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【with サクラフィフティーン/RWC2025⑫】かつてのホームでの感激。そして「4つの肩」と思わせる挑戦。
左から谷口令子アシスタントS&Cコーチ、小林花奈子、谷口琴美。(撮影/松本かおり)
2025.09.03
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【with サクラフィフティーン/RWC2025⑫】かつてのホームでの感激。そして「4つの肩」と思わせる挑戦。

田村一博

 この先にもっと幸せを感じることがあるだろうが、いまが最高と思える人生はいい。

 サクラフィフティーンの小林花奈子は、8月31日のニュージーランド戦、後半26分からピッチに出た。
 2022年に開催された前回ワールドカップは、怪我で出場を逃したから、待ちに待った瞬間だった。

 試合には19-62と敗れ、「ターゲットとしていたベスト8に行けなかったのは残念です」と悔しんだ。
 ただ、「(NZ戦は)初戦のアイルランド戦が終わったあとに、もう一度みんなで一致団結しました。(結果)最初に殴り込む、とうことはできたと思います」と手応えも得た。

「最後のスペイン戦はしっかり勝って、笑い、最後に素晴らしいラグビーをみんなに見せつけて日本に帰りたい」と話した小林は、以前、プレミアシップ・ウィメンズのエクセター・チーフスに所属していた(2021-22シーズンから3季)。
 当時、自分たちのホームとしていたスタジアムで思い焦がれていた大会に出場できたのだから、「ラグビーをやっていて、こんなに嬉しい経験をすることは、もうないだろうなと思っています」と感激の気持ちを吐露した。

「ずっとターゲットにしていたワールドカップに出られたっていうことも嬉しかったし、そこがサンディーパークだったこともすごく嬉しくて」
 会場ではファンに、「あれ、チーフスにいた花奈子だよね」と話しかけられた。「そのグリーンのヘッドキャップ、チーフスの時に見たぞ」と。

明るい表情から、チーム内の前向きな空気が伝わる。よく食べる谷口琴美の本格的な食べ歩きは、まだのよう。「紅茶が好きなので、楽しんでいます」。(撮影/松本かおり)


「ホームのような感覚でラグビーをできました。試合が終わり、スタンドの人たちに挨拶に行ったときには、いいラグビーだったよ、という声が聞こえて、嬉しくて、感動しました」
 チーフス在籍時に現地でお世話になった方々にも会えたし、たくさんのメッセージも届いた。
 すべてをエナジーに変えて、最後のスペイン戦に挑む。

 小林がそんな胸の内を話したのは9月2日。チームは前日にエクセターから列車で移動し、最終戦の地、ヨークに入っていた。
 この日の午前におこなわれたメディア対応には、HOの谷口琴美、谷口令子アシスタントS&Cコーチも出席した。

 アイルランド戦、シルバーファーンズ戦とも後半途中からピッチに立った谷口琴美は、小林同様、目指していた8強進出が成らなかったことを悔やみながらも、「ニュージーランド戦は(力を出しきれなかった)1 試合目からチームを立て直し、自分たちがやりたいこと、やるぞという意思を、みんなに見せる試合ができたので、そこは良かったと思います」と前向きだった。

 そして、「最終戦に絶対勝って、笑って日本に帰れるようにもう 1 回チーム一丸となる」と話した。

 前回W杯も、その直前に戦い12-95と大敗したブラックファーンズ戦も経験している谷口は、チームが3年かけて成長した点について、体感を語った。
 2022年に漆黒のジャージーに15トライを奪われた試合では、実は、「何もできなかったから全然疲れなかったんですよ」と回想する。

落ち着いた空気のヨークの街。犬も多い。(撮影/松本かおり)


「ずっと、ただ走られて、その繰り返しでした。でも、今回はコンタクト周りでも戦えたし、ダブルタックルで、ニュージーランドにオフロード(パス)をやりたいようにやらせなかったから、相手の勢いを止められました。それで、私たちがやりたいディフェンスを続けられた印象です」
 後半に日本の時間が増えたのには、そんなところに理由があった。スクラムでもラインアウト、モールでも、戦える領域は大きく増えた。

 小林も谷口も感じているように、戦える時間が増えたのにスコアを開かれて負けた。土台を厚くして臨んだ大会で残ったその事実、そしてそこにある差こそ、これから先、サクラフィフティーンが世界上位に進出していく上で覆していかないといけないものだ。

 バックスの小林は、「相手のスピードは予想していた通り」としたが、経験してきた以外のことに戸惑ったという。
 プレーしていたプレミアシップ・ウィメンズにも、同様にスピードスターはいたけれど、「それはチームに何人かなんですよ。でもニュージーセンドは、みんな速くてスキルが高い。全員キーマン(としてマークしないといけない)のような感じでした」と、その厄介さを語った。

 そして対応策としては、常にコミュニケーションとディテールを大事にして、攻守とも1対1のシチュエーションを作らないようにするしかない、とした。

 フォワードの谷口は、「積み上げてきたことに自信を持って、それらをぶつけて戦った結果、前回(NZと戦った時より)ラック周りや相手フォワードを止められた実感はありました」と言い、「止めている間に、フォワードが(内側に)寄れば外を攻められ、ディフェンスを広げられた時には近場など、空いているところを攻めてくる強さがあった」とピッチ上の現実を話した。

おつまみセットとビール。これで5000円近い。


 体格と接点の強さを考えると、「1対1では止められないので、どうしても2対1で止めるしかありません。なので、タックルして、もっとはやく起き上がり、広がる、というハードワークしかないと思います」

 今回の試合では、「私たちには肩が2つしかないけど、相手に4つあると思わせるぐらいタックルをしようという目標を立てていました」という。
「フォワードとバックスがコネクションを持った組織ディフェンスを80分し続けて戦うしかないと個人的には思います」と締め括った。

 世界トップクラスの背中との距離はなかなか縮まらないが、サクラフィフティーンが進化していることは、谷口令子コーチも認める。
 WXV(過去2年実施された女子の世界大会)などで強豪と連戦で戦う機会も増え、「選手たちの体はかなり強くなっています」。

 今大会でも、それは証明されている。
 選手たちは初戦のアイルランド戦で相手の体の強さを感じ、大きく疲労したようだった。しかしニュージーランド戦、相手の速さとスキルにやられたものの、体は動いていたし、試合後の疲労度も想定内。「前回大会は、1試合ごとに疲弊していきましたが、いまのチームは試合ごとにリカバリーして臨めています」とのコーチの証言は心強い。

「最後の試合ではもっといいラグビーをして、勝って終われると思います」
 チームの結束と、勝利への思いが少しも衰えていないと、伝わる。

W杯中継をやっているパブも当然ある。(撮影/松本かおり)



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