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またまた青空。風もない。トビリシに着いて5日目。過ごしやすい日々が続いている。
バスの車内に外の気温を伝えるボードがあった。19度。ラグビーに最適だ。
11月21日、ジョージア×日本のテストマッチ前日。両チームは試合会場のミヘイル・メスヒ・スタジアム(収容人員/2万7223人)でキャプテンズランをおこなった。
同スタジアムはトビリシの中心部、自由広場からバスで20分ほど。街の喧騒から少し外れた場所にある。周囲には緑も多い。
午前中にトレーニングをおこなったジョージアには、キックをキャッチした選手にタックルする練習をする選手たちがいた。ハンドダミーに入る音が重い。日本の選手は要注意だ。レシーバーの周囲にサポートする選手が必要だ。

ジョージア代表を率いるリチャード・コッカリル ヘッドコーチ(以下、HC)は、「トビリシでプレーすることの意味はわかっています」と話し、国民の期待に応えたい闘志を口にした。
そして、「日本戦で自分たちがどれだけの力を持っているか示したい。明日の午後7時(キックオフは午後4時)には、自分たちはもっとチャンス(来年から始まるネーションズチャンピオンシップなど、トップ国との試合機会)を与えられるべきだ、ということを証明したい」と続けた。
午後の日本代表のキャプテンズランがおこなわれるまでの間、プレスルームにいると、スタジアムのスタッフの一人だろう。「これを日本語で言うとどうなる?」と尋ねてきた。試合当日の場内アナウンスで、日本を歓迎する気持ちを伝えたい思いが、とても強く伝わってきた。
いい雰囲気。明日の日本勝利は、お互いが力を出し切った80分の末につかみたい。スタジアムが沸くシーンをたくさん見たい。


13時からのキャプテンズランを終えた後、3番で先発する竹内柊平、9番で先発する齋藤直人に話を聞いた。
竹内は、「スクラムがいちばんの鍵になる試合だと思うので、めちゃくちゃ楽しみです。かつ、めちゃくちゃ緊張しています」と言った。
2024年7月、来日したジョージアと仙台で戦った試合にも出場している。23-25の惜敗だった。
その時のリベンジもしたいし、何よりテストマッチだ。勝たなければいけない。そして、長かった遠征を笑顔で終えたい。
ジョージアのスクラムについて、「一人ひとりフィジカルが強く、そこにプライドを持っているけど、一人ではなく8人で組んできます。パワーに自信があると、最初フロントローの3人でヒットし、そのあと、ロック、フランカーがバラバラッと押してくるチームもある。でもジョージアには8人のコネクションがあり、もしヒットで負けても、そこから全員で押してくる。なので、自分たちのコネクションも試される。そこを強くして組みたい」
敗戦が続いている今回の欧州ツアーの試合では、セットプレーで相手に優位に立たれ、それが試合の流れに大きな影響を与えることが少なくなかった。
そのことについて竹内は、「テストマッチは学ぶ場所ではないのですが」と前置きして、「得られるものがたくさんありました」と言う。
「個人的にスクラムで負けてしまうところもありました。でもその分、外からでは分かりにくいかもしれませんが、自分の中では一歩一歩、着実に成長しています。やはり(培ってきた)基礎を出せないといいスクラムは組めない。それはテストマッチレベルでもどんなレベルでも同じと、あらためて理解できました」
それはチームも同じ。自分たちの掲げているスクラムを出せることがあっても、まだ不安定。一貫して力を出せないといけない。
「そうできるように、自分がリードしていきます。ジョージア戦は、今回のツアーで経験してきたこと、これまでの集大成を出す試合にしたい。相手が強みとしているところ、その分野で自分たちが上回れたら勝機は見える。フィジカルバトルにわくわくしています」
ディフェンス力の上昇も実感している。
「自信を持っています。特にゴール前のディフェンスはハイレベルになってきています。我慢した後にパンッと抜かれることがあるけど、もっと詰めたら、さらに良くなる。守りの面でも、ジョージア戦で集大成を出したい」
ここでもジャパンハイト、規律の遵守、そしてコネクションが生きているという。

チームの元気印は、いろんなことを話した後、「とにかく(ジョージアに)勝つ。それしかない。南アフリカ、アイルランド、ウェールズにも勝たないといけなかった。いろいろいうより、気持ち、と思っています。どれだけこのチームへの愛があるか」
ジョージアに勝つことでワールドランキングで同国を逆転し、12月3日におこなわれる2027年ワールドカップのプール分け抽選会で、より良いポジションに入る可能性が残っている。
それに関係なく、勝利を欲している自分、チームがいることを明瞭な言葉で伝える。
「クールに勝つのではなく、泥臭く、15 人、23 人が、誰よりも体を張って勝利を得るのが日本代表」と覚悟の言葉を口にした。
アイルランド戦から3戦続けて9番のジャージーを着る齋藤直人は、「先週のあの負け方(ウェールズ戦、23-24で逆転負け)もありますし。しっかり勝って終わります」と、ジョージア戦へ向けて力強く展望を話した。
「フォワードが接点(フィジカルバトル)で頑張ってくれると思うので、バックスは、外にスペースができると思うので、そこにボールを動かし、攻めていきたいですね」
多くの時間帯で優勢だったウェールズ戦同様、攻撃的にゲームを進めるつもりだ。
前戦の最終盤、2点リードで残り2分。ボールを手放したことが、結果的に敗戦につながった。
得た教訓は大きい。「次、同じ状況になったら、いつも通りにボールを持ちます。急がず、普通にアタックし、1分を切ったらゲームをクローズする形に持っていきます」。
お互い疲弊していたけれど、ブレイクダウンでは自分たちが勝っていた。あれが自陣での攻防なら、コンテストキックを蹴っていただろう。さまざまな状況を経験したり、いろんな想定をして成長を続ける。28歳、27キャップのキャリアも、まだまだ成長し続ける。

ジョージア戦の登録23人の中でキャップ数は5番目に多く、前回W杯も経験している選手は、現在のチームの中では少ない。「リーダーシップを発揮していかないといけない」と自覚を持つ。
練習や試合で堂々とプレーし、周囲に声を掛けるシーンも多い。その落ち着きがチームに安心感を与える。
今季は7月のウェールズ戦の2試合目に出場した後は所属するトゥールーズでの活動に集中。この秋の欧州ツアーも、南アフリカ戦の直後からチームに合流した。
しばらく離れていたからこそ気づくチームの変化がある。「チーム内での共通認識(の浸透度)が高まっているので、プレーしやすいです。また個人的には、夏のウェールズに負けた経験を踏まえて準備し、アイルランド戦は負けたけど、手応えはつかめました」。
精神的支柱と言っていいリーチ マイケルが怪我で離脱しても、キャプテンのワーナー ディアンズら、若い世代が自覚を持ってチームをリードしていることも感じる。
「アタックも整備されてきたし、ディフェンスも良くなったと感じています」
齋藤のプレーを見ていて、パス後のフォロースルーが以前(日本でプレーしていた頃)と比べると変わった。そう伝えると、「日本ではパスを重点的に練習していましたが、いまは2対8ぐらいで、キックなどパス以外のことをやっているからですかね」と答えた。
「フランスのラグビーを見てもらうと分かると思いますが、パスをここに、というのはあまりなくて、いいタイミングで放ってくれたらいい、みたいな感じなんです。そして、いつもボールがよく滑る(環境の)中でやっているので、アイルランド戦、ウェールズ戦と、すごくパスをしやすかった」
また、トゥールーズでのSOとの距離より日本代表でのそれは短いので、強く意識することなく自然体でパスできていると説明した。
ジョージアのキャプテン、NO8のベカ・ゴルガゼ、エースのFBダヴィト・ニニアシヴィリはフランスでプレーしているだけに、両選手の危険度は知っている。
周囲と連係し、相手に強みを出させない。

キャプテンズランを終えた後は、ジョージアラグビー協会も協力しているYouTube番組の収録に立ち会う幸運に恵まれた。
今回のツアー途中からチームに加わった森勇登を招き、ジョージアと日本の文化や食の違いについて学び合う企画。トビリシ市内のレストランにて、ジョージア代表からはPRギオルギ・テトラシュヴィリが出席しておこなわれた。
名物のヒンカリを食べるところからスタートした番組は、巨大小籠包のようなこの食べ物は羊飼いの人たちが作り出したとか、牛肉に香辛料をまぶしたものが入っているなどの説明がおこなわれた。それを口に含んだ森は、「餃子と似ていますね」。
昨季オフを利用してヨーロッパ各地を旅した森は、ジョージアの街並みについて、「フランスなどとはまた違う良さを感じます」。動物好きなので、街の中にいる大型の野良犬についても「嬉しい。かわいい」と言うと、ジョージア側からは「(旅行で訪れた)外国人は、みんなそう言う」と苦笑する場面もあった。
収録時間は2時間弱。森は桜のエンブレムのことについて尋ねられたり、ジョージアのラグビーの印象について話したり、親善大使のように振る舞った。
寿司の食べ方を指南する時間もあった。
「間違った情報を伝えたらいけない、と思い緊張しましたが、いろんなことを知ることができて楽しかった。いい経験になりました」
今ツアーでの試合出場はならなかったが、温かいつながりができた。
仲良くなった、ユウトさんとギオルギさん。テストマッチ後にスタジアムで再会したとき、どちらが笑っているだろう。
