
8万1885人のファンがスタジアムを埋め尽くした光景は、多くの人の記憶に刻まれた。
9月27日におこなわれたワールドカップ(女子/以下、W杯)のファイナルは、開催国のイングランドがカナダを33-13と破り、頂点に立った。
8月22日に開幕した同大会は各地で熱戦が繰り広げられ、それぞれのスタジアムは多くのファンで埋まった。
販売された44万4465枚のチケットは、用意された全チケットの92パーセント。来場者の53パーセントが女性で、全来場者の50パーセントが初めての女子ラグビー観戦者だったという。そして、133か国からファンが訪れた。
女子ラグビーの新時代が始まったと感じる数字が並ぶ大会の中に、日本から訪れた一団の姿もあった。
一般社団法人『RuFL』(Rugby For Life/ラッフル)が企画した『Passionate Camp in UK』に参加した女子プレーヤーたちだ。複数の所属チームから、大学生も含む若い世代が貴重な経験を得る日々だった。
『Passionate Camp in UK』はラグビーだけでなく、イギリスでの学びや体験を通じ、参加者の視野を広げることを目的とするプログラム。事前研修(オンライン)を経たうえで、9月6日から同15日の日程で本研修が実施された。

オンラインでの事前研修には特別講師としてサクラセブンズの兼松由香ヘッドコーチが登場し、「女子ラグビーの歴史と多様なリーダーシップ」というテーマで講義をした。
プロジェクトコーディネーターでツアーに同行した玉井希絵氏(RuFL理事/日本代表キャップ16)は、イーリング トレイルファインダーズ(英・プレミアシップ ウィメンズ)でプレーしてきた経験を持つ人。同氏からの話も刺激的だった。
9月6日に日本を発って始まったツアーは、最初から充実していた。ロンドンのヒースロー空港に到着した参加者たちは、大型バンでサクラフィフティーンの試合地(大会第3戦)であるヨークへ向かう。
現地では日本代表選手への質疑応答機会もあり、プレーの細部や海外挑戦について意見交換する機会を得た。
翌日はスタジアムに足を運び、サクラフィフティーン×スペインを観戦。スタジアム観戦前から地元ボランティアとの交流あり、ファンゾーンでの出会いなどもあり、テンションも高まったところでキックオフ。参加者の一人、農山紗叶(のうやま・さき)さんは、運動レベルの高さ、観客の熱気、応援合戦などが強く印象に残ったようだ。
気持ちが高まったまま迎えた夜のミーティングでは、今後の日本女子ラグビーの展望などを語り合った。
今回のプログラムで貴重だったのは、現地のラグビー活動やクラブの練習に加わることができたことだ。時間をかけて準備、環境整備の末に実施された試みということが伝わる。9月8日には、さっそくその機会に恵まれた。
同日は、元女子イングランド代表のヴィッキー・マクイーン氏との時間が貴重だった。彼女の選手、コーチとしての経験、人生観を聞き、話す。
そして、同氏がCEOを務める『didi rugby』(6歳以下の子どもたちに特化したラグビー型運動遊びプログラム)に参加。永島沙菜(さな)さんは、自分も含めた参加者の全員が「(ヴィッキーの)一言も聞き漏らさないように集中していた」と、その場の空気を伝える。
その週の最後に観戦が予定されていたW杯準々決勝までの日々は『didi rugby』同様、イギリスのラグビー現場の空気を吸い込む機会が詰まっていた。
レスター タイガース女子チームの練習を見学し、コーチや選手と交流する。大学のキャンパスツアー(ディ・モンフォート大学)や、女子W杯の基盤を作り、現在はイングランドラグビー協会のチェアマンを務めるデボラ・グリフィン氏らと話す時間も設けられた。

トレイルファインダーズのエラ・アモリー選手やキム・オリバー コーチとのトレーニングセッションに実際に取り組む機会があったほか、チーム練習に加わることもできた。
参加者同士で夜におこなった、「壁砕きディベートゲーム」も貴重な経験。女子ラグビーに関わる未来の壁や課題をどう超えるかをテーマに、さまざまな視点から議論する時間はヒートアップした。
週末は、プログラムの最後に組まれていたカナダ×オーストラリア、イングランド×スコットランドの準々決勝2試合(ブリストル)を観戦。スタジアムの熱気とピッチ上で繰り広げられるレベルの高いプレーを見て、参加者たちは自分たちの未来に希望を見たはずだ。
世界に視野を向け、日本の女子ラグビーをもっと活性化していく思いを強めただろう。
その日の夜は『RuFL』の杉本七海代表理事から修了証書を受け取った。同理事からは『RuFL』の目指しているものや発足のきっかけ、今回のプログラムに込められたものが語られ、参加者一人ひとりも思いをスピーチし、翌日帰国の途に就いた。