logo
早大ラグビー部、企業ロゴ入り赤黒ジャージーお披露目。
左から早大ラグビー部・野中健吾主将、大田尾竜彦監督、田中勇成副将。(撮影/生島淳、以下同)

早大ラグビー部、企業ロゴ入り赤黒ジャージーお披露目。

生島淳

 伝統の赤黒ジャージーに、企業の味方が加わった。
 背中の背番号の上には三井住友銀行の「SMBC」のロゴが入り、パンツの左大腿部裏側にはリオ・ホールディングスの「RIO」のロゴがあしらわれた。

 日本ラグビー協会は今年の春、大学生以上のチームを対象とした商業活動の運用ガイドラインを改正。大学の公式戦において企業等の広告が掲載されたユニフォームを着用することが解禁となった。
 これに伴って、早稲田は4月からスポンサーを公募。田中愛治早稲田大学総長によると、「理事会への決定を経て」、三井住友銀行とリオ・ホールディングスの2社がスポンサーに決まった。

 支援を受けることが決まったラグビー部を預かる大田尾竜彦監督は、「スポンサーロゴが入るのは、学生スポーツの大きな分岐点になります。早稲田のラグビー部は、108年間ひたすら自分たちのオリジナリティによって、貪欲に日本一を目指してきたチームです。今回、スポンサー企業にご協力いただくことで、歴史的な1年になりますし、頂点に立てるよう努力していきたいです。記録にも記憶にも残る1年にしたいと思います」と話した。

 また、野中健吾主将は、「ジャージーとロゴに恥じないいいプレーをお見せしたいです」と抱負を語った。

今季開幕戦、札幌での日体大戦が初の着用試合となる。

◆早稲田ラグビーへの思い。


 会見では、中島達氏(三井住友フィナンシャルグループ執行役社長 グループCEO)と、中川智博氏(リオ・ホールディングス代表取締役)も参加したが、ふたりのラグビーとのかかわりが興味深かった。

 まず、中島氏は東京大学ラグビー部OBで、学生時代のラグビー体験を語った。
「今回、協賛させていただきます早稲田大学とは、大学3年、4年の時に対抗戦で試合を致しました。当時、東大対早稲田は秩父宮で行われておりまして、5、6000人のお客さんを集めていたほどです。試合が終わりますと、宿沢さんがスタンドから降りてきまして、早稲田の選手ではなく、私に『中島君、頑張ってたじゃないか』と声をかけてくれました」

「宿沢さん」とは、言うまでもなく早大OBで元日本代表の宿沢広朗氏のこと。中島氏は住友銀行の就職活動時に宿沢氏と知己を得て、宿沢氏は内定者である中島氏をわざわざねぎらいに、グラウンドまで降りてきてくれたという。
 調べてみると、これは1985年10月6日の試合で、早大が38対3で勝利している。
「宿沢さんの母校を応援できることにご縁を感じます」と中島氏は話した。

 また、中川氏は1985年に早大入学。この年の早明戦で隣に座った女性と結婚、それ以来、早慶戦、早明戦の観戦を欠かしたことはないという。

◆新たなチャレンジの土台に。


 両社の支援を受けることになったラグビー部だが、早稲田ほどの知名度を誇る大学ラグビー部にとっても、かなりありがたい財政面でのバックアップになるようだ。
 まず、期待されるのは強化費の増額と、部員の経済的な負担の軽減。こうした現実的な問題について、恩藏直人ラグビー部長はこう話した。

「部員は、部費として年間16万円支払っておりまして、プラスで合宿の費用などを合わせますと、年間で40万円ほどの負担を保護者の方にお願いしております。アルバイトもなかなかできない状況ですので、今回、ご協賛いただくことで、部員の経済的負担と、競技力のアップが期待できると考えております」

 ふだん、部費の話などは聞くことができないので、これは貴重な情報だったが、各家庭にとっては今回の協賛はかなりの朗報になるだろう。

前列左から、恩藏直人早大ラグビー部部長、中川智博リオ・ホールディングス代表取締役、中島達 三井住友フィナンシャルグループ執行役社長 グループCEO、田中愛治 早大総長


 強化現場にとっては、どうか。大田尾監督はこう話す。
「最近の物価高によって、いろいろ考えなければいけないことが出てきてまして、たとえば合宿での食事の内容にも影響してくるわけです。ただ、ウチの場合は全員が寮生というわけではなく、ひとりで暮らしている学生もいるので、基本的には部員全員が共有できるように分配していきたいと思っています」

 加えて、まだまだ「大学ラグビーはアマチュア」という考え方をする人が支配的だが、こと運営する側には、よりプロフェッショナルな姿勢が求められるようになっていると話す。
「もちろん、学生はアマチュアです。ただし、競技の競争力の維持を考えると、指導者のプロ化や、クラブの運営については専門性が求められる時代に入ってきたのかな、と思います」

 昨今、コーチが常駐できるかどうか、それを支える財源の有無は、各大学にとって死活問題になっている。今回の協賛は、早稲田にとって新たなチャレンジの土台となるかもしれない。

新シーズンへの手応え。


 2社のロゴが入った新ジャージーは、対抗戦の開幕戦となる日体大戦(9月13日、北海道・月寒屋外競技場)でお披露目となる。夏合宿を終えて、いまは初戦への準備段階だ。
 野中主将は、今年のチームの強みをこう話す。
「スピーディなアタックと粘り強いディフェンスだと思ってます。今年は、とにかくチームがひとつになること。これを意識してやっていきます」
 大田尾監督も、それなりの手応えを感じた様子だ。
「夏までに、“戦える土台”はしっかり出来たと思っています。あまり先を見据えすぎてもよくないので、まずは初戦の日体大、そして2戦目(9月28日、立教戦/秩父宮)を大切にしていきたいと思います」

 菅平での最終戦では、FBの矢崎由高、FLの松沼寛治のふたりも復帰。陣容は整いつつあるが、さて、冬までどれだけチーム力を上げていくことが出来るだろうか。

 そして最後に、大田尾監督は協賛を得て戦う新シーズンに期するところを話した。
「早稲田ラグビーのビジョンとして、ラグビーを通して夢と感動を届けるというものがあります。スポンサーの方々には、全員がひとつになって大きな目標に挑戦するというところに共鳴して、支援していただいていると思いますし、そうした姿を見せることが我々にできることだと思っています」

 今季のスローガンは「One Shot」。ラグビーに縁のある2社の協賛を得て、2025年の早稲田ラグビーがいよいよ始まる。


ALL ARTICLES
記事一覧はこちら