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【Just TALK】「頑張って(代表復帰を)目指しているところです」。稲垣啓太[埼玉パナソニックワイルドナイツ]
1990年6月2日生まれの35歳。日本代表キャップ53。(撮影/向 風見也)
2025.11.25
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【Just TALK】「頑張って(代表復帰を)目指しているところです」。稲垣啓太[埼玉パナソニックワイルドナイツ]

向 風見也

 埼玉パナソニックワイルドナイツの稲垣啓太は11月15日、都内で横浜キヤノンイーグルスとの練習試合に出た。国内リーグワン1部の開幕を約1か月後に控え、40分3セットの変則マッチを53-43で制した。

 身長186センチ、体重116キロの35歳。左プロップとして日本代表53キャップ(テストマッチ=代表戦出場数)を持つ。

 国際カレンダーの構成上、2014年に初代表を飾ってから秋のほとんどは代表活動に充てていたものの、今年は新チーム始動時から現在もワイルドナイツにコミット。先のシーズンが終わった今春は、コンディション調整に時間を割いてきた。

——イーグルス戦を振り返っていただきます。チームや個人のフォーカスポイントとその感触は。

「いま、チームが目指していることの全部は言えないです。

 個人的な目標で言うと、あまりタックルの精度は気にしていないです。より効果的な、威力のあるタックルを目指しています。ここで(質や圧力を考えずに)タックルの成功率だけを上げようと思ったらいくらでも上げられるのですが、そういうのはあまり必要ないです。

 皆さんにとって、効果的なタックルとは何か。となると、いいボールを出させないタックル、いいテンポを出させないタックル、(接点に相手側の)人数をかけさせるタックル、味方にディフェンスのシフトを引くだけの時間を稼げるタックル(と挙がる)。そして、(刺さる順番で)1人目、2人目としての役割はそれぞれ違う…。(そのためには)最終的には、ポジショニングを早く取るのが一番です」

——そのあたりの試行錯誤をしている最中。感触はいかがですか。

「(組織全体として)いい時は、ディフェンスをはやく整備できている。なぜか。それはさっき言ったようなタックルができているから。自分たちが下がらず、前に出るディフェンスをするから、どんどんディフェンス(次の防御網)が準備できる。ディフェンスを揃えるだけの時間もある。

 じゃあ、それがどういった時に崩れるか。1人目(のタックラー)が『受けた』時。これが僕の言うところの威力がないタックル。それをなくしたいんです」

プレシーズンからしっかりとチームで過ごし、周囲との理解を深める。(撮影/松本かおり)


——プレシーズンからずっとチームに帯同していますが、状態はいかがですか。

「自分が思った通りにできる時もあれば、できない時もある。全部が全部うまくいくわけではない。自分が思い描いている動きを、まだ、イメージ通りにはできていないので、まだもう少しかなと」

——今後は。

「いまの時期は皆の間で『ブロック3』と呼ばれています。開幕前、最後のブロックです。今回のイーグルスさん、(豊田自動織機)シャトルズ(愛知)さん、最後は(東京サントリー)サンゴリアスさん(とのプレシーズンマッチがある)。その後、我々は宮崎キャンプに行く。ここでディテールを詰められる。

 大事なのは、戦術じゃないですよ。(戦い方を)理解できているか。それをやるだけの能力があるかどうか(が大事)です。

 チームは個人の能力の集合体なので、個人の能力が上がらないことにはチーム力は上がらない。『皆でまとまろうぜ!』と言っても『そもそも能力がないだろ』となったら終わりなので。個人の能力は、それぞれ上げてきたと思う。あとはその能力を発揮できるポジショニングにつくか。どうやってその技術、能力を発揮する土台を揃えるか。それがディテールです。皆が思い描いているディテールと、僕が思い描いているそれはちょっと違うかもしれないです」

——一般的には技術の細部が「ディテール」とされがちですが、稲垣選手は全員が力を出し切るための位置取りや連携を「ディテール」と呼んでいます。

「技術どうこうというの(議論)は、終わっているんです。キャリアのある人は技術を持っているので。(肝は)最後のコネクションの部分です」

 あらためて、話をしたのはイーグルスとのゲームでプレーした直後。グラウンド脇にあるビジター用のロッカー室の前で現状を丁寧に説いた。

 その日の深夜には、カーディフのプリンシパリティスタジアムでの日本代表×ウェールズ代表がこの国でも中継された。

 2023年のワールドカップフランス大会を最後に代表から離れている稲垣だが、ジャパンのいまについての問答にも応じてくれた。

——11月から欧州にいる日本代表のゲームは、ご覧になっていますか。

「見ていますよ。眠いです」

——時差があるなかリアルタイムで!

「頑張ってほしいな、って思いますよ。いちラグビー選手として、頑張ってほしい、勝ってほしいと思いますよ。皆と一緒で、応援している。(現代表は)そういった人たちの頂点に立っている。それは忘れないでほしい」

 強豪国とのバトル、過密スケジュールといった「代表選手の宿命」がいかにタフであるかを知るからこそ、いまのところ一度も関わっていない現体制へは「外から見ていて、僕は、何か言えることはないです」と言葉を選ぶ。

 熱を込めたのは、後輩がメンバー入りした話題だ。

リーグワン2024-25シーズンは12試合に出場した。(撮影/松本かおり)


——ウェールズ代表戦では、リザーブに古畑翔選手が入りました。稲垣選手のいるワイルドナイツに2019年度に加わった6学年後輩で、ポジションは同じ左プロップ。出場すれば初キャップとなります。

「翔は、長く(厳しい部内競争のもと)苦労していたのでね。まず、代表キャップを獲ることもそうですが、代表のキャンプにずっと帯同できたことが素晴らしい経験だったと思うんです。たぶん、違う世界が見えた。自分に何が足りないんだろう(と気づく)。
 
 今回も、もし初キャップを獲ることができたら、また違う世界が開けてくる(後半37分に投入された)。そして(ワイルドナイツに)戻ってきたら、彼がまたいいものを持ってきてくれる。一緒にやれるのも楽しみです」

——稲垣選手は現地時間2014年11月15日、敵地ナショナルスタジアムでのルーマニア代表戦で初キャップを掴みました。その前後で違いはありますか。

「初キャップで『やったー!』という気持ちは、なかったです。キャップを獲ることが目標じゃなかったんですよ。

『代表になりたい』で止まる人と『世界で勝ちたい』(との違いがある)。順序としては『代表になりたい』から『よし。次はもっと勝ちたい』なのでしょうが、僕は最初から代表になることが目的じゃなかった。代表で活躍して、海外でやりたかったんです。でも、代表に所属して結果を出さないとそれはなかった。だから、代表で勝つことが、僕のためには、相当、大事だった。

…で、そうこうしているうちに、日本代表としてのプライド、マインドが強くなった」

 2015年以降、計3度のワールドカップに参加した。オーストラリア大会を2027年に控えるなか、2026年春からの代表復帰へリーグワンで力を示したい。

 約9年ぶりに復帰して2年目のエディー・ジョーンズ ヘッドコーチには、第1次政権時代に師事している。

——稲垣選手のカムバック、期待されています。

「僕も頑張って目指しているところです。自分の役目というものが、存在すると思う。求められる役目というものを、しっかりやりたいです。人生で、そう求められることも少ないです。自分がそのチームで求められているのなら、自分がやらなきゃいけないことをやりたいです」

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