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8万1885大観衆の前でパワー全開。イングランド、カナダ圧倒しW杯3度目優勝
イングランドのゾーイ・オルドクロフト主将がシャンパンを浴びながら優勝トロフィーを掲げる。(Photo/ George Wood - World Rugby/World Rugby via Getty Images)
2025.09.28
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8万1885大観衆の前でパワー全開。イングランド、カナダ圧倒しW杯3度目優勝

田村一博

 8万1885人の観客がスタンドを埋め尽くした。
 白いジャージーの塊が赤のパックをひねり潰すたびに地鳴りのような歓声が沸き起こる。その異様な空気は、勝利の瞬間が訪れる直前から最高潮に達し、やがて歓喜の時が訪れた。

 9月27日、イングランドで開催されていたワールドカップ2025(女子)のファイナルがアリアンツスタジアム(トゥイッケナム)でおこなわれ、イングランドがカナダに33-13のスコアで勝ち、頂点に立った。
 2014年大会以来3大会ぶり、3度目のワールドカップ優勝となった。

 大会前にイングランド代表が発行したメディアガイドには、チームを率いるジョン・ミッチェル ヘッドコーチの、大会の意義についてのメッセージが載っている。

「ワールドカップに参加する16か国512名の選手たちがかつてそうだったように、世界中の何百万人もの少女たちにとって、大きな夢を目指すきっかけとなる」の思いは、現実のものとなった。

 自分たちのスタイルを貫こうと女子ラグビー界の巨人に挑み続けたカナダ。イングランドは、そのチャレンジャーを力でひねり潰す。
 女子ラグビー史上最多観客の見つめる中でのファイナルを見て、自分もそんな空間に身を置きたいと思った若者たちが世界中にあふれるだろう。

前半8分、イングランドのFBエリー・キルダンはトライを奪う。同選手は何度も好走を見せてチャンスを作った。(Photo/ Alex Davidson – World Rugby/World Rugby via Getty Images)


 イングランドの主将、ゾーイ・オルドクロフト(FL)は、大観衆だけでなく、テレビ観戦のファンも含めて「見守ってくれた人々にありがとうと伝えたいです」と言った後、「女子ラグビーを新しく作り変える。そして、若い子どもたちに大きな夢を抱かせる。きょう、その第一歩を示せたと思います」と続けた。

 オルドクロフト主将はファイナルを振り返り、「きょうは最高の出来でした。仲間たちが身体を張ってくれたことに感謝します」と話した。
 その言葉通りイングランドは、詰めかけたファンの期待に応えるかのように、今大会のベストパフォーマンスを発揮した。

 前半5分、マイボールラインアウトを失ったところから攻められ、カナダのWTBエイジャア・ホーガン=ロチェスターに右サイドを走り切られて先制を許した。
 大会2連覇中だったニュージーランドをセミファイナルで34-19と圧倒した相手の勢いを強く感じるシーンだった。

 赤いジャージーの先制機、スタジアムは一瞬静まり返った。しかし、その時間はすぐに終わる。
 イングランドは前半8分、FBエリー・キルダンが防御を切り裂くランニングを見せる(コンバージョンキックも決まり7-5と逆転)。今大会5トライ目、2トライを挙げたセミファイナルに続く快走はチームを勢いづけた。

 背番号15の同点トライを機に、イングランドは大きなモメンタムを得た。
 前半19分、モールを押し切る。26分にはスクラムを押し込み、最後はNO8アレックス・マシューズがトライラインを越えた。

イングランドはスクラムの圧力で試合の主導権を握った。(Photo/ George Wood – World Rugby/World Rugby via Getty Images)


 21-5とイングランドリードで迎えた前半27分から、カナダに自陣に攻め込まれる時間帯があった。
 リスタートのキックオフを蹴ったカナダがボールを手にして攻勢に転じた。13フェーズの攻撃を重ねた赤ジャージーを好タックルで止め続けた。カナダは我慢し切れずにショートパントを蹴った。

 その後、再びラインアウトから攻められ、反則からゴール前に入られる。カナダにモールを組まれるも、ボールを取り返してタッチキックで逃げる。
 その後のラインアウトを起点にしたアタックでも9フェーズを重ねられたが、どうしても攻め切れぬ状況にカナダは33分、PGに切り替えた。
 6分以上攻め続けて3点しか奪えなかった側の受けたダメージはメンタル的にも大きかっただろう。

 21-8とイングランドリードで入った後半も、イングランドがコリジョンの強さと堅守、優勢なスクラムで試合を制圧する構図は変わらなかった。
 プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたFLのサディア・カベア。20回のタックルに成功したほか、よくボールに絡み、ディフェンスから自分たちのリズムを作る役をやり切った。

 カベア以外にも、LOモルウェンナ・タルリングの22、FLオルドクロフト主将の20、NO8マシューズが18、HOエイミー・コケインが13と、イングランドFWはタックルの雨を降らせた。
 ピック・ゴーを徹底したカナダのボールキャリーはイングランド(91)の倍近い176。逆にタックル数はカナダの108に対し、イングランドは209と、ほぼ倍。勝者がいかにタフに戦ったか分かる。

 カナダのCTB、アレックス・テシェール主将は、「スクラムを中心に大きなプレッシャーを受けた。リズムをつかめず、連係も欠ける時間帯もありました。自分たちのラグビーをやり切れなかった」と話し、イングランドのプレッシャーに屈したことを伝えた。

 ファイナル前、準決勝の両チームのパフォーマンスを比べ、ブラックファーンズに快勝したカナダ有利と見る向きも多かった。
 しかしイングランドは、マストウィンの試合に今大会のベストパフォーマンスを出した。

カナダも自分たちのスタイルで攻め続けた。写真はWTBアリシャ・コリガン。(Photo/ Morgan Harlow – World Rugby/World Rugby via Getty Images)


 戦前、ジョン・ミッチェルHCは「ここからが本当に大事」と自分に言い聞かせて過去の戦いを忘れ、カナダに勝つ策を見つけること、「選手たちに勝利のための道を示す」ことに集中したと言い、戦いに臨んだ。

「重要なのは、カナダに対してどう戦うか。何が有効か、どこでプレッシャーをかけられるか。完璧である必要はありません。優勝するために必要なのは(この一戦に勝つために) 仕上げられていること」
 その言葉を体現してチームを勝利に導いた。

 止められても止められても、自分たちの積み上げてきたものを出し続けて力尽きたカナダにも称賛の声は届いた。
 頂上決戦に大観衆が集まった光景と、両チームの見せた勝利への情熱は、強く人々の記憶に刻まれた。多くの選手たちが願うように、それは、女子ラグビーの新しい歴史の扉を開くものとなるのかもしれない。








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