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チーム愛ゆえの100試合。那須光[横河武蔵野アトラスターズ]
PROFILE◎なす・ひかる。1989年11月2日生まれの35歳。168センチ、72キロ。ポジションはSH。東海大相模→東海大。仕事は食品営業。2012年から横河武蔵野でプレーを続け、今年で14季目。プライベートでは2020年に結婚、現在2児の父。「主人は家族のアイドルなんです」と真琴夫人。(撮影/山形美弥子)

チーム愛ゆえの100試合。那須光[横河武蔵野アトラスターズ]

箱石友貴

 100。ただの数字ではない。
 血と汗と涙、嬉しさ、悲しさ、愛、絆、安易な言葉では片付けられない経験や感情が那須光をここまで連れてきた。

 横河武蔵野アトラスターズのSH那須光は2025年9月16日、ライオン市原グラウンドでおこなわれたトップイーストBグループ第2節、ライオンファングス戦で公式戦100試合目を迎えた。
 試合後、チームメイトやグラウンドに駆け付けた家族、旧友、対戦相手、ファンから祝福され、100試合記念Tシャツを着て喜びに浸った。

ラグビーを続ける上で大切にしてきたことは「負けたくないという強い気持ちとラグビーを楽しむこと」。今季開幕戦(9月14日のライオンファングス戦)にメンバー入りし、トップイーストリーグ通算100試合出場達成が近づいた瞬間、「これまでの試合を思い出し、いよいよかという気持ちになりました」。(撮影/山形美弥子)


 35歳、14年目のシーズン。
 チームのトップイーストリーグ開幕戦と共に節目を迎えた。
 年間の試合数は10ほど。リーグワンに比べ試合数が少ないトップイーストリーグで戦い続けてきた。100試合は、那須自身も意識してきた数字だった。

 4歳の頃、広島県のフレンズスポーツクラブで楕円球に触れた。五日市ジュニアラグビースクールで本格的にプレーを始める。その後神奈川県に引っ越し、川崎市ラグビースクール、東海大相模中・高→東海大を経て横河武蔵野に入団した。
 大学時代の1学年上には東芝ブレイブルーパス東京で活躍する三上正貴、リーチ マイケル、豊島翔平がいる。
 豊島とは東海大相模高の時から同チームでハーフ団を組んでいた。

 試合前日のジャージプレゼンテーションでは出場メンバーからこんな言葉が飛び交う。
「那須さんのために」
 また、サプライズ登場した家族からジャージを受け取った。目頭が熱くなった。
「みんなと100キャップを迎えられて嬉しく思います、1点でもいいので絶対勝ちましょう」
 勝ちに対する執念、チーム愛が溢れる。1年目の新人選手が試合を楽しめるよう気を配る発言もあった。

長く活躍できている秘訣は「(身体はかたいのですが)怪我が少ないことですね。あとはチームの求めている戦術を理解し遂行すること」。ファーストキャップは2012年9月8日トップイーストリーグDiv.1の三菱重工相模原戦。写真は2019年11月10日セコムラガッツ戦。27-28の僅差で横河武蔵野が勝利した。(撮影/山形美弥子)


 試合当日、アウェイということもあり緊張があった。しかし、各地から応援に来てくれた人たちの顔を見て緊張がほぐれた。
 厳しい展開になる。そんな予想が的中したが冷静に球をさばき、指示を出し、気を吐いた。
 汗で滑るボールを丁寧に持ち、放ち、蹴り、チャンスをうかがう。

 7-14とライオンを追いかける前半39分、FW陣がモールでトライライン直前まで前進した。残り5メートルでできたラックからブラインドサイドにスペースを見つけ、自らインゴールに飛び込み12-14と差を縮める。
 100試合出場に加え、トライも挙げた。会場が沸いた。

 2点を追いかける後半12分、敵陣10メートル地点での那須のジャッカルから10番の桑田敬士郎がPGを狙うも、ボールは惜しくもゴールポストから逸れてしまう。17分に再度PGを狙い15-14と逆転に成功する。
 後半24分、リードを保ったまま21番の宮川と交代した。

「1年目の新人選手が試合を楽しめるように」と話していた那須に代わって登場した1年目の新人、宮川博登は、前日のジャージプレゼンテーションで「100キャップを目指したいです」と意気込んだ。
 那須はその姿勢を見ながら、感慨深く微笑んだ。

 25-17で勝利して心に浮かんだのは、「今回だけではなく、今までかかわってくれた人に感謝を伝えたい。あらためてラグビーっていいな」との思いだった。
 100試合達成してもてもなお闘志を燃やし続ける。「抜け殻じゃない。達成してもモチベーションは落ちない」。

生え抜き最年長選手の那須にとっての記念すべき一戦に臨むにあたり、1点差でもいいから勝利で祝おうと心を一つにしたチームメイトたち。結果は25-17で横河武蔵野が逆転勝利。「チームの雰囲気はとてもいい。若手からベテランまで、ラグビー中もそれ以外もコミュニケーションが取れていて、いい意味で壁がない。ただ去年はとても悔しい思いをしたので、もう一段階ギアを上げてステップアップする必要はある」と語る。(撮影/山形美弥子)


 グラウンド内外で積極的に話し、若い選手がのびのびプレーできるような雰囲気作りを心がける。
「大前提として負ける気はないけど後輩たちには成長してほしい。新人の頃、自分がそうしてもらったから、いまそうしている」
 ラグビー人生でたくさんの経験をしてきた。だからこそチームに還元したいと語る。

 チームをファミリーとも呼ぶ。
 愛があるゆえ、古き良き伝統を引き継ぐこともベテラン選手としての生き様。多少の痛みを我慢してでもプレーするのは、負けたくない気持ちからくる。

 数字の勉強をしている4歳の娘から先日こんなことを言われた。
「100すごいね、がんばったね」
 年々涙もろくなる。嬉しそうに、そう語った。

 シーズンはまだまだ続く。目標のBリーグ優勝、Aリーグ昇格のために那須の存在は、チームを良い方向へ導く。

武蔵野ラグビースクールで中高生を指導することもある。「ラグビーの楽しさを知ってもらえるように活動をしています。自分自身ラグビースクール時代に社会人チームの選手から教えてもらって、将来アトラスターズでラグビーをしたい、ラグビー選手になりたいと思えたので」。(撮影/山形美弥子)


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