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【トップイーストリーグB】優勝に王手。黒須夏樹ヘッドコーチ(横河武蔵野アトラスターズ)に聞く。
PROFILE◎くろす・なつき。スイス生まれカナダ育ちの47歳。黒須夏樹氏は、三洋電機ワイルドナイツ(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)、横河武蔵野アトラスターズでプレーした元トップリーガー。ポジション=FL/NO8。選手引退後も指導者として活躍の場を広げている。日本代表アシスタントコーチ(2017年)、世界選抜アシスタントコーチ(2019年)のほか数々の実績を経て、2025年から横河武蔵野で采配を振る。U17カナダ代表(1995年)、U19カナダ代表(1997年)、カナダ・BC州代表(1999年)、関東代表(2002年)。(撮影/山形美弥子)

【トップイーストリーグB】優勝に王手。黒須夏樹ヘッドコーチ(横河武蔵野アトラスターズ)に聞く。

山形美弥子

 横河武蔵野アトラスターズが11月30日、本拠地(東京・武蔵野市)で迎えた秋田ノーザンブレッツとの大一番を48-14で制し、トップイースト2025 Bグループ優勝に王手をかけた。
 アトラスターズの今季の成績は6勝1敗、勝ち点28となり、残す1試合、12月7日の大塚刷毛戦に勝利すればBグループ制覇となる。

 2025年の横河武蔵野は、もともと評判のよかったFW陣のクオリティがさらに上がり、それを引っ張り上げるようにキャプテンの衣川翔大(SO/CTB/FB)が獅子奮迅。BK陣のオフェンスの勢いが、覚醒の兆しを見せている。

 まだまだ我慢して、粘り強く戦わなければならない時期だが、20代半ばの若手選手が多く、勢いに乗ると止まらないのが特徴のひとつ。クラブリーダー熊谷幸介を中心に、「若手がベテラン勢に食らいついて戦い抜く」という、しっかりとしたスタイルが定着している。若手を主体に、今後いかようにも進化していけるところも、大きな魅力だ。

今季クラブリーダーを任せられた熊谷幸介(くまがい・こうすけ)。ポジションはLO/FL。生まれも育ちも武蔵野市の26歳。「僕らには、武蔵野市を代表するトップアスリート集団だという矜持があります。残り15分のキツイ時間帯に、僕が激しいタックルに行けるのは、降格しても応援し続けてくださるファンの存在があるからです。これまでがっかりさせてしまった分、優勝という結果でもって笑顔にしたいです」。保善高校→日大→鹿児島甲南クラブ→横河武蔵野(2023年5月〜)。(撮影/山形美弥子)


 前身となる「横河電機ラグビー部」の始まりは、終戦直後の1946年。
 2007年度、トップイースト11で全勝優勝を果たし、トップチャレンジへ出場。1勝1敗で2位となり、初のトップリーグ昇格を果たした。翌2008年、トップリーグ規約に則り、チームの正式名称を現在の「横河武蔵野アトラスターズ」に変えた。2016年の創部70周年には、企業の社会人チームから地域クラブチームへの転換を発表し、翌2017年にクラブチーム化を実行した。

 昨シーズン、降格した。2026年の創部80周年を控え、まさかの一大事が起きてしまった。それ以来、さまざまな面で立て直しを図っている。実績のある選手・コーチを集めて戦力を高め、広報活動にもテコ入れして奮起を促した。

 首脳陣スクラムの前一列は、荒川治ゼネラルマネージャーと黒須夏樹ヘッドコーチだ。
 チームの黄金期を築いた、選手OBの二人。経験に裏打ちされた落ち着きが、選手たちに安心感を与えているようだ。そこに二人がいる。その存在自体が、選手のやる気やチームの雰囲気を底上げしているように感じられる。

 首脳陣スクラムのバックファイブとなる有志たちは、佐藤明善広報イベント担当、高島大地チームアドバイザーを筆頭に、竹中淳FWコーチ、森洋三郎&坂野歩BKコーチ、髙田美弦&中野喬章&菅野千尋S&Cコーチ、関口純裕&島貫悠紀メディカルトレーナーだ。

 黒須HCは1978年生まれの47歳。三洋電機ワイルドナイツ(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)、横河武蔵野アトラスターズでプレーした元トップリーガーだ。現役時代はFL/NO8として活躍した。
 
 選手引退後も、指導者として活躍の場を広げている。2017年に日本代表アシスタントコーチ(アジアラグビーチャンピオンシップ)、2019年に世界選抜アシスタントコーチのほか、リーグワンにおいても日野自動車レッドドルフィンズ、清水建設江東ブルーシャークス、三菱重工相模原ダイナボアーズでの実績を経て、今年6月から横河武蔵野に合流し、よき采配を振るっている。

 カナダ育ちの黒須HCは、ワールドワイドな経歴の持ち主だ。ブレントウッド・カレッジ・スクール在学中に、U17カナダ代表、U19カナダ代表に選出された。類まれなストーリーを持っている。

 「ビザの関係でヨーロッパ遠征には行けませんでした」と明かしてくれた。

「東海大に1年在籍していた時に、カナダU19の監督がカナダ代表のスタッフになり、カナダ代表にチャンスがあると言われ、大学を退学しカナダ代表に挑戦しました。結果はブリティッシュコロンビア代表というカナダ代表に最も近いところ止まりでした」

 その後、三洋電機ワイルドナイツに入団した。翌年には関東代表に選出され、オーストラリア遠征に参加した。

 2007年12月24日、秩父宮。
 横河電機ラグビー部(現・横河武蔵野アトラスターズ)はこの日、NTTコミュニケーションズとのトップイースト11最終戦を29-18の完全勝利で締め括り、喝采を浴びていた。ワイルドナイツから横河電機へ移籍して2年目の黒須は、先発FLとして出場した。前半38分にファイブポインターとなっている。

正確性とスピードを兼ね備えた美しいボール捌きで魅せる平尾幸也(ひらお・こうや)。生まれも育ちも福岡県久留米の33歳。帝京大→JR九州→Southern Rugby Football Club→横河武蔵野(2021年4月〜)。2020年 (当時27歳)、NZダニーデンへラグビー留学し、プレミアリーグでプレーした。「パスの投げ方に関しては、いろんな選手の投げ方の動画をひたすらスローで見ながら、肘の形や体重移動の仕方、野球選手の投げ方も研究しました。留学に行って帰国して、今の形に辿り着きました」。(撮影/山形美弥子)


 黒須さんは、HCに着任した当初、チームの状態を見て、「ディフェンスに改善が必要と感じた」という。「セットプレーからの3フェーズ以内の失点と、フェーズプレー中にディフェンスの真ん中をラインブレイクされる点、そしてトランジションからの失点の、3点。あとは、後半のワークレートです」。

 それを立て直すために、まずは選手たちにディフェンスの立ち位置を提示し、それぞれの役割を理解してもらったそうだ。体力面は、走り込みとトランジションを交えたボールゲームで、体力作りとボールを失ったときのリアクションに注力した。

 その効果は、着実に、結果として表れている。

「セットプレーから3フェーズ守り切る力は、スタッツにも表れています。春先は80パーセントだったものが、シーズンでは90パーセントの成功率になりました。課題と成果を、毎回のゲームごとに個人にフィードバックしています。そうすることによって、モチベーションをあげてもらえたらと思っています」

秩父宮を舞台にキレのあるランを披露する古里樹希(ふるさと・じゅき)。福岡県宗像生まれの25歳。東福岡→専修大→横河武蔵野(2023年4月〜)。昨年の前十字断裂から完全復活を遂げた15番は、チャンスメイクに磨きをかけた。東福岡OBで先輩の古賀由教(リコーブラックラムズ東京)の『失点は全てFBの責任』という教えを胸に、今シーズンは攻守ともに躍動。「失点を最小限に減らせるように、自分が抜かれたらトライを取られるという心構えでコンタクトプレーは責任を持っています」。(撮影/山形美弥子)


 アトラスターズは、完全なアマチュアチーム。それでも、「選手たちの取り組む姿勢は正直に言って“プロ以上”です」と続けた。

「選手たちは社業を持ち、家庭を持ち、時間の制約の中でプレーしています。仕事の都合で練習に来られない選手、遅れて参加しなければならない選手もいます。それでも彼らは限られた時間をやりくりし、休日など本来休むべき時間すら返上して、チームのために全力で取り組んでくれています。家庭を持ちながら、休む間もなく努力を続ける姿は、本当に頭が下がる思いです」

 リーグ戦を通して、「選手の一人ひとりが、毎週、成長している」と感じる。
 いま選手たちに伝えたいことは、優勝が懸かる一戦、そしてその先にある入替戦は、最後の最後に“自分自身を信じ切れるかどうか”が勝敗を決めるということ。

「就任当初、彼らは自分たちの力に確信を持てていませんでした。しかし、タフな試合を勝ち抜くたびに、少しずつ自信を積み重ね、いまでは胸を張って“自分たちは勝てる”と信じられるチームに変わってきました。努力してきた仲間と共に、自信を持って戦って欲しい。私自身、アトラスターズは必ず目標を達成すると確信しています」

 優勝に王手をかけたことで、自信を掴み、さらに力を出す選手もいるだろう。厳しい競争を勝ち抜いて、最終節、入替戦の舞台に立つ、選ばれし選手たちには、余すことなく力を発揮してほしい。

チーム一番のフィジカルモンスター越高梁(こしたか・りょう)。171cm、90kgの24歳。秋田工業→流経大→横河武蔵野(2023年4月〜)。FLというポジションにおいてサイズは決して大柄な部類とは言えない。しかし、ピッチでは巨人が暴れているかのようだ。学生時代からハードタックラーとして名を馳せ、その凄まじい爆発力は常識を凌駕する。「自分がほかの人と違うのは、コンタクトが好きで、頭のネジを外すのが得意だということだと思います」。(撮影/山形美弥子)





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