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熊谷と花園はPEARLS。北九州は、ながとブルーエンジェルス(以下、NBA)が制した。
太陽生命ウィメンズセブンズシリーズの2025年シーズンは、過去の大会とは違う方法で年間チャンピオンを決めることになっていた。
冒頭の3大会での獲得ポイント上位8チームが、グランドファイナルに進出し、ノックアウト形式で優勝を決めるスタイルだ。
8月17日、札幌の大和ハウスプレミストドームが決戦の舞台となった。
普段の2日間の大会と違い、1日のうちに決着がつく。大会当日は、一日中緊張感のある空気が漂っていた。
12のコアチームのうち、9位以下のチーム(大会ごとにメンバーが変わり、個々の選手の強化が目的のチャレンジチームは除く)は、チャレンジトーナメントでの上位チームとの入替戦もあったから、『天国か地獄か感』が全試合にあった。
そんな1日のクライマックスに登場したのは、今季の優勝経験チーム、PEARLSとNBAだった。
PEARLSは優勝2回と3位1回で、今季3戦の総合勝ち点56で1位。NBAは優勝、3位、4位が1回ずつの総合勝ち点50で3位。
3位、2位、2位で勝ち点52のナナイロプリズム福岡が2位で札幌に乗り込んだが、準決勝でNBAが26-14のスコアでナナイロを退け、ファイナリストとなった。


前半9分30秒、後半7分58秒、そして延長戦2分16秒と、結果的に19分44秒の戦いとなった熱戦は、PEARLSのペースで始まった。
先制トライを挙げたのは大内田夏月。ターンオーバーから速攻で攻め込んだPEARLSは粘り強くボールをつなぎ、攻め切った。
さらに4分過ぎには、相手PKがタッチに出す、そのボールを手に自陣から攻めた。サラ・ヒリニのパスが防御を切り、オリブ・ワザーストンが左サイドを走り切る(4分39秒)。12-0とした。
しかし、過去2シーズンの年間王者であるNBAの反撃が始まる。号砲を鳴らしたのは東あかりだ。
相手のトライメーカー、タリア・コスタが外に仕掛けるところをきっちり止め、前に出て反則を誘うシーンもあった。前半最後のトライ(プルーニー・キヴィット)につながる敵陣への侵入は、この人のハードワークから始まった。
7-12とリードされた状態で後半に入ったNBAは、1分40秒過ぎに平野優芽主将が抜け出して敵陣へ入った後、攻撃を重ねてPKを得た。
その瞬間、強気の大谷芽生が速攻を仕掛け、防御をぶち抜いて同点トライを挙げた。
選手たちが極限の集中力を発揮し、それを見つめるファンが手に汗にぎる展開の試合は、後半終了時まで決着がつかなかった。
どちらかが得点すれば終了となる延長戦に突入してのファイナルは、毎年レベルが高まる大会の頂上決戦にふさわしいものだった。

緊張感が最高潮に達する中での両チームのハドル。NBA側では、ある指示が出た。声の主は内山将文アドバイザー。キックオフボールのレシーブ後、敵陣深くにボールを蹴り込むように選手たちに伝える。
「以前にも使ったことがある作戦でした。ゴール前で守る時間帯も少なくなかったので、敵陣でプレッシャーをかけようと話しました」
プランを実行した選手たちの遂行力に拍手だ。
PEARLS須田倫代の蹴り上げた延長戦開始のキックオフボールを田中笑伊がキャッチ。ラックから平野主将がキヴィットにパス。背番号12の蹴ったキックが敵陣深くまで飛んだ。
PEARLSの選手たちが背走する。そこにNBAの大谷が好チェイスから圧力をかけ、その後、全員で前へ出るディフェンスを続けた。
結果、PEARLSにキャリーバックさせたNBAは攻撃権を手にした。最初のスクラムから出たボールを一度は相手に渡すも、再び防御で前に出て取り返す。2度目のスクラムをゴールポスト前で得た。
決勝のトライは平野主将が決めた。右にボールを持ち出し、膨らみながら走る。相手ディフェンダーの出足をうまく使いながら、タテに出てトライラインを越えた。本人が何度もトライを挙げてきた、得意なプレーだ。
平野主将が、後半が終わってから勝利までの数分間を回想する。内山アドバイザーからのキック指示は、「延長戦が決まり、コイントスでレシーブと決まった時に出ました」。
自身の決勝トライのシーンについては、「直前のスクラムでもチャンスがあったのですが、自分のパスが原因で取り切れなかった。でも、もう一度スクラムになった時、自分がボールを持てばいける感覚があった」から走った。
大事な場面で力を出し切る秘訣については「思い切りプレーすること」とした。
過去の年間優勝は、各大会で得たポイントを積み重ねて得たもの。そんな道を歩んできたから、新しく採用された『最後の大会の一発勝負』のシステムに、「自分たちには不利かも」と感じたことがあったという。

しかし、NBAにとって今季は厳しいシーズンとなった。シーズン途中のヘッドコーチの突然の退任など予期せぬ出来事もあり、安定した力が出せなかった。そんな中で、自分たちのアイデンティティーについて全員で話し合い、なんとか上を向いて戦い続けた。
結果、全員が終わったことにくよくよせず、札幌の大会には「きょう勝てたらいいや」という気持ちで臨めた。
「きょうの3試合に私自身もチームも懸けていました。その気持ちがプレーに出たと思います」
特に気迫が感じられたのが準決勝のナナイロプリズム福岡戦だ。今季何度も負けた相手を序盤から飲み込んだ。
「今季苦しめられていて、厳しい試合になると覚悟していましたが、勝ちたい気持ちが強かった。みんな闘志剥き出しでプレーしました。一つひとつのプレーに気持ちが表れたと思います」。
自分たちがそうであったように、今季もっとも多くの勝利を重ねてきたチーム、PEARLSは強い。ナナイロプリズム福岡の進化にも目を見張った。
そんなふうにリスペクトする相手に勝って、苦しいシーズンを終えることができたから嬉しさも大きい。大会史上初の3季連続年間王者も誇らしいが、違う意味でも忘れられぬシーズンになった。

横河武蔵野アルテミ・スターズ×早大ラグビー部女子部、アルカス熊谷×ブレイブルーヴ、追手門学院大女子ラグビー部VENUS×日本経済大女子ラグビー部AMATERUSの3カードでおこなわれた入替戦は、すべてコアチームが勝利した。
上位チームの充実もあり波乱は起きなかったが、チャレンジした側のレベルアップも感じられたから、1日のうちに退屈な時間は少しもなかった。
NBAの平野主将は、空調の効いたドーム型スタジアムでのプレーを楽しみ、「ワールドシリーズもバンクーバー大会はドームでのプレー。その経験はありましたが、野球場は初めてだったので新鮮でした」と話した。
試合のレベルも含め、プレーする選手、それを応援するファンにとっても、満足度の高い1日だった。
試合がおこなわれているあいだ外は雨模様だったと聞けば、その思いはさらに強くなる。