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「世界一になったのは過去のこと。世代交代をしたうえで、それができるのかが今後重要になる」
キャプテン・橋本勝也の思いを体現するかのように、3年後のロス・パラリンピック出場を狙う若手が躍動した。
7月24~26日、車いすラグビーの国際大会「JPSA設立60周年記念 2025ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」がウィングアリーナ刈谷(愛知県刈谷市)で開催され、日本(世界ランキング1位 ※)、韓国(同14位)、ニュージーランド(同8位)の3か国が、白熱した戦いを繰り広げた(※2025年7月21日現在)。
ベテランと若手の力を結集した日本は、4戦4勝で予選ラウンドを終えると、決勝では韓国を56-49で下し、全勝優勝を果たした。
◆急成長する韓国を退けた日本のチーム力。
決勝へと駒を進めたのは、日本と韓国。
予選ラウンドでの2回の対戦は、47-42、53-47と最終的に日本が引き離したものの、初戦では韓国がリードする時間帯もあるなど、韓国の本気度と急成長がうかがえた。
「全員で勝つ」を今大会のテーマに掲げた日本代表は、橋本勝也―白川楓也―小川仁士―長谷川勇基の、パリ金メダルメンバー3名を含む盤石のスターティング・ラインアップで決勝に臨んだ。
安定した立ち上がりを見せた日本は、メンバーチェンジを繰り返し、次々と若手をラインアップに加えながら、15-11と第1ピリオドでリードを奪う。
しかし、第2ピリオドではミスが続き、じりじりと追い上げられ26-26の同点で試合を折り返した。

日本は後半、アジアの、世界のリーダーとしてのプライドを示すかのように、ディフェンスの強度をぐっと高めた。
パスコースを塞ぎ、相手のスローインを阻止したかと思えば、高い位置からプレッシャーをかけ、相手のボールをフロントコートへと運ばせない鉄壁の守備を見せ、ターンオーバーを重ねながら、再びリードを広げていった。
オフェンスでは、橋本―白川の息の合った連係からのトライや、力強いランを持ち味とする堀 貴志のゴール、さらには、障がいの重い若山英史や草場龍治がスペースに走り込んでスコアするなど、アグレッシブに攻め続けた。
12人のメンバー全員がコートに立った日本は、一度も韓国にリードを許すことなく56-49で勝利を収め、全勝優勝を果たした。
両チーム最多となる27得点をマークしたキャプテンの橋本は、「目標通り、全員が出場したうえで勝利することができたのは、とても意味のあることだと思う。課題はたくさんあるが、日に日によくなっていくチームを皆さんに見せることができた」と大会を振り返った。

◆ベテランと若手の融合チームで臨んだ日本代表。
世界レベルの国際大会が予定されていない今年は、各大陸(ヨーロッパ、アメリカ、アジア・オセアニア)選手権がWWR(ワールド車いすラグビー)公式戦としておこなわれる。
日本代表にとって最大のターゲットとなるのは、11月にタイで開催される、アジア・オセアニア選手権(2025 WWR Asia Oceania Championship、以下AOC)だ。
3年後のロス・パラリンピックを見据え、まずは来年の世界選手権への出場権がかかる同大会で、12名の日本代表メンバーに入ることを多くの選手が目標にしている。
今大会のメンバーのうち、パリ・パラリンピック出場組は6名。その選手たちを除いた6名のほとんどが国際大会の経験が浅い若手だ。
長く“日本代表のチーム最年少”として数々の国際大会を経験し、パリではチーム最多得点をマークするなど、日本のエースへと成長した橋本勝也は現在23歳。若手と呼ばれる選手たちと同世代の橋本は、強いニッポンを継承する覚悟だ。
「世界一になったのは過去のことであって、世代交代をしたうえで、それができるのかが今後重要になる。『この人がいた時代は勝てたけれども、この時代になったら勝てないね』とは言われたくない。それは選手全員が考えていることだと思うので、今後の合宿でつめていきたい」
橋本の言葉を表すかのように、今大会では若手の奮闘が目立った。
大会を前に、中谷英樹ヘッドコーチは若手選手に「とにかくアピールしてほしい」、「海外のチームに対してどれだけやれるのか試してほしい」と伝えたという。
一方で、ベテラン勢には「若い選手がどんどん発言をしやすい環境を作ってほしい」と要求した。
今回、全クラスのうち最多の3名が選出されたのが、クラス2.5のミッドポインターだ。車いすラグビーでプレーヤーは、障がいの程度や体幹などの機能によって7つのクラスに分けられる。ミッドポインター(クラス2.0と2.5)は、その中間にあたる。攻撃と守備の両方が求められ、ラインアップではつなぎ役も担う。

クラス2.5の堀 貴志、荒武優仁、青木颯志は、全5試合を通して三者三様のパフォーマンスを発揮した。
車いすの漕ぎだしの速さを強みとする堀、パスの飛距離が持ち味の荒武、そして、今後の伸びしろが期待される20歳の青木。
このうち最年長38歳の堀は、昨年11月のSHIBUYA CUPでクラスが2.0から2.5へと変更された。
「2.0はラインアップの中でバランスをとる役割が大きいが、2.5以上になると自分で積極的に攻めていかなければならない。ボールを運び、突破する力が、より必要になる」
日本代表としてベンチ入りできるのは、わずか12名。厳しいことを言えば、ポジションごとに選手が選ばれる競技とは違い、全クラスから選出されるとは限らないのが車いすラグビーだ。
実際のところ、東京パラリンピック以降、主要な国際大会で日本代表の2.5は不在となっている。堀は、「3人でスキルを高め合って、2.5の価値を上げていかなければいけない」と話し、自身の目標をこう語った。
「いい歳ではあるが、ロスのパラリンピックで、キャリアの花を咲かせたい。まずは日本代表として生き残れるように、チームをしっかり高められる一員として参加できるようにがんばっていきたい」
新たな世代、これからの日本代表が、どんなJAPANラグビーを作り上げていくのか期待したい。

◆韓国代表の躍進を支えた日本との絆。
今大会の舞台となったウィングアリーナ刈谷は、来年10月に愛知・名古屋で開催される「第5回アジアパラ競技大会」の車いすラグビー競技会場として使用される。
アジアパラ競技大会で車いすラグビーがおこなわれるのは、2014年の韓国・インチョン大会以来、3大会ぶりとなる。
そこで、日本のライバルとなるのが、韓国だろう。
韓国代表は、2023年のAOCからメンバーを大幅に変え、スピードも強度も増した。
高さとパワーを武器とするポイントゲッターのリ・ソンヒ、ミッドポインターとして世界トップレベルのパフォーマンスを誇るパク・ウチョル、ディフェンスとハードワークを強みとするキャプテンのパク・スンチョル。2019年以来6年ぶりに代表に復帰した、キープレーヤーたちのパフォーマンスが、チーム力を押し上げた。
注目すべきは、3選手とも韓国国内に加え、日本のクラブチームにも所属しているということだ。
パク・ウチョルとパク・スンチョルのパク兄弟は、福岡を拠点とする「福岡ダンデライオン」に所属し、リ・ソンヒは、キム・コンヨプとともに、今年4月に結成された新チーム「COAST」のメンバーとして、7月の日本選手権・予選に出場した。

コロナ禍を挟み5年以上、福岡ダンデライオンに在籍しているパク兄弟は、チームメートを家族のようだと話し、日本で学んだことは大きいと口をそろえる。
「これまで経験することのなかった戦術や、試合に臨む心構えを学び、もっと努力しなければと刺激をもらった。福岡に通って実力を積み上げて、今こうして強くなれた」(兄・スンチョル)
「韓国でラグビーをしているだけでは、世界的なプレーヤーに会うのは難しい。日本で、橋本勝也選手をはじめとする世界トップレベルの選手たちと試合をするなかで自分の実力が上がり、韓国の選手たちの成長にもつなげることができたと感じている」(弟・ウチョル)
そして、韓国代表のキャプテンを務めたパク・スンチョルは、チームが成長した理由をこのように語った。
「以前、一緒にやっていた選手たちが(代表に)戻ってきて、言わなくても伝わるのでプレーがしやすい。スキルもパフォーマンスもみんな上がり、お互いを信じるプレーができるようになったことで強くなった」
試合では、福岡ダンデラインのチームメートである堀 貴志と草場龍治がパク兄弟とマッチアップする場面や、COASTの青木颯志がリ・ソンヒ、キム・コンヨプと対立するシーンもあり、会場を大いに沸かせた。
11月のAOCでは、今回対戦したニュージーランド、韓国に加え、世界ランキング2位の強豪・オーストラリアが日本の前に立ちはだかる。
2023年大会でアジア・オセアニアチャンピオンに輝いた日本は、連覇を狙う。
車いすラグビー日本代表が、世界でどう存在感を示していくのか、今後も注目だ。

【試合結果】
◆7/24
日本 ○52-36● ニュージーランド
日本 ○47–42● 韓国
◆7/25
日本 ○44-38● ニュージーランド
日本 ○53-47● 韓国
◆7/26 決勝
日本 ○56–49● 韓国
【2025ジャパンパラ車いすラグビー競技大会 日本代表】
長谷川勇基 0.5★
川口健太郎 0.5
若山英史 1.0★
小川仁士 1.0★
草場龍治 1.5★
羽賀理之 2.0★
河江大輝 2.0
荒武優仁 2.5
堀 貴志 2.5
青木颯志 2.5
白川楓也 3.0
橋本勝也 3.5★
※数字は障がいの程度や体幹等の機能によって分けられるクラス(持ち点)。
数字が小さいほど障がいが重いことを意味する。
★パリ・パラリンピック日本代表