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アジア・オセアニアの頂点を目指す、5日間の戦いが始まった——。
11月20日、「2025 ワールド車いすラグビー アジア・オセアニア チャンピオンシップ(以下、アジア・オセアニア選手権)が、タイのバンコクで開幕した。
アジア・オセアニア選手権は2年に一度おこなわれ、今大会には世界ランキング1位(※)の日本、同2位のオーストラリアをはじめ、ニュージーランド(同8位)、韓国(同14位)、マレーシア、タイの6か国が出場(※2025年7月21日付)。
全チームによる総当たり戦の結果で順位が決定し、上位2チームには来年8月にブラジルで開催される世界選手権への出場権が与えられる。
前回の2023年大会で優勝した日本代表は、今年最大のターゲットである今大会で連覇を狙う。
大会初日、日本はマレーシアとの初戦に臨んだ。
パリ・パラリンピック日本代表の橋本勝也と草場龍治に、ワールド車いすラグビー公式戦・初出場の月村珠実、西村柚菜がスターティング・ラインアップを飾った日本は、立ち上がりから圧倒的な強さを見せる。
国際大会への出場経験がほとんどないマレーシアに対し、攻撃の起点となるインバウンドからプレッシャーをかけ次々とターンオーバーを奪うと、連続得点で一気に引き離していく。
ピリオド終盤、立て続けにファウルをおかしたマレーシアは、コート上の4人のうち3人がペナルティー・ボックスに入る痛恨のミスもあり、なかなかリズムを掴むことができない。
手を緩めることのない日本は、相手に一度もトライを許すことなく、22-0で第1ピリオドを終えた。

続く第2ピリオドでは、中町俊耶と長谷川勇基が相手のポイントゲッターを抑え込みトライを阻止するなど、日本の好守備が光り、32-0で前半を折り返した。
後半に入っても、日本は主導権を握り続けた。
しかし第3ピリオド中盤、一瞬の守備のほころびを相手がすかさず突き、トライラインへと飛び込む。ついに念願の1点目がマレーシアに入り、会場からは拍手が起きた。
44-1で迎えた最終ピリオド。
日本は相手に追加点を許すも、取り組んできたディフェンスの遂行を徹底し、55-3で圧勝。世界チャンピオンの実力と貫録を見せつけ、初戦を白星で飾った。
中谷英樹ヘッドコーチは、「どういう選手がでるのかマレーシアの情報がない中で、相手のレベルを見ながら自分たちがやりたいプレーをやるということを目標にしていたが、すごくよかった」と試合を振り返った。
そして、「今大会での一番大きな目標は世界選手権の出場枠を獲得すること。2位以上に入るというのが大事」だとしたうえで、大一番となるオーストラリア戦を見据えながらも「まずは目の前の4試合をしっかり戦っていきたい」と語った。

この試合で、チーム最長となる18分49秒(※)のプレータイムをマークしたのが、日本代表デビューを果たした西村柚菜だ(※車いすラグビーの試合時間:8分×4ピリオド)。
現在23歳の西村は、幼少期から15年にわたりサッカーに励んだ。サッカーの指導員になりたいと大学に進学したが、講義中におこなわれたマット運動で転落して障がいを負った。
退院後、車いす陸上を始め、トラックやマラソンなど幅広い種目に力を注いだ。
その一方で、もう一度チームスポーツがしたいという思いから、車いすラグビーのトライアウトに参加。車いす同士の激しいぶつかり合いを初めて見た時には怖さがあったというが、実際にやってみると、怖さよりも楽しさが勝った。車いす同士のコンタクトが許されている、この競技の特徴に魅力を感じ、今年1月から本格的に車いすラグビーに取り組んだ。
7月には、愛知県でおこなわれた国際大会「2025ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」に日本代表エキシビションチームのメンバーで出場。
「車いすラグビーで世界と戦える選手になりたい」という目標に向かって突き進み、競技を初めてわずか10か月で、今回、日本代表に選出された。
デビュー戦でスターティング・ラインアップという大役を任されるも「あまり緊張はなく、リラックスした状態でゲームに入れた」という西村は、パスを受け取ると得意のランでトライをあげ、タフなシチュエーションでは強引にゴールを狙うのではなく、周りを見て仲間へのパスを選択する冷静さも失うことはなかった。
また、相手のボーラーに対して、しつこくプレッシャーをかけ続けるといったアグレッシブなディフェンスも見せ、堂々としたプレーで存在感を示した。

スピードに加えパスにも取り組んできたと話すが、そこにもうひとつ、サッカーの経験も最大限に活かすつもりだ。
「コートが小さい分、時間などもっと意識しなければいけないことは増えるが、スペーシングではサッカーとそんなに変わらないところもある。サッカーで培った知識や感覚を大事にしながらプレーしている」
そして今大会には、明確な目標を持って臨んでいる。
「これなら勝てるっていう自分の本当の強みとか、自分の良さを見つけられる大会にしたい」
車いすラグビーと陸上、二刀流での活躍を目指す西村。
障害者自立支援の施設で働く西村には、内に秘めた思いがある。
「自分がケガをしてからの経験も、ケガをする前の経験も、もっといろんな人に伝えていきたい。障がい者の自立支援の場所で、入所時からもっといろんなことができる環境を作ってあげたいなと考え、この仕事を選んだ。パラスポーツで活躍している姿を利用者さんに見てもらい、私自身が入院中にもらった勇気を、今度は自分が与えてあげられたらいいなと思って、世界を目指し競技に取り組んでいる」
大志を胸に、日本の小さな新星が輝きを放つ。
大会2日目の11月21日、日本は地元・タイとの一戦に臨む。
ベテランと若手の力を結集し、一つひとつ勝利を積み上げる。
【2025 ワールド車いすラグビー アジア・オセアニア チャンピオンシップ 日本代表】
長谷川勇基 ★
鈴木康平
小川仁士 ★
月村珠実
草場龍治 ★
乗松聖矢 ★
中町俊耶 ★
壁谷知茂
池 透暢 ★
島川慎一 ★
西村柚菜
橋本勝也 ★
★パリ・パラリンピック日本代表