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【日本代表欧州4連戦を追っかける/DIARY⑱・最終回】ジョージア戦3日前のエディーとの会話。帰国会見でのぶ然と驚き。
若手フッカーの練習に付き合うエディー・ジョーンズ ヘッドコーチ。トビリシにて。(撮影/松本かおり)
2025.11.29
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【日本代表欧州4連戦を追っかける/DIARY⑱・最終回】ジョージア戦3日前のエディーとの会話。帰国会見でのぶ然と驚き。

田村一博

 ロンドン、ダブリン、カーディフ、トビリシに滞在し、25日間のツアーとなった今回の同行取材。トビリシ以外は物価が高く、いつものような食生活は無理だったから、帰国前から痩せた感覚はあった。

 帰国後、こっそり体重計にのると出発前より約3キロ減っていた。ズボンのベルトも2つほど縮まった。
 しかし、すぐに日本の飲食は金額、味とも最高、と強く感じる日々が訪れ、瞬く間に元どおりの体に戻りつつある。

 欧州での日々を振り返ると、このツアーリポートに書いていないものがあった。
 ジョージア戦の3日前、トレーニングを終えた直後のエディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(以下、HC)と話をする機会があった。
 その内容と、ツアー終了直後に羽田空港で開かれた、帰国会見のメモを記しておきたい。

 ジョージア戦3日前の11月19日の取材は、トビリシ市街からバスで約45分のところにある、ジョージアラグビーの強化拠点での練習後だった。
 ジョーンズHCはチームの全体練習後、若手HOの平生翔大、佐川奨茉の個人練習に付き合っていた。それを終えた後のピッチサイドで話した。

 2024年に就任。1試合を残し、チームと2季を過ごした時点での日本代表の成長具合についてジョーンズHCは「今回のツアーですごく成長しました。チームは前へ進んでいると思います。フィジー、 オーストラリア、ウェールズにも(最後をうまく戦えれば)勝てるところまで持っていけた。去年だったら、そうはできなかった」と話し、次のステップとして、「これからは、そういう試合を勝っていけるようにする」とした。

 成長の手応えを得ている理由を、「ジャパンがどういうスタイルでプレーをしたいか、目に見えて分かるようになっていると思う。いいゲームができている」とした。
「しかし、それではだめ。勝たないと。テストマッチは勝ってなんぼ、です」

トビリシのグラウンドで語るジョーンズHC。(撮影/松本かおり)


 結果がすべてのテストマッチを若い選手で戦う。あえて厳しい道を選ぶのはなぜか。

「ベストな選手を選んでいるだけです。経験のある(中でベストコンディションの)選手、ここ(いまのジャパンに)に入るべき選手、(ピックアップの過程で)取りこぼしている選手はいないと思っています。 その状況の中で(ウェールズ戦の)8 人のフィニッシャーで34キャップという構成でしたが、スターティングメンバーには20 キャップぐらいの選手たちが多くなってきた。その選手たちが(2027年の)ワールドカップの時には30キャップ、35キャップになっている。経験値の高いチームを構築していけていると思います」

 選考はヘッドコーチの権限。自分なりの視点で自由に選んでよい。
 それを大前提にしても、リーグワンであまり出場機会のない選手たちを多く選んでいるのはなぜか。試合以外でもプレーを見る機会を作ったり、学生時代から目をつけていたのか。
 例えばLO山本秀は、U23代表とブラックラムズの練習試合中に発見している。

 リーグワンももちろん見ている。しかし、テストマッチレベルでも戦えるかどうかは別。「JAPAN XVなどの試合を通して、次のレベルに誰が行けるのか、(次へ)行く気持ちがあるのかを見ています」。
 自分だから選び、見込み通りに活躍した選手として、サイズの小さな石田吉平、(昨季のリーグワンでは出場機会が限られていた←抜けていました)竹内柊平の名を挙げた。

 2025年の日本代表活動のスタート時には目指すレベルの到達点を山に例え、「まだ麓、ベースキャンプにいる」と自分たちの現在地を話した。
 そのチームが、いまいる場所はどのあたりなのか。
「テストマッチに勝てばキャンプ2まで行った。そうでなければ、まだベースキャンプ。みなさんはそう言うと思いますが、チームは今年、確実に成長を遂げています。このツアーにしても(離脱者が多く出てしまい)選手たちの数は限られていますが(最終戦に向けて、チームの力を落とさぬように)誰もが必死にトレーニングに取り組んでいます。すごい熱意で。それ以上のものは求められないぐらいやっている」
 選手たちのそんな姿勢こそ、チームの進化と考えている。

【写真左上】南アフリカ戦のWTB長田智希。【写真右上】アイルランド戦のWTB石田吉平【写真左下】ウェールズ戦のSO李承信。【写真右下】ジョージア戦のPR小林賢太。(撮影/松本かおり)

◆日本ラグビーへの特別な思い。


 ツアー中の日々を見つめていて感じたのが、練習でのハードワークがそのまま試合に反映されていることだ。繰り返しアンストラクチャーの状況を作るトレーニングの中で、ガツガツ体をぶつけ合う。
 そこで育まれるのは、超速ラグビーのベースとなるもの。ブレイクダウンでのクイックな球出し、アタックシェイプの連続的な構築、ディフェンス時のチーム&個々のゴールドエフォートを実現する動き。ウェールズとの一戦では、ほぼそれだけで相手をヘトヘトにさせた。
 ただ、南アフリカにはまったく通用せず、アイルランドには途中までしか戦えなかったから、「もっとハードにやらないといけない」。

「(最後の最後に逆転された)ウェールズ戦のような展開で勝ち切るため。大事なところ(いちばんきつい時間帯)で仕留められるように、ハードワークをしないと。そのためには、そういう状況を想定した練習を繰り返すしかない。きょうも20分の間にボールを3回ドロップした。それをなくさないといけない」

 ツアー中、メディアにはトレーニングの多くが公開された。その中では、相手を崩す仕掛けに割く時間はほとんどなく、土台を強固にする時間が続いた。

 日本代表ヘッドコーチのポジションは、ジョーンズHCにとっては仕事以上のものに感じる。
 その情熱の原点を、「日本ラグビーにはお世話になった。その恩返しをしたい」と言った。

「(2023年ワールドカップ後も)オーストラリア(ラグビー協会)との契約はありました。しかし、日本に戻ってこられるチャンス、機会があった。ジャパンでやりたい、恩返ししたい気持ちで決めました。私が去る時には日本に、サステナブル、持続性のあるラグビー(の構造、スタイルの確立、強化方針・システムの構築)を残したい。それを実現させるために情熱を注いでいます」

※ジョーンズHCと日本ラグビーとの関わりの最初は1995年。同年3月に東海大がオーストラリア遠征へ。その時、ランドウィッククラブの紹介でエディーが指導をすることに。それがきっかけとなり、同年、青森と菅平での夏合宿にも招待されて約1か月、日本に滞在した。

 その指導の下、日本代表に選ばれている若い選手たちが力を伸ばしている事実がある。
 しかし2年後のW杯を視野に入れ、再度世界の舞台に出ようと準備を進める実績ある選手たちもいる。その選手たちの存在は、どう見えているのか。

「ドアは閉じていません。まず、リーグワンで高いパフォーマンスを見たい。(37歳でも)リーチを選ぶのには理由がある。彼は常にどん欲な姿勢を見せ、すべてのテストマッチで、それが(代表での)最後の試合だというぐらいにハードにプレーします。それぐらいのアチチュードで取り組んでいる選手は選びます」

「リーチには選ばれる理由がある」。(撮影/松本かおり)


 そのリーチが先の南アフリカ戦を経て、世界のトップには何も通じなかったと体感を話した。リーグワンで感じる強度との大きな違いについても。代表選手がその環境でプレーする中で、チームをどう強くしていくのか。

「(代表選手、なりたい選手が)ハードワークするだけです。魔法や秘訣などない。(ハードに練習、プレーして)スーパーフィットするしかない。(インタビュー中のグラウンドを)見てください。試合で(世界トップとの)大きなギャップを感じたから、それを埋めるため個人練習をする。今回のツアーは、選手たちがやらなければいけないことを実感する貴重なものになりました」

「このツアーで選手たちは、自分たちのどこを伸ばさないといけないか理解したと思います。テストマッチで求められるのは(日本)国内ではあまり試されない、ディフェンスやブレイクダウンスキルの中でも、本当にハードさを求められる部分。それを理解し、身体的にも(そのレベルのハードなプレーを)できるようにしないといけない」

 チーム強化方針には揺るぎない自信があっても、勝利という結果が出ないと、いろんな声が届く。
「仕事をするだけ。私にはそれしかできません。誰かが自分を解雇しろとか、クビが危ないとか、そういうことは気にせず、自分のやるべき仕事をします」

 辛辣な海外メディアと話をする時こそ、ジョーンズHCは楽しそうに話す。
「コーチをしている者として、興味深い話をしないといけない。ラグビーの発展のためにも、発信するものが面白くないとだめだと思っています」

◆来季以降のことはすでに決定済み!?


 そんな話をした3日後、日本代表はジョージア代表に25-23と勝利し、その翌朝には日本へ向けてトビリシ国際空港を発った。
 11月24日の午後には羽田空港に到着。ジョーンズHCは永友洋司チームディレクターとともに、遠征総括記者会見に臨んだ。

 パリ経由で日本へ向かった代表チームと違い、こちらはドーハ経由で帰国の途に就いたため、日本には先に到着。成田空港からバスで記者会見が開かれる羽田を目指した。
 その内容はすでに広く報じられているので、発言のメモを下記に。報道陣とのやりとりは50分前後続いた。

帰国会見の序盤は笑顔、そして身振り手振りでのトークだった。(撮影/松本かおり)


「昨年の同時期の会見では、目指しているところと、その時点のチームの状況には大きな差があった。しかし12か月が経ち、まだ差はあるものの、縮められた。その理由のひとつとしては、選手層が厚くなった。例えば小林賢太。一番手から三番手の1番の選手を失ったものの、彼は強いスクラムを組む相手に80分間戦った(ジョージア)。フッカーも、江良(颯)や原田(衛)らが不在の中で佐藤健次が今回のツアーでよく適応していた」

「今回のツアーで本当に歯が立たなかったのは南アフリカとの試合だけ。ただ、それは他の国も同じことで(どのチームも南アフリカとは差がある)、それ以外の国との試合では勝つチャンスがあった。ウェールズとの試合では最後の3分をうまく対応できませんでしたが、ジョージア戦では逆の展開で勝った。同じようにPGで決着がついた両試合も、試合後のロッカールームの空気はまったく違う。それがテストマッチのラグビー。タフな局面でファイトしながらも賢く戦わないと勝てないということをチームは学んだ。そして、ワーナー・ディアンズのキャプテンシーの素晴らしさはジョージア戦で示され、他のリーダーたちもよくサポートしていた」

「日本代表に参加した選手たちと、そうでない選手たちの間にはフィジカル面の強さに大きな差ができており、そうなると、(新たな選手が)割って入るのは厳しくなる。しかしリーグワンでいいパフォーマンスを見せられたらチャンスは出てくる」
 リーグワンについて、「ハングリーでどん欲に、世界で戦いたいという気持ちを見せるチャンスの場と思っている」とした。

「現在のテストラグビーには重要な3つのコンテストエリアがある。その一つは空中戦。キックを蹴った後に再獲得し、畳みかけるように攻めたらダブルポジションを獲得できる(大きな前進や攻撃の連続)。セットプレーは、もっと安定感が求められる。ディフェンスはギャリー・ゴールドが(防御コーチに)就任してからクォリティーが高くなった。アグレッシブになり、ラインスピードも上がったと思う。こういった基礎的なところをもっとしっかりやれるようになれば、ジャパンラグビーを展開できる」

「(トライを奪うことができなかった)アタックについては、テストラグビーではそこが常に進化していて、そこに醍醐味がある。キックを使った攻撃では再獲得した後、スペースができやすい。そこにボールを運び、22メートルラインに入ると、またスペースがなくなる。我々はジョージア戦で、うまくボールを運ぶことはできたが、もっと(アタック方向を)タテ(にし)ないといけなかった。また、22メートル内ではNFL(アメリカンフットボール)のような、決まった動きで攻めることも必要になってきている。その独自性についてはいろんな考えがあり、すでに議論を始めています」

ジョーンズHCがキャプテンシーの向上を認めるワーナー・ディアンズ主将。(撮影/松本かおり)


「(ワールドカップでの)セミファイナルは目標であり、ターゲット。高みを望まないとベストの結果は残せない。10年前の会見でベスト8になる、強豪に勝つと言ったら、みんなに変な顔をされました。いまも(ベスト4になることは)できないわけがないと思っていますし、世界の強豪国もトップを目指して戦っていると思います。そして、(代表チームが)そこを目指すのであれば、国全体で盛り上げていかないといけないとも思います」

「(現体制になってからの)1年目は才能を発掘する時期で、2年目はファンデーション、人づくりをしました。いまはスコッドの60~70パーセントが固まってきた感じで、来年はそれを80パーセント程度まで引き上げたい。そのメンバーで12〜15試合を継続的に戦うことで、チームの安定性を築き上げたい」

 今回のツアーに参加した若い選手たちについては、「自分たちのクラブに戻ってレギュラーになれる力を見せられるのではないか」と話した。そして、「世界の強豪との差を感じた選手たちなので、以前とは変わる」、「成長した姿を見せ、所属チームの外国人選手より、自分たちの方が通用するというところを見せられればチャンスを得られる」とした。

 来季の選手選考について、今季同様に若手を多く起用するのか、経験豊富な選手も加えていくのか、という質問が出たあたりから、ジョーンズHCの表情が険しくなり、「ベストな選手を選んでいる」、「ベストな選手を選ぶまで」とぶっきらぼうに答えた。
 ベストな選手とは、その時、最高のコンディションにあることが不可欠な条件。今季中も姫野和樹を招集しようとしたがコンディションが整っておらず、稲垣啓太や坂手淳史も同様のコンディションだったという。

 そして同HCは、「若い選手たちが育ったツアーを終えて戻ってきたときの会見で出る質問は、あの才能ある選手はどうですかとか、この人はどうでしょうなど、選んでいない選手のことばかり。フィットしていないから選んでいないだけなのに、それを批判されるのはどうなんでしょう」と話し、ぶ然とした表情で会見を終えた。

 成長した選手としては、竹内柊平、為房慶次朗、下川甲嗣、李承信、植田和磨らの名を挙げていた。

現在空席のBKコーチについては、「バックスには日本人選手も多いので、細かなニュアンスも伝えられる日本語を話す人を考えている」。会見の最後は笑顔が消えた。(撮影/松本かおり)


 報道陣が驚いたのは、ジョーンズHCの来季以降の指揮について、どういうプロセスでいつ頃決定するのかの質問が出た際、永友洋司チームディレクター(以下、TD)が「来年以降も指揮を執るとすでに決まっている」と話した時だった。

 ジョージア戦がおこなわれたトビリシには、日本ラグビー協会の土田雅人会長、山神孝志CRO(ラグビー担当事業遂行責任者)も来ており、同TDは2人に「目指しているラグビーは間違っていない。今の体制をどう強化していくかが大事」と報告したという。
 その方針を日本協会理事会に上げ、承認されれば正式決定となるようだ。

 以前の記事に、「2025年のテストマッチは、11戦を戦い5勝6敗。しかしその中で、次回W杯のプール分けでバンド1にあたる1-6位内の南アフリカ、アイルランド相手の試合を除くと5勝4敗となる。さらに、自分たちよりランキングの低い(バンド3の)トンガ、カナダ、アメリカ戦を除けば2勝4敗だ。日本代表は、バンド2(2025年の対戦相手ではオーストラリア、ウェールズ、フィジー)、バンド3との試合の内容を精査して(現体制の見直しなど)未来へ進むべきだと思う」と書いた。

 そんなことを考えている時には、すでに来季のことは決まっていたのか。
 長かった取材ツアーは拍子抜けに終わった。

トビリシ最終日、最も多く通った店でオジャクリ(写真左下)などを食べる。




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