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タイのバンコクで開催されている「2025 ワールド車いすラグビー アジア・オセアニア チャンピオンシップ(以下、アジア・オセアニア選手権)」は11月23日、大会4日目を迎えた。
出場6か国による総当たり戦でおこなわれている今大会、3日間の日程を終え、日本とオーストラリアが3勝0敗、ニュージーランドが2勝1敗、韓国は1勝2敗、タイとマレーシアが0勝3敗という途中経過となっている。
来年8月にブラジルで開催される世界選手権の予選を兼ねており、上位2チームに出場権が与えられる。また、3位と4位のチームは、来年おこなわれる世界最終予選の出場権を獲得する。

日本は、今年一番の目標として掲げる世界選手権への切符をかけ、ニュージーランドとの一戦に臨んだ。
「ホイール・ブラックス(Wheel Blacks)」の愛称をもつ車いすラグビーニュージーランド代表によるハカで始まった試合は、手に汗握る攻防戦となった。
開始直後から激しい走り合いが繰り広げられ、一瞬の隙をつき日本がターンオーバー、すると今度はトライライン手前のエリアでの日本のパスを相手がカットし、同点とされた。
お互い一歩も譲らぬ緊迫した展開のなか、自分へのマークがはずれたわずかな時間に、池 透暢はふーっと息を吐く。プレーは熱く、頭は冷静に、一本一本着実にトライを決める。シーソーゲームのまま、12-12で第1ピリオドが終了した。
小さなミスがビハインドを生む、そんな状況が第2ピリオドでも続いた。
ニュージーランドのキャメロン・レスリーの俊足が光る。パラ水泳との二刀流で活躍するレスリーは、昨年のパリ・パラリンピックでは水泳に出場。そこでの表彰台は逃したものの、世界選手権ではメダルを獲得しているトップスイマーだ。ハイポインター(障がいの比較的軽い選手)との走り合いでも引けを取らないレスリーのランが、試合のテンポをも早めた。

このあたりでそろそろ引き離していきたい、そんな見る側の思いが通じたかのように、ピリオド中盤、日本はディフェンスの強度を高め、相手のインバウンド(スローイン)を阻止。その後には橋本勝也が相手のボーラーにプレッシャーをかけてターンオーバーを奪い、1点、また1点とリードを広げた。
ラストゴールもきっちりと取って、25-22で前半を終えた。
「今年6月のアメリカ遠征で(アメリカに)ぼこぼこにやられて、ボールを持って繋ぐという部分で(同じ障がいクラスの)海外の選手に比べるとかなり劣るということを痛感しました。その悔しい気持ちから、アジア・オセアニア選手権ではコートでしっかり活躍できる選手になりたいと課題に取り組んできました」
そう語るのは、東京とパリの2大会連続でパラリンピックに出場した中町俊耶だ。
障がいの程度や体幹などの機能によって分けられるクラスでは、中間にあたる「ミッドポインター」の中町。オフェンスとディフェンスの両方をこなすオールラウンダー的な役割が求められる。

野球に励んでいた中町はパスを得意とし、なかでもロングパスは大きな強みとなっている。しかし、パリ・パラリンピックでは自身の持ち味を十分に発揮することができず、金メダル獲得の喜びの一方で、悔しさが残った。
「パリのときは、自分自身の甘さで、いい準備ができていなかったということがあったので、パリ以降、この1年はチームにどう貢献するかというのはあまり考えすぎずに、とにかく自分のやるべきことに集中して毎日を過ごしてきました」
この試合中、前半はほとんどの時間をベンチで見守った中町は、自分が入るラインアップでは、こういうディフェンスをすれば相手が嫌がるのではないかと考えを巡らせていた。
前半終了間際にコートに送り込まれた。第3ピリオドのスタートにも起用された。ヘルドボールにより相手に所有権が渡る場面はあったものの、ターンオーバーで取り返した。

固定メンバーに近い状態で戦うニュージーランドに対し、日本はラインアップを入れ替えながらゲームを進めた。
またもやシーソーゲームの様相を呈するなか、相手のゴールでこのピリオドが終わると思いきや、日本は残り1.8秒でメンバーチェンジをコールした。今年から採用された新ルールにより、タイムアウト後、フロントコートからのスタートを選択した日本は果敢にあと1点を狙った。
この緊張の場面で中町が再びコートに入り、インバウンダーとしてスローインを担当。中町が放ったボールをピタッと池が受け取り、後ろ向きで見事にトライ。36-32で最終ピリオドを迎えた。
ニュージーランドは世界ランキング8位の意地を見せるが、日本が3つのターンオーバーを奪って引き離し、50-42で試合終了した。
4勝目をマークした日本は2位以上が確定し、世界選手権への切符をつかんだ。
チーム最長のプレータイムでファイトし続けた池は、「相手にプレッシャーを与え続けるディフェンスを、ラインアップが変わっても精度高くやり続けたことが勝因」と試合を振り返った。

この日は日曜日とあって、会場にはタイ在住の日本人が多くかけつけ、大きな声援を送った。
息子が通うラグビースクールで、この大会のことを知ったという女性は、家族とともに初めて車いすラグビーを観戦した。
「迫力がすごい、そして男女混合競技だということに驚いた。楽しかったのでまた見たい」と声を弾ませていた。
日本戦に先立ちおこなわれた試合で、オーストラリアがタイを下し4勝目を挙げた。これで、アジア・オセアニア地域では、日本とオーストラリアが世界選手権の出場権を獲得した。
今大会の目標は達成した。だが日本には、まだやるべきことがある。
大会最終日の11月24日、宿敵・オーストラリアとの大一番を迎える。前回の2023年大会で優勝を果たした日本は、ライバルを倒し、連覇を狙う。