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タックル。178センチの9番。有賀貫人[立教大3年]
178センチ、85キロの体躯を使い、ディフェンスに強さを見せる。(撮影/松本かおり)

タックル。178センチの9番。有賀貫人[立教大3年]

田村一博

 対峙する相手チームの同じポジションに、自分より大きな選手が立つことはほとんどない。
 濃紺の地に白いユリのエンブレム。立教大学のスクラムハーフ、有賀貫人(ありが・かんと)は178センチある。

 3年生になった今季は開幕戦となった帝京大学との一戦(9月13日/21-48)、そして2試合目の早大戦(9月28日/0-78)と、2試合連続で9番のジャージーを着て先発メンバーに選ばれた。
 10月11日の慶大戦にも先発(5-61)。まだ勝利はないけれど、プレータイムを積み重ねて自信を深めている。

 関東大学対抗戦への出場は、2年生時の青山学院大戦で後半途中からピッチに立っただけ。その試合ではウイングでプレーしたから、自分がやりたいスクラムハーフでの対抗戦出場が実現したのは今季からだ。

 4年連続で大学日本一となっている帝京大との開幕戦で、有賀はトライを挙げた。
 それはラインアウトからの攻撃の途中にボールを手にした本人が、低い弾道で転がした好キックが効いて得たチャンスがきっかけとなった。相手は蹴り出し、敵陣22メートルライン付近でのラインアウトを得た。

 投げ入れたボールを確保した濃紺のジャージーは10フェーズを重ねてトライラインに迫り、帝京大の反則を誘う。そして、PKからの攻撃をタップキックから始め、再び攻め立てた。
 そして仕上げは、ラックからのボールを手にした有賀。パスダミーで空いた目の前のスペースに切れ込んでインゴールに飛び込んだ(Gも成功)。

プレーを連続させてチームに貢献する。(撮影/松本かおり)


 3分弱、相手陣の深い位置に居座り続けた結果、0-5のスコアボードは7-5に。その試合は最終的に21-48と敗れるも、立教大は7-31で始まった後半、先に得点を挙げ、最終盤にもトライ、ゴールで7点を返した。
 勝つことはできなかったが、チームが積み上げてきたものが伝わる局面は少なくなかった。

 有賀は幕張総合高校出身。父が駐在していた中国・上海で小1から小4まで過ごす。その間に、現地の上海双竜というクラブでラグビーを始めた。
 帰国後は千葉市ラグビースクールに入り、中学時はビッグブルージュニアでプレーを続けた。

 文武両道、そして千葉の2強である流経大柏、専大松戸に挑める存在という両面から進学先を決めた。
 幕張総合高校でもスクラムハーフ。3年時は全国高校セブンズの県予選で決勝まで進み、花園予選ではベスト4だった。

 立教大を志したのは、強豪校出身者も少なくない環境に惹かれたからだ。「高いスキルを持った人たちの中で切磋琢磨できると考えました」。
 1年生と2年生の途中まではスクラムハーフでプレーするも、チーム事情もあり、昨季の後半からウイングへ。3年生になっても、春季大会ではアウトサイドでプレーした。
 しかし、夏前からスクラムハーフへ戻り、いま、自身が「やりたい」位置でプレーする。

 大学での試合経験はウイングで積んできたから、もともとプレーしていたポジションとはいえ、「(ウイングとは)視点が大きく変わりました。なので、ハーフの位置でのゲームメークを、いま学んでいるところです」。

 自分の強みを「ディフェンスのエフォート」とする。
 開幕2戦目の早大戦は0-78と完敗するも、背番号9がライン際でタックル、すぐに起き上がり、またタックルしたシーンもあった。

 大きくスコアを開かれた試合を振り返り、「一人ひとりのスキルに大きな差があった」と課題を見つけた。
 ただ、手も足も出なかったわけではない。「インサイドからしっかりディフェンスをして、粘ると、相手のチャンスをつぶすこともできました」
「今後につながる」ものも得た。

 近年実力を蓄え続けているチームは、昨季は1勝6敗で対抗戦7位、全国大学選手権出場はならなかったけれど、全国大会に進出した青山学院大に32-35、筑波大に23-29と迫った。今季は対抗戦4勝→全国大会出場を目標に掲げている。

副務を務める。斉藤空来主務も試合に出場しているように、多くの仕事をこなしながらプレーヤーも続けるのが立教大ラグビー部の伝統。「来年主務になるようなら、その仕事もプレーも頑張ります」。(撮影/松本かおり)


 連敗スタートになったものの、まだ4試合を残す対抗戦で、目標に届く可能性はある。有賀は2戦目終了後に「目の前の1試合での勝利をつかみにいくことを続けるだけ」とまっすぐな気持ちを口にした。
 その思いは常に変わらないだろう。

 早大戦でも、ピッチに散らばった相手チームの才能あふれる選手たちのことを特別視することなく、「自分たちのやってきたことを出すことに集中しました」。
 初めての対抗戦。初めての秩父宮ラグビー場でのプレー。友人や家族が応援してくれる前で、「いい緊張感でした。やれることはやれました」と清々しい。

 コツコツ努力を重ねてきた。
「その成果が出てスタメンでプレーできて自信になったし、いま戦えている。それが嬉しいです。勝利を粘り強く狙っていきたい」

 サイズを活かして前へ出るディフェンスをする。もっと声を出してチームを盛り上げる。そして、機を見て仕掛ける。
 試合に出るといろんなことが分かる。
 やれる。足りない。
 そんな体感が明日の自分につながる。




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