプレーヤーだった。しかし、神鳥裕之監督は、「高校時代は相手を吹っ飛ばすプレーをしていました。しかし大学に入ってオフ・ザ・ボールの動きを高める努力を重ねてくれた。今日も(相手SOの)服部くんに対してキックプレッシャーをかけていました。献身的な努力がきょうのトライにもつながったと思います」と愛でた。
本人もフィジカルだけで勝負するのではなく、ボールを手にしていない時の動きを意識するようになったことでプレーの幅が広がったと感じている。
4年生。紫紺のジャージーで頂点に立って卒業したい。「(21-17と勝った)帝京大戦に続いていいクォリティを出せた」という早明戦での勝利により、「フォワードで取り切れる自信をあらためて得られた」と充実を感じている。
初戦の筑波大戦に敗れ、始まった今シーズン。「何度もミーティングを重ねました。それで、どんな展開にも対応できるようになった」と手応えがある。
残り1か月。「明治が一番大事にしているプライド」と言い切る「前へ」を貫くつもりでいる。

