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【Just TALK】早慶戦で存在感。「試合に出る以上責任を持たないと」。「(日本×ジョージアは)勝ってくれてありがとう、です」。矢崎由高[早大3年]
どんな質問にも自分の言葉で答える21歳。写真は日本代表活動時のもの。(撮影/松本かおり)
2025.11.28
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【Just TALK】早慶戦で存在感。「試合に出る以上責任を持たないと」。「(日本×ジョージアは)勝ってくれてありがとう、です」。矢崎由高[早大3年]

向 風見也

 早大ラグビー部3年の矢崎由高が、立ち上がりからパスをもらった。

 敵陣22メートルエリアの右の位置だ。自身の目の前に防御がいて、外側にフリーの味方がいるなか、迷わず縦を突いた。3人のタックラーとクラッシュし、それでもしばらく前進した。

 11月23日、東京・秩父宮ラグビー場。10月から約1か月間、日本代表に帯同した15番は、チームに合流して約1週間で関東大学対抗戦Aの公式戦へ先発した。慶大との「早慶戦」だ。

 後半11分にスタンドに手を振って退くまで、最初の選択のようなセオリーを超越したランニングオプション、着実なキックを披露した。49-21で勝った。

 繰り返せばこの日は、ジャパンから戻って間もなかった。

 10月12日に予備軍の「JAPAN XV」扱いでキャンプへ合流し、正代表の15番として25日のオーストラリア代表戦(東京・国立競技場/●15-19)、現地時間11月1日の南アフリカ代表戦(ロンドン・ウェンブリースタジアム/●7-61)、同8日のアイルランド代表戦(ダブリン・アビバスタジアム/●10-41)、同15日のウェールズ代表戦(カーディフ・プリンシパリティスタジアム/●23-24)に続けて出た。

 国内外で世界ランク上位陣とのバトルに臨み、短い休息を経てクラブの誇る人気カードでスターターを任されたのだ。

今季の関東大学対抗戦では4試合に出場し8トライを挙げている。写真は筑波大戦より。(撮影/松本かおり)


 その裏側を大田尾竜彦監督が説く。

「最初はコンディションが整っていたら植木(太一=2年生のフルバック)で…と思っていましたがそうはならず、いろいろと人(候補者)を見たうえで由高を最初から使う判断をしました。帰ってきた時の練習でも早大のラグビーをやる準備をしていました。当然、かなり疲労はありました。ただ、うちには(国内トップの)リーグワン出身のスタッフもいる。『インターナショナルプレーヤーはこういうこと(過密日程)を乗り越えている』と、僕以外の人間も話してくれています」

 本人の感触は。スタンド下のミックスゾーンで応じた。

——疲れがあったと思われますが…。

「試合に出る以上、パフォーマンスには責任を持たないといけない。これからどんどん試合をすることになっても、ちゃんとしないといけないです。もちろん、いつも通りの生活ではなかったので、ずっと日本にいる時のような準備はできなかったです。ただ、そのなかで最大限のリカバリーをしていました」

——ご自身のパフォーマンスをどう振り返りますか。

「きょうの僕ですか。いいところもあれば悪いところもあったのですが、正直、自分のプレーを鮮明に覚えてはいないので、いまどうこうというより、帰ってからもう1回、自分を(映像などで)評価したいです」

——本来であればもっとこうしたかった、といった感覚はあるのですか。

「それはもちろんありましたけど、早大としてもシーズン終盤にさしかかってゆくなかで、研ぎ澄ませていけたらなと」

——不在の間、早大に進歩は。

「正直、練習は数回しかやっていない。(変化は)これからわかると思います。きょうは、前節に帝京大に負けた(11月2日/秩父宮/●20-25)、その次の試合でした。それは全員(意識していた)」

——早慶戦への特別な思いは。

「ありがたいことに、秋の対抗戦の早慶戦は3回目です。その独特の雰囲気にびっくりすることはなかったですが、過去と比べても多いお客さん(1万5164人)、歓声が力になります。感謝しなければいけない」

——12月7日に東京・国立競技場である「早明戦」こと明大戦は、対抗戦2連覇を賭けた戦いとなります。

「これから1週間バイウィークなので、しっかりチームで準備して、勝てればいいなと思います」

この秋のオーストラリア、南アフリカ、アイルランド、ウェールズ戦と、4つのテストマッチにフル出場した。写真はウェールズ戦。(撮影/松本かおり)


 矢崎が離れた日本代表は「早慶戦」の前日、トビリシのミヘイル・メスヒ・スタジアムにいた。現地時間11月22日にジョージア代表を25-23で制した。

 
 結果的には、代表の主戦級のひとりが、世界ランクでひとつしか違わない国との激戦より所属先のゲームを優先したように映る。もっとも今回のスケジュールは、予め決まっていた。ナショナルチーム、本人、早大との間での協議の結果だ。

 各自の思いをもとに落としどころを探すのが、いまのこの業界の在り方となっている。

 送り出した大田尾監督は言う。

「個人として申し上げるならば、きちっとした制度が必要かと思います。(選出に関する)原則みたいなものがあって、話をして…となるのがよい。ただ今回は、(統括する)日本ラグビーフットボール協会の方に協力してもらいました。(主将の野中)健吾とも話をして送り出した。疑問などはなく、正しいジャッジだったと思います」

 これに呼応するのは日本代表の永友洋司チームディレクターだ。

 代表が動く期間、所属先の公式戦がある選手をナショナルチームへ呼ぶにあたり、一定のガイドラインを設けたいと考える。その取り決めをもとに、対象者のコンディションや学業を鑑みて適宜、最適解を見出したい。

「今後、JRFU(日本協会)として大学側に理解を求める動きが必要になってくる。12月3日に(ワールドカップオーストラリア大会の)組み合わせが決まる。その後、各大学への訪問を予定しています。各大学への『基準』をしっかり提示できれば。その後、JRFUに私がどれだけ働きかけられるか(が鍵)です」

 では、このほど話題の中心となった矢崎の見解は。

「ここで簡単にああだ、こうだと言ったら面倒臭そうなので、ノーコメントです。僕のなかでも思いはしっかりありますけど。(ジョージア代表戦は)勝たなければいけない試合で勝ってくれてありがとう、です。来年、もし選ばれて、いろいろな都合が合ったら…。その時にいる自分のポジションで、全力を出せたら」

日本代表のウェールズ戦後には「成長し続けないといけない」と話した。(撮影/松本かおり)




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